祈ろう

呪うことの意味を見失ってしまった俺は日和の手を握ったまま動けなくなった。


「なあ、日和。俺はどうすればいい?」


返事が返ってくるはずはない。でも話しかけてしまう。


「俺はこの世界を呪い尽くした。でも何にもならないんだよ。なあ神様、いるならひ日和を起こしてくれよ。少しでもいいから話したい。いや、話せなくても目を開けて笑ってくれるだけでいい。日和の笑顔が俺の太陽なんだから」


 もう俺にはなんにもできることがなかった。呪うこともできない。そう嘆いていると、


「もう呪わなくていいよ。そんな物騒なことしなくていいよ」


そう日和の声が頭の中で響いたような気がした。でも俺は何かを日和のためにしたかった。そして思いついた。


「祈るか」


何に対してでもない。どんな効果があるかも関係ない。だただた祈ろう。そう思った。目を開けてくれ。どうか…どうか…


その日から、俺の『呪い』が『祈り』になった。


 そして事故から1年後、同じように日和の手を握りながら祈っていると握っていた日和の手に少し力が入ったような気がした。

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君と一緒にこの理不尽な世界で… 功琉偉つばさ @WGS所属 @Wing961

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