相方は魔力ですが生きてます。

猫電話

ヴィア・イファ・ラガーフ編

第一章 魔力ですがなにか?

第1話 プロローグ

ガタガタガタガタガタガタ


 右は反り立つ壁のような崖壁、左はそんなに高いわけじゃないけど落ちたら十分に死にそうな高さの崖がすぐ側を、限界ギリギリの速度でてひた走る馬車が一台。


ガガガガタガタガタ!ガツン!


 少し大きな石を踏んだのか、車輪が跳ね上がった。

 馬車は運よく立て直したしてそのまま突っ走る。


『あう!今、舌噛みそうになったぁ!』


 まだ成人して間もない年頃の若い女性が馬車の御者台で手綱を握りながら心の中で叫びながら、今にも分解しそうな程に揺れる馬車を必死に立て直す。


ヒュン!


 頬を矢が掠めて通り過ぎる。


「ひっ!」


 怖い怖い………。

 

 いつかこうなる事は分かってた。

 今日がその日になっても不思議じゃ無い事も知ってた。

 恐らく初めからそのつもりだったのだろう、完全に計画的な襲撃だった。


 どうしても急ぎで馬車でも1週間かかる都市に向かって王都を離れなければならなくなって、その道中の野営中に深夜に襲われた。


 そもそもが、最初からこの急用も兄が仕掛けた事なのは知っていた。

 でも、だからといって私には看過できない問題が発生している以上は放置は無い。

 兄はそれを分かってて卑怯な手に出た。

 兄が卑怯な事は今更で論じても意味は無い。


 護衛騎士達に促される形で私を乗せて走り出した馬車は入っては成らない不帰かえらずの森に向かって一直線に進み、森に入る直前に御者台を飛び降りて逃げて行った為、気が付いたらもう私自身で手綱を握っても奥に向かって進むしか逃げ道が無かった。


分かっている!危険な事をやっている事は理解していたの!

でも、怖いものは怖い!死にたくない!だから死なない様に色々準備もしてきたのよ!

なのにコレ!


「あっ!」


 左腕に痛みが走って、慌てて目をやったら、一本の矢二の腕を突き抜けるように矢が刺さってた。


「いたっ!」


 思わず焦って右手に握った手綱を一緒に矢が刺さった左腕を庇うように引っ張ってしまった。


「ヒィィイン!!」


 手綱を急に引かれて驚いた馬が前足を跳ね上げバランスを崩して、その勢いで馬車その物も思いっきりバランスを崩す。


「だめ!」


 まずいまずい!そっちは崖よ!落ちちゃう!!!だめぇぇぇ!。


 必死に立て直そうと逆に向かって手綱を逆に引くが、最早馬はパニックになっていて言う事を聞いてくれない。

 馬は左の崖下へ向かって一直線。当然そうなれば自分の乗ってる馬車も崖下へ一直線だ。


「ヒヒィィィンン」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 そう叫んだ時には既に手遅れだった、もはや馬車は空中に踊り出してしまった。


『落ちる、落ちてるぅぅぅぅ!!!』


 崖から飛び出した馬車は先に進む馬と共に地面に向かって落ちて行く……。

 私が気を失う前に見た光景は、御者台から投げ出された私に馬車の一部が迫っている光景だった。



ここはどこだ……?

私は……?

俺は誰……?

目の前に半分崩れた馬車が見える。

ボロボロな馬車だ。

今自分は何を見ているのだろう……

右足は……感覚が無い…

左足は……痛くて動かせない……

右目は……見えない……

左目は……少しボンヤリしているが見える……

右手は……前に出ない……

左手は……二の腕がズキズキと痛むけど少しは動かせそうだ。


『逃げなきゃ……』


痛む左手を前にゆっくりと出し、身体を引っ張る。

ズルリ……

動かない右手を無理やり前に出す……

右手は真っ黒だった。

その真っ黒な右手で左腕に刺さった矢を引き抜き、その後身体を引っ張る。

痛む左足を前に折り曲げる……足首が痛い……太も腿も痛い……

左足を足元の岩に踏ん張って身体を前に出す。

ズルリ……

ズキリ……左頭が疼いて居る。痛い……思考が纏まらない……

感覚のない右足を前に折り曲げる。

力尽くで身体を前に押し出す。

ズルリ……

痛い痛い痛い頭が痛い、左手が痛い左足が痛い……

だめだ駄目だダメダ、痛いのは駄目だ!俺で包まなきゃ。

俺の体で私を包んで守らなきゃ。


『逃げなきゃ……逃げなきゃ……絶対に死ねない……から……』


ズズズズズズ……包んだ、いや包んでた、でも全部じゃない。

赤い液体が流れ出ていない場所は包み切れてなかったけど、痛がるからそこも包んだ。

だからもう大丈夫。


「ゲホゲホゲホ」


 右肺が上手く動かない。

 その上まるで水を間違って吸い込んだような感覚に強い咳をすると、咳とともに血を吐き出した。

 吐き出した血はそのまま地面に落ちず黒い靄に吸い込まれる。

 私は息を整えながらなんとか立ち上がる事が出来たので、目の前に見える壊れた馬車へ向かう。


「何か……何かあれば……ゲホ」


 なんとか馬車に着くと左手で客車部分の扉を開く。


「はぁはぁはぁ」


 整いきれない荒い息をしながら車内を見渡すが、窓に張り付いたカーテンがはためく位でめぼしい物は無かった。

 びりびり!

 一番手元の窓にかかるカーテンを破り取り左腕に巻く。


「他に何か……」


 車内から外にでて周囲を見渡すと、壊れた馬車の柱が目に着いたのでそれを右手に取った。


「!」


 遠くで馬の嘶きが聞こえた気がした。

 崖の上じゃない。崖に沿った森の奥だ。


「来てる!ダメ!逃げなきゃ、ゲホゲホ」


 急ぎ、先ほど手にした馬車の柱を杖替わりにいななきの聞こえた方角とは反対に歩きだした。



 暫く進んでいると水の流れる音が聞こえて来たのでそちらに向かう事にして痛む左足を動かす。


「思った程痛くない…とにかく進まなきゃダメ」


 水の音に向かって少し進むと、思ったより大きな川が流れていた。


「喉……乾いた……飲める水かしら……ゲホ」


 滑り落ちないようゆっくりと川縁に近づいて行こうと……


 ボキリ!


「あ!」


 杖にしてた柱が折れて身体が一瞬浮いたと思ったらそのまま前転のように転がり川の中へ……ボチャン!


『おぼれるおぼれるおぼれる!』


つかむとこつかむところ!つかむところー!


 慌てて両手を色んな場所に向けて掴む物を探して振り回していたら、なんとか草っぽい物が手に当たったので必死にそれを掴み身体を川から引き上げる事になんとか成功した。


「ゲホゲホゲホ、もうやだぁ!私なんでこんな事してるのぉ」


 なんとか這い上がり、疲れた身体を休めたく目の前に見えた大きな木の洞に身を投げ入れて膝を抱えてえぐえぐと泣き出してしまった。



「居ないな……」


 馬から降りた騎士姿の男が壊れた馬車の周囲を見渡しながら言う。

 周囲には彼以外の騎士姿の者たちが5名程同じように馬から降りて周囲を探っている。


「アルフ隊長、こちらの岩の所に引き摺った後と、血痕が有ります」


 アルフ隊長と呼ばれた男が岩の側にしゃがんで血痕を調べるように指を伸ばす。


「おい、この血痕を集めて置け、戻ったら魔導士に調べさせろ」

「はっ!」


 一人の騎士にそう指示を出してアルフは引き摺った後のに目線を移す。


「馬車の方に引き摺ってますね……ですが途中で途切れてます……立ち上がったのでしょうか?」


 指示を与えた騎士とは別の騎士がアルフにそう話しかける。


「どうだろうな……魔物か野生動物が連れ去った可能性も有る……」

「そうでしょうか……血痕もそんなに多く無いですし……」


 そう言われながらアルフは自分達が来た方角とは違う方角の森に視線を向け草木の状態に目を凝らす。


「あっちに何か進んだ痕があるな・・・おい、お前着いて来い少し奥を調べる」

「え?あ、はい!」


 アルフは一人の騎士を連れて僅かに地面の草が踏まれたような跡と細かい枝が折れている繁みの奥を調べてみる事にした。



「はぁはぁはぁ……ゲホゲホ」


 息切れが全然治らないのか、いつまでも荒い息をさせたまま足を抱えて蹲ってる。

 眩暈がする、ここが何処なのかわからない、自分は誰なんだろう、逃げなきゃいけない事だけは分る。怖い事だけは分る。


「いやだよぉ……怖いよぉ……ゲホッ」


 ガサリ!


『誰か来る!誰か来てる!』


 草を踏む音が近くで聞こえて身体が縮こまって震えが襲って来た。


「隊長!こっちに滑り落ちたような跡があります!」


直ぐそばにきてる!


「ここから落ちたか?」


見つかる!


 咳をしそうな口を必死に押えて祈る。


「隊長、やっぱり自力でここまで来てますよ。」


逃げ切れない!


「ああ……、この川……レッサーケルピーが居るな……」

「え?マジですか?!」


隠れなきゃ!


「向こうの川岸見てみろ、分り辛いが巣があるぞ」

「本当ですね……」


隠れる方法!何か!


「レッサーケルピーが引き摺り込んだのかもしれんな」

「マジっすか?!あいつらメンドくせーじゃないですか!無駄に巣を色んな所に作るから、今何処居るか探すのって一苦労ですやん!」


幹を、洞を隠さなきゃ……


「見つけるのは無理だな……、ん?あそこの大きな木の陰……川縁が少し濡れてるな……」

「隊長……?」


 アルフはその大きな木の陰が気になって回り込んで覗き込む。


 自然と無意識に近い形で何か小さい声で紡ぐ……


「何もないっすね?」

「ああ……」


 確かに何も無い……濡れてる部分は大きな木の根元には続いてるがそこで終わってる。

 女性は洞の中で両手を前に突き出して固まっているが、外からは洞などそこには無く立派な木の幹があるだけだった。


「もしかして滑り落ちた川から上がって、この木で休んでたのでしょうか?」

「それならここだけ濡れてたるのも変だな……それに左右どっちにも痕が無さそうだ」


 ふと木を見上げてその先に視線を向けるが、空の見えない程の量の枝に鬱蒼とした葉が茂ってるだけで、静かに風揺れていた。


「レッサーケルピーの仕業かもしれないな……」

「再度引き込まれたんですかね……、それじゃ回収は難しいっすね……」

「……そうだな……戻るぞ!」

「はっ!」


 アルフの部下は戻るっと言う言葉にとても嬉しそうに敬礼する。

 そうして二人はその場から去っていった。



――――――――――

はじめまして猫電話キャットテルと申します。

拙いながら楽しめる作品を作っていきたいと思いますので宜しくお願い致します。


何はともあれフォローしていただける事を目指して頑張ります!


◇次回 生き残る為に

次回から、第一章は全て視点が変わります。

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