相方は魔力ですが生きてます。
猫電話
ヴィラの修道院 編
第一章 魔力ですがなにか?
第1話 プロローグ
ガタガタガタガタガタガタ
右は反り立つような岩壁、左は落ちたら十分危険な高い崖、そんな細い山道を車体を
その後ろを追いかける騎馬の影が五つ。
ガツン!
道は整備されていないようで荒れ果てておりガタガタだ。
馬車は何か塊を踏んづけて一瞬車体が跳ね上る。
「きゃ!」
小さい悲鳴を上げるのは、御者台に乗る十代後半の少女
「もうやだぁ!」
馬車はどうにか立て直して走り続けるがいつ横転しても不思議では無い程に激しく揺れている。
ヒュン!
そんな馬車の手綱を泣きそうな顔で操る少女の頬を矢が掠めて通り過ぎる。
御者台か高めに作られてる構造の為に客車が後方に対しての壁になってくれない。
「ひっ!」
怖い怖い………。
分かっては居たけどやっぱりこうなったかー!ってのが本音。
本来向かっていた街は王都にもっとも近い辺境と言われる都市で、私に援助してくれてる数少ない貴族の一人、バシレイア辺境伯爵の領地内で最大の貿易都市。
王都から北東に整えられた街道を馬車で一週間の距離に有るが、そのすぐ北には隣国サクステリア共和国が有り古くから小競り合いが起こる国境の街。
街はそのサクステリアへの防壁砦の後方支援の役目も有る。
そんな街へ明日には到着する予定だった深夜の野営地で急襲された。
「んもー!明日までおとなしくしててよぉ!」
泣き言に近い言葉を吐きながら私は手綱を握る。
明日には街に着いていたのに!っと叫ぶが、だからこそ襲撃者はこの夜を選んだってのは分かって居てもそう思って許されるだろう。
街の修道院に庇ってる女性達に危険が迫ってる。と言う話を聞いたのが三日前で、その急報に私は駆けつけるべく急いで居た。
それが罠だって事は私だって直ぐに考えたけど、彼女達はあの地獄から救い出した私の責務として放り出す事だけは許されない。
罠と分かってても飛び込むしかなかった。
私が王都から急ぎ駆けつけて間に合うタイミングと言う時点で罠以外あり得ない。
連れて行けた護衛は四人しかおらず、その四人も既に側には居さない。
本来の御者も襲われた時に早々に逃げ出してしまった。
「うぎゅ!」
左腕に痛みが走ってそちらへ視線を向けると矢が腕を貫通して刺さってた。
「いっったー!」
思わず手綱を握ったままの右手で、左腕の矢を引き抜こうと引っ張ってしまう。
「ヒィィイン!!」
手綱を急に引かれて驚いた馬が前足を跳ね上げバランスを崩す。
そして、その勢いで馬車が横転しそうになる。
「だめ!」
必死に立て直そうするが、既に制御を離れてパニックになった馬は言う事を聞いてくれない。
そして馬はそのまま左の崖へ向かって倒れ込むように足を踏み外す。
当然そうなれば馬車本体も私を乗せたまま崖下へ一直線だ。
「ヒヒィィィンン」
もはやどうする事も出来ずに私は馬車と共に空中に放り出されてしまった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
崖から飛び出した馬車は先に進む馬と共に地面に向かって落ちて行く……。
私が気を失う前に見た最後の光景は、御者台から投げ出された私に向かって馬車の一部が迫って来る光景だった。
◆
ここはどこ……?
私は……俺は誰……?
目の前に大破した馬車が見える。
自分は何を見ているのだろう……。
右足は……感覚が無い…。
左足は……痛くて動かせない……。
右目は……見えない……。
左目は……少しボンヤリしているがなんとか見える……。
右手は……前に出ない……。
左手は……二の腕がズキズキと痛むけど少しは動かせそう。
『逃げなきゃ……』
痛む左手を前に出し、ゆっくりと身体を引っ張る。
ズキリ
動かない右手を無理やり前に出す。
右手は真っ黒だった。
その真っ黒な右手で左腕に刺さった矢を引き抜く。
『いっ!』
痛みで左目に涙が浮かんでただでさえボンヤリした視界がよけいにボンヤリする。
矢を投げ捨てて右手でまた身体を引っ張る。
痛む左足を前に折り曲げ地面から少しだけ顔を出す岩に掛ける。
足首が痛い……太腿も痛い……
左足で足元の岩を踏ん張って身体を前に出す。
ずりっ……
岩は何かで濡れており足が滑る。
ズキリと左頭が疼く。
痛い……思考が纏まらない……
感覚のない右足を前に折り曲げる。
何かに足を掛け力尽くで身体を無理やり前に出す。
ズルリ……
痛い痛い痛い頭が痛い、左手が痛い左足が痛い……
だめ駄目ダメ、痛いのは駄目だ!俺で包まなきゃ。
俺の体で私を包んで守らなきゃ。
『逃げなきゃ……逃げなきゃ……絶対に死ねない……から……』
黒い靄は後ろにある四角柱の小さな岩と繋がってるように見え、その四角柱
から黒い靄が湧きだしてその量を増やす。
ズズズズズズ……包んだ、いや既に包んでいた。
でも全部じゃない、赤い液体が流れ出ていない場所はまだ完全に包めていない。
でも痛がるからそこも包んだ。
だからもう大丈夫。
「ゲホゲホゲホ」
右肺が動かない。
その上、まるで溺れたように息が出来ない感覚に強い咳をすると、咳とともに血が口から噴き出した。
吐いた血はそのまま地面に落ちず黒い靄に吸い込まれる。
俺は息を整えながら、なんとか立ち上がる事が出来たので目の前に見える壊れた馬車へ向かう。
馬車の側にはこと切れた馬も寝そべっている。
「何か……何かあれば……ゲホ」
なんとか馬車に着くと左手で客車部分の壊れた扉を開く。
「はぁはぁはぁ」
荒い息をしながら馬車内を見渡すが、窓に付けられたカーテンがはためいてる位でめぼしい物は無かった。
「取りえずはコレを……」
びりびり!
手前の窓にかかるカーテンを破り取り左腕に巻く。
「他に何か……」
車内から外にでて周囲を見渡すと、馬車から外れた車輪の支柱が目に着いたのでそれを左手に取った。
「!」
遠くで馬の嘶きが聞こえた。
崖の上じゃない、崖下に沿った森の奥だ。
「来てる!ダメ!逃げなきゃ、ゲホゲホ」
先ほど手にした馬車の柱を杖替わりに
◆
暫く進んでいると水の流れる音が聞こえて来たのでそちらに向かって痛む左足を引き摺って向きを変える。
「とにかく進まなきゃ……」
水の音がする場所には思ったより大きな川が流れていた。
「喉……乾が……飲める水かしら……ゲホ」
滑り落ちないようゆっくりと川縁に近づこうと左手の支柱を支えに身体を傾ける。
ボキリ!
「あ!」
その瞬間、中央部分から支柱が折れて身体が一瞬浮いたかと思ったらそのまま前転するように川の中へ転がり落ちる。
バシャン!
『だめ!おぼれる!』
慌てて両手を振り回して掴む物を探し、なんとか草っぽい何かが手に触ったのでそれを右手で掴んでそのまま身体を川から引き上げる。
「ゲホゲホゲホ、もうやだぁ!」
すんなりと這い上がり、疲れた身体を休めたく目の前に見えた大きな木の洞に身を投げ入れて膝を抱えてえぐえぐと泣き出してしまった。
■
「居ないな……」
馬から降りた騎士姿の男が壊れた馬車の周囲を見渡しながら言う。
周囲には彼以外の騎士姿の者たちが四名程、同じように馬から降りて周囲を探っている。
「アルフ隊長、こちらに引き摺った後と血痕が有ります」
アルフ隊長と呼ばれた男がしゃがんで足元の血痕を見つけて指を刺す。
「……その血は集めて置け、戻ったら魔導士に調べさせる」
「はっ!」
部下にそう指示を出してアルフは引き摺った後に目線を移す。
「標石?」
血痕の中に小さい四角柱の岩を見つけて疑問形で呟く。
「馬車の方に引き摺ってますね……隊長?」
「あ?……ああ」
部下に呼ばれて我に返って振り向いた時には四角柱の事は頭から抜け落ちた。
「……?、馬車に向かって引き摺ってますが途中で途切れてます……立ち上がれたのでしょうか?」
引き摺った後を調べていた部下がアルフにそう言う。
「……他に何か痕が無いかよく周囲を調べろ」
「分かりました……それにしても、あの崖から落ちて立てる程度の傷だったんでしょうか?」
アルフは部下の言葉に僅かに不快そうに眉間に皺を寄せて森の奥に視線を向けるる。
そして見渡した木々の隙間に草木に踏みつけたような僅かな後を見つける。
「あっちに何か進んだ痕があるな・・・おい、お前着いて来い少し奥を調べる」
「え?あ、はい!」
アルフは一人だけ連れて地面の草が踏まれたような跡と細かい枝が折れている繁みの奥へ向かった。
■
「はぁはぁはぁ……ゲホゲホ」
息切れが全然治らなくて私はいつまでも荒い息をさせたまま足を抱えて
眩暈がする。
ここが何処なのかわからない。
自分が分からない。
自分は誰なんだろう。
ただ恐怖から逃げてる事だけがわかる。
ガサリ!
『誰か来る!』
草を踏む音が近くで聞こえてびくっと身体が縮こまり口を押えて震えに襲われる。
「隊長!こっちに滑り落ちたような跡があります!」
近くに来ている!
「ここから落ちたか?」
このままだと見つかる!
咳をしそうな口を必死に押えて祈る。
「隊長、やっぱり自力でここまで来てますよ。」
逃げ切れない!
「そうだな……ん?、この川……レッサーケルピーが居るな……」
「え?マジですか?!」
隠れなきゃ!
「向こうの川岸見てみろ、分り辛いが巣があるぞ」
「え?どこですか?……本当ですね……」
隠れる方法!何か!
「レッサーケルピーが引き摺り込んだのかもしれんな」
「マジっすか?!あいつらメンドくせーじゃないですか!無駄に巣を色んな所に作る上に、気分で使う巣を変えるから探すの苦労しますよ!」
私が洞を隠さなきゃ……
「連れ去られてたら見つけるのは厳しいな……ん?あそこの大きな木の陰……川縁が少し濡れてるな……」
「隊長……?」
アルフはその大きな木の陰に回り込んで来る。
少女は無意識に近い形で小さい言葉を紡ぐ……
『光を司る精霊よ
「何もないっすね?」
「ああ……」
覗き込んだそこには何も無かった。
濡れてる部分は木の根元には続いてるがそこで終わっている。
女性は洞の中で両手を前に突き出し硬直したまま小刻みに震えている。
外からは洞などそこには無く立派な木の幹があるだけだった。
「もしかして滑り落ちた川から上がって、この木で休んでたのでしょうか?」
「それならここだけ濡れてるのも変だな……それにどっちにも濡れた後が無い」
アルフは幹の左右の地面に目をやって確認したが濡れた痕跡は見当たらなかった。
ふと木を見上げてその先に視線を向けるが、空の見えない程の量の枝に鬱蒼とした葉が茂ってるだけで、静かに風揺れていた。
「レッサーケルピーが休んでたんですかね?」
胡乱な目で部下を見てアルフは溜息を一つ落とす。
「……見つかりそうにないな……戻って引き上げの準備をさせろ陣地へ戻るぞ!」
「はい!」
アルフの戻ると言う言葉に部下はとても嬉しそうに敬礼した。
――――――――――
こんばんわ
最初に公開した文章はあまりにも酷かったので全部書き直しました。
本当に申し訳ございません<(_ _)>
書き直しても、正直稚拙な文章だとは思いますが……
皆さんにフォローしていただけるように頑張ります!
◇次回 生き残る為に
今回は少女目線>何か別の目線でしたが、第一章は全て別の何かの目線で進めます。
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