呪ってやる
それはあまりにも突然やってきた。なんの前触れもなく、ただ一瞬にして俺にこの世界は理不尽で出来ているとわからせた。
日和は俺の幼馴染にして最高の彼女だった。ほぼ生まれたときからずっと一緒にいた。幼稚園、小学校、中学校、そして高校までずっといっしょにいた。俺達が付き合い始めたのは中2の頃、宿泊学習のときに俺から告白した。返事は一瞬。なぜって、幼稚園の頃に、
「私、悠と結婚する!」
「僕も日和と結婚する!」
悠とは俺のことだ。
という感じで子供ながらにも未来の約束をしていた。俺は道端に咲いていたたんぽぽを日和にプレゼントして、モールで指輪を作ってあげたのを覚えている。
それからの3年間は青春を謳歌している幸せの最高潮にいた。朝から晩までずっと日和と一緒に行動した。もちろん、親も公認のカップルだったので、朝は一緒に登校して帰りは一緒に帰る。そんな生活をしていた。
でもその日は突然やってきた。
ある日、俺は先生に呼び出されて日和と一緒に帰れなかった。先生との話は長引き他の生徒は帰されてしまった。もちろん、俺を待っていてくれた日和もだ。先生の話とは、俺が学校を代表してイギリスの姉妹学校に留学しないかという話だった。もちろん俺は断った。俺一人でいかないといけないやつらしく、日和と離れるのが嫌だった。
そしてもう日が暮れて真っ暗になり、急いで家に帰ると家には誰もいなかった。不思議に思って隣の日和の家にも行ってみたが誰もいなかった。そして学校では使えないスマホを見てみるとたくさんの連絡が来ていた。
日和が車に轢かれた。というとだった。急いで病院に向かったが、もう手遅れの状態だった。日和は頭を強く打ち、視床下部と脳幹とやらがやられてしまっていわゆる『植物状態』となってしまった。
生きてはいる。俺は泣きながら日和に近づき、その手を握るといつも握っているのと同じ手だった。小さくて柔らかくて、そして温かった。でも一つ違うのは僕が握っても握り返してくれない。顔を見るといつもの優しい寝顔だった。
「日和…日和?」
俺が肩を叩きながら話しかけても返事がない。その茶色くてふわふわしている髪を触ってもいつもは
「そんな簡単に触らないの〜 気安く触っていると価値下がるよ〜」
なんて可愛く、それでも嬉しそうに怒ってくれた。でも今は怒るどころか目さえ開けてくれない。そこで俺は壊れた。
「よりによってなんで
心の底から本音が出てくる。
「別に他の誰かでも良かっただろ」
言ってはいけない。でも言わなければやっていけない。
「一人で死にたいやつなんかいっぱいいるだろ」
やめようと思ってもどんどん溢れてきてしまう。
「なんで日和なんだよ。クソッ、ふざけんな。日和がなにかしたか?俺がなにかしたか?」
もう止めることは出来ない。
「なぁ神様いるなら出てこいよ。あ゙ぁ? おい。出てこれねぇのか?」
何も起こるはずがない。
「ったく。理不尽すぎるだろ!この世界は。呪ってやる。俺は、俺が俺として認識できている間はこの世界を呪ってやる。なあ日和。この理不尽な世界を一緒に呪おうか」
そう動かなくなった日和の手を握りながら俺れはそういった。
それから毎日、俺は日和のもとに通い詰めた。はじめの1ヶ月は学校にも行けず、ずっと日和と一緒に病室にこもっていた。
ご飯もあんまり食べれていないとき、頭の中で
「もう、悠。ご飯はしっかりと食べなきゃいけないよ」
なんていう日和の声が響いてきた。流石に日和の言うことは聞かないといけないのでそれからしっかりとご飯を食べるようにした。
でもこの理不尽な世界への苛立ちは無くならない。事故が起こった時の話を聞くと、日和は帰り道、道路でころんだ小学生を見つけたのだという。そしてその道路の先には走って突っ込んでくるトラックが見えたのだという。そして日和はその小学生を押し出して自分はトラックに轢かれたのだという。
トラックの運転手は過失運転致死障害で逮捕され、小学生の子は助かったのだという。日和は体に目立った傷はないものの頭を強打してしまった。
なんで小学生が助かって日和がこんな状態にならないといけないんだ。 思ってはいけない。でもそう思ってしまう。なにも小学生が悪いなんて言わない。トラックの運転手もかわいそうに、死角だったため見えなかったのだという。実際、裁判でもそのように弁護人が言っていた。
だからトラックの運転手も許せないわけではない。許せないのはこんな運命を作ったこの世界、神様だ。理不尽にもほどがある。この世界には死にたい人なんかたくさんいる。なんでそういう人にしなかったんだ。なんで日和を…
「はははっ どうやったらこの世界を呪えるかな?運命が正しく回ってくる世界に…」
偶然なんてない。全ては必然なんだ。と誰かが言ったような気がする。
無駄には無駄なりの意味がある。と誰かが言った気がする。
じゃあなんだ?日和がこうなることは仕方なかったのか?こうならなければ行けなかったのか?
俺はこの苛立ちをベッドの中で言葉にしてぶつけることしかできなかった。言霊なんてものはもう関係ない。人々を救う神なんてこの世界には存在しない。
行き場のない思いは『呪い』という言葉にしかできなかった。
◇◆◇
俺は半年間、色々と『呪い』の本を探してはこの世界を呪っていった。なんやら変な魔法陣を書いたり、藁人形を使ったり… でもそんなことをしても世界は変わらなかった。
「なあ日和。俺はこれからどうすればいいんだ? お前は確かに生きている。もしかしたら耳が聞こえているかもしれない。でも俺にはわからないんだ。お前が今どんな状況なのか。どうすればまたお前と話せるのか…」
俺は日和の手を握った。
「この世界を呪うことに意味はあるのかわからなくなったよ…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます