第2話 生き残る為に

※場所も時間軸も一緒ですが視点が前回と少し違いますので混乱注意お願いします<(_ _)>


――――――――――


足音がしなくなってからどれ位時間が経ったのだろうか?


『必ず助けるから……』


 そう呟き、目の前に塞がる幻に改めて左手を伸ばすと、呆気なく突き抜ける。


さわれないのか……、本当に危なかった』


 俺の目的は生き残らせる事、頭に焼き付いてる。

 それしか無いが、それが俺にとって唯一の存在意義なのもはっきりとしている。

 が、状況がわからないし、自分自身が誰なのかも分らない。

 それでも自分がこの身体を守らなければいけないと、朦朧した意識や痛みに耐えるその姿に俺は辛くなり、意識の補佐を完全に切る。

 意識の補佐を切った為、身体は眠るように気絶したようだ。

 それに合わせて目の前の木の壁になっている幻が解けるように消える。


『ここは移動しなきゃ……戻ってくるかもしれない……』


 自分の思考が足りてないのは分っているが、それでもそれ以上を考える事が出来ない事が出来ない。

 眠い時に認識を保とうと耐えるような、そんな曖昧な思考状態を感じながら、それでも分る範囲でこれ以上の被害を出さないようにだけ必死に思考を動かす。

 洞から抜け出した俺は、身体を包みきれてる事を確認して川上に向かって歩き出した。



 どれ位の時間歩いただろうか、それでもまだ安心できない気持ちの表れか今だ足を止める事が出来ない。

 所々人が通れそうに無い場所はが無理やり身体を持ち上げて通過する。

 暫く上っていると先ほど騎士から隠れていた洞の木の倍はあろうかという木が川縁に力強くそびえていた。

 しかも、その大きな木にも洞があったので取り敢えず、そこに腰を下ろした。


『うぅぅ……』


 ここまでなんとか逃げることができた事で安心したせか、一気に意識薄れていく……ダメダこのまま意識を手放したら。

 俺は急いで生命維持関わる部分に自動で維持するよう自分の体の動きを調整する。

 つながって居ない血管の代わりにつながりを作り、弱まってる心臓の代わりに血液の循環を維持するように、そして色んな失ってる部分の代わりになるように……。



『……んんっ』


 やっと、やっと思考が回復してきた事に気が付いて、意識をはっきりさせる事に集中する……回復?いや違う!今初めて自分を……俺を本当の意味で意識できた。

 自我……を?


『お、俺は……!』


 はっとして自分の体に視線を落とし、その中に透けて見える身体に意識を向ける。


『やばい!大丈夫だよな?!、何日経った??』


 分からない、ただ言える事は数時間って事は無さそうだった。

 何せ血色が悪く意識を失う前の姿から比べてだいぶんやつれて居るからだ。

 修復再生の術式が動きっぱなしなのも原因だろうと、一旦それを止める。

 まずは己の体を把握する事、与えられた指令をしっかりと把握する。


 この体は魔力で出来ているから、自由に動かせる体積が許す限り伸ばす事もできるし、守るべき身体の生命維持は組み込まれた術式でほぼ自動で行ってくれるようだから、いざと言う時には術式に任せて他の事に集中は出来そうだ。

 そして、この俺の体である魔力で形成した魔力体と言える体にはこの包み込んでいる身体の蘇生と生命維持が基幹術式に組み込まれているのだから、それに従うのが俺の使命だ。


『人の身体の組織維持に必要な物はまずは……水!川は目の前にある!』


 急いで魔力体を伸ばして川の水を採取する。

 はたと生水は人間の身体には害がある事を知識から、その理由を考え水の組成を視ると、とても目で見えないような小さな生物がうじゃうじゃと居る事に気が付き、また単純に毒に成分が有るかもわからないので純粋な水成分だけを残して分離して弾いた物を吐き出す。


『よし!これを……違う!いきなり水だけを与えるのは不味い!……と思う?』


 そんな知識が突然に警告する。

 基幹術式に組み込まれているのだろうが、こんな中途半端に思い出すようにしか知識を利用で来ないのは少し困る。

 失敗したら大事なのに……原因は分らないが、とは言え今は悩んでる暇は無さそうだ。


『何が足りない?何が危険と思った?』


 自身が包み込んでる身体や、身体から分離して俺の中の魔力体の中に漂う物を視ると身体の構成物質に近い物やそれらの老廃物と思われる物などが見て取れた。


『濃度?』


 水のみをいっきに入れたら血液内のこれらの濃度が極端に薄くなる事がダメなようだ。ならば……


『ならばこの分離され漂う物質から明らかな老廃物を除いた物を水に加えて……、直接血管に注入する?いや、それが安全なのか?……わからない。口から飲ませるべきだろう。』


 直接血管に濃度を調整した液体を入れようと露出している血管付近まで運んでいたのをやめて口内へ運ぶ。


「うぐっん、うぐっん」


 喉をならして飲み込んでくれた。まぁ結構無理やりに押し込んだのだが……。

 暫くして少しだけ血色はよくなったような気がする……気のせいだとは思うがそれでも何となく安心できた。


『次はどうする……その他の身体を構成する不足物質が必要だけど、流石にこれは……』


 先ほど水の濃度調整時に排除した老廃物を見る。

 確かに不足物質を含んではいるが、かなりの部分で変質しているのでこのまま取り込ませるわけにはいかないだろう。


『ならば』


 再び魔力体を伸ばし周囲の状況を探り届く範囲の植物類を手当たり次第取り込み魔力体内で分解し物質毎に分け集めてみた。


『これも考え無しに与えたらだめだろうな……』


 一瞬だけ思考を巡らせ基幹術式にも問い合わせてみるが、これといった方法はくれなかった。っていうか何も反応してくれなかった。

 なんだよこの基幹術式が俺に知識を与えてるんじゃないのかよ……


『方法は無しか……、そもそもダメなのは毒に成り得るからで……仕方ない、あまりやりたくない方法だが今はコレしか無いだろう』


 魔力体と身体との接続面である修復中の部位から小さいかけらを身体から抜き取り、先ほど採取して分離した物質それぞれを接触させて反応を見る事にした。

 ただ修復に栄養を使うのは今は足りない以上、逆効果だろうと一時的に停止したままで再開しない事にした、だからこそ抜き取った細胞は貴重で、できるだけ小さく無駄にしないように慎重に使う必要があるだろう。

 そうして、悪い反応が無い物だけを混ぜてから口内に運んだ。



 口内に水や植物から得た栄養を、調整しながら送り込み続けて1週間程経過した結果、一応見る感じでは一時期より確実に血色は良くなったようには思えるが、まだまだ油断はできないと言った所か……。

 この一週間摂取させた栄養素の何が何処にどのように使用されてるのかを慎重に観続けた事で、いくつかは身体のどこにどのように使われるのか大体分かってきた。

 とりあえず、今足りないのは筋肉等の素材になる栄養素なようで、少しは木の実などから摂取できてはいるがとても足りない。

 今は止めている損傷個所の修復再開には絶対に必要な栄養素だ。何せ水分以外で身体こ構成する上でほとんどを占めているのだから、その材料がなければ修復を再開できるわけがない。

 改めて魔力体を伸ばし周囲を探っていくと、本当に小さな生物が至る所に居る事に気が付きそれらも植物と一緒に回収し魔力体内で分解すると、木の実で取得できていた先ほどの栄養素より身体に近い物を手に入れる事が出来たのでそれも確保した。


『とは言え、これは数が多くても小さすぎるな……ここら一帯のを集めても十分な量は確保できそうに無い……』


 それに、もう一つ重要な懸念があった。

 血液の濃度が薄まってるのだ。

 正確には身体から分離した物から取得していた物質が、どうしても老廃物を除去するとその分でなのか、どんどん少なく成ってきているからだ


 どうした物かと溜息をこぼした時、地面すれすれの繁みの奥のギリギリ探知できる範囲に中に腕一本分位の大きさのネズミに似た生物居る事に気が付いた。

 生物!なら血も通ってるし筋肉組織などの必要な栄養素を持っている筈だ!

 千載一遇のチャンスだと思った。

 どうやらこちら側の様子を伺ってるようで、危険がないか見ているのだろう。

 俺は伸ばした魔力体を一旦ゆっくりと伸ばして、この生物が捕まえられる範囲まで入って来るように祈りながら、微動だにしないで集中する。


『……』


「……」


 ヒクヒクと鼻を鳴らしながら今だ動かずにこちらを見ている。

 お互いにまるで相手の出方を待つように睨み合ってるような時間が流れる。

 勿論本当に睨み合ってるわけじゃないが……、むしろこちらの視線に気が付かれたら逃げただろう。

 

 ほんの数十秒の事だが緊張すると長いこと長いこと。

 緊張につかれて一瞬だけ気が抜けそうになった瞬間、そいつは動いた。

 数歩跳ねるようにこちらへ近づいてきた。


 ここなら届く!


 そう思った瞬間に魔力体を細長く糸のように伸ばして一瞬で巻き取って捕まえる事に成功した。


『やった!捕まえたぞ!』


 喜び勇んでその小動物を引っ張り上げた。

 油断していた。

 想像もしていなかったのだ……自分も狙っているように他の存在が狙って居るかもしれないと何故思わなかったのだろうか……自己嫌悪だ。


 ガサガサガサ!!


 感知外の繁みの奥から2メートルほどの影が踊り出し、俺が捕まえている小動物に向かって大きな口を開けて飛び掛かってきたのだ。


『ちょ!おまえ!そいつは俺の獲物だ!離せ!』


 勿論音に出して叫んでるわけでも、言葉が通じるなんて持ってる分けでも無いのに俺は悪態をつきながら引っ張って持ち去ろうとするそいつから奪われまいと巻き付かせた魔力体を引っ張る。

 互いに獲物を渡さないと言う必死の思いで引っ張り合う。


『ざけんじゃないぞ!俺が先に捕まえたんだ!渡すものか!』

「グルルルルゥ」


 相手の唸り声が周囲に響く中お互いは一歩も引かぬ体制であったが、ふと気が付いた……


あ、こいつごと捕まえればいいやん。


 結論から言おう、別で伸ばした魔力体の糸(さっきよりは太い)で、横取り野郎の身体を巻き取り太い木の枝から吊るすように引き上げる。


「フギャァァァガルルルルゥ!!」


 意識が引っ張り合いに向いてた為か、案外簡単に吊り上げられた。

 先ほどの唸り声とは違う焦りの色の入った鳴き声を上げる横取り野郎の首を魔力体を固く刃物上に伸ばしてスパッと切り付ける。

 その瞬間、切り口から鮮血が噴き出した。


『あ、やべ!もったいね!』


 慌てて、また別の魔力体を広く薄く伸ばし飛び散る鮮血を残さず受け取る。


『大事な栄養素を無駄にする所だった!』


「ウガァァ…ァ……」


 やがて横取り野郎の声は小さくなり、完全に聞こえなくなった所で伸ばした魔力体を引き戻し、端から分解して取り込んでいく……


 これ、全部はすぐに取り込めないな……


 四分の一程を分解したところで、一旦分解は止めても血液だけは先にと魔力体をこの獲物の体内へ血管を通して奥へ突っ込み、すべてを吸い出した。

 残った部分は川に沈めて置けば少しならもつだろう。



――――――――――

猫電話キャットテルです!

2話目もご覧いただき有りがとうございます!


まだまだ本番は始まりませんが次回も宜しくお願い致します。


又、宜しければフォロー頂けると幸いです!


◇次回 生きる魔法


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相方は魔力ですが生きてます。 猫電話 @kyaonet

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