第5話 ヴィークは浮かぶ。


 マガミは、自宅の庭においておいたヴィークと駆け寄る。そのヴィークは、なぜだか暖かな光を展開していた。


「ヴィーク……?」


 マガミは首を傾げるが、次の瞬間また激震が走る。マガミが振動のした方を見れば、そこには甲虫型のメルフがのそりのそりとメルフ近づいていた。


 もはや、細かいことを気にしている時間はない。


「っ!」


 マガミはヴィークへ駆け寄り乗り込む。


 少し狭っ苦しいコクピットに深く腰を下ろして、操縦桿を握る。するとハッチが降りて画面が展開し、【起動】の二文字が現れる。


「よし……こいつだってHFなんだ!やれるだろう?」


 マガミがタッチパネルに操縦桿を慣れた手つきで操作する。すると、ヴィークの脚がガバリと開き、中から三角錐の噴射口のような物が露となる。


 次の瞬間、噴射口から火を拭きながらヴィークは飛び立つ。その体に、青白く暖かな光を乗せたて、身体から零しながら。


 その暖かな光とそれをこぼすヴィークの姿を、村のシェルターへと向かう全ての人が見た……無論イチカにカルラもだ。


「マガミ……?」


イチカが零した言葉は、誰にも届くはずもなく、風とともに消えていった。



  ヴィークはふわふわと浮かぶような独特な軌道を描きながら、浮かび上がるドームを抜けて行く。


 しかし、コクピットの中マガミは多少困惑をしていた……今までマガミは、ヴィークを動かすときは陸地を歩かせるだけにとどめていたのだ。


 それを、……何故か


 無論、マガミはHFを浮かせた経験なんてない。それが、こうも簡単に、本能的にわかってしまうことに、マガミは多少の不気味さを覚えた。


「これは……いや、今は気にしてる場合じゃねぇ。たしかコイツには内蔵武器が!」


 マガミが慣れた手つきでコントロールパネルと操縦桿を動かす……するとヴィークのバックパックから有線で繋がれた2丁の拳銃のような武装――フォトンバレットが飛び出して、ヴィークの手に収まる。


「よし……残弾は……」


 マガミはとっさに残弾を確認する。すると、そこに映し出されていたのは………


「む、無限!?」


 マガミは誤表記かと思ったが、兎に角打ってみるしかない。


「やってやるしか……ない!」


ヴィークはフォトンバレットを手に持って、引き金を引けば近づく羽虫型のメルフを次々と撃ち抜いていく。


 幸いロックオン機能は効いているようで、ある程度敵に標準を合わせれば後は自動でロックオンしてくれる。


 引き金を引けば面白いほど羽虫は落ちていく……残弾の表記は変わらない。無限というのは本当のようだ。


 なぜ無限なのか?色々考えたいこともあるが、それよりもまずは目の前の敵だ。


 取り巻きだけを始末していてもしょうがない。狙うは本丸だ。


「やってやらぁっ!」


 マガミはヴィークを操作して、羽虫を避けながら甲虫型のメルフへと近づき、フォトンバレットを放つ。


 放たれた反射粒子の弾丸は、確かに甲虫型に凄まじいダメージを与えている。先程のナタクスの攻撃とは比べ物にならないほどの衝撃が甲虫型メルフを襲う。


 だが、メルフも黙ってやられるわけではない。また剣山の様に棘が浮き出ると、ミサイルの様に放たれる。


「またかっ!……避けてみるしかないっ!」


 マガミはヴィークのエンジンをフルスロットルにして、スピードを上げながら天空へと飛び上がる。


 それを追いかけるように放たれたメルフの棘もヴィークへと向かう。


 ヴィークは高速で天空へ向かいながら、フォトンバレットで棘を確実に撃ち抜いていく。


 明らかに無茶な軌道だ。普通はGで身体がめちゃくちゃになってもおかしくないが……


(ぐっ……キツイ……が!耐えられないほどじゃねぇ!)


 そう、間違いなくキツイ……だが、なんと訓練もしていないド素人のマガミが耐えられるほどにはGが軽減されているのだ。


 この機体、普通ではないことは明らかだが、今は気にしている余裕はない。マガミのヴィークは、無茶な軌道を描きながら空へと浮かび、フォトンバレットの連発を迫りくる棘と甲虫型メルフへと浴びせる。


「GYAAAAAAS!!!」


 メルフは苦しそうな声を上げながら、体の一部を粒子化させる。棘もまた反射粒子によって粒子へと変わっていく。

 

 だが、小型のフォトンバレットでは圧倒的に火力が足りないのは明らかだ。


「くっそ……何か決定打はねぇのか!?」


 もっと確実に、高出力で相手を仕留められる兵装……マガミはそれを探していると、コントロールパネルに一つの武装が表示される。


「フォトン、ブレード……?接近戦武器か……やってみるしか、ない!」


 マガミは固唾を飲み込んて覚悟を決めると、フォトンブレードを起動させる。


 すると、ヴィークの手に持っていたフォトンバレットが折りたたまれ、その銃口から反射粒子で出来た銀色のブレードが現れる。


「どぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 マガミは雄叫びと共にヴィークを操って羽虫共を両手に持ったフォトンブレードで切り裂きながら甲虫型のメルフへと向かう。


 甲虫型のメルフは鈍重な動きでよけようとするが、圧倒的にヴィークの方がスピードは上だ。


 ヴィークはブレードを2本甲虫型メルフへと突き立てる。


「ぶった斬るッ!」


 その叫びと共に、ヴィークは2本のブレードを大ぶりに振るって甲虫型メルフを切断する。


 切断されたメルフは、切られた傷口から粒子化しながら再生することもままならずに粒子となって消滅する。


 すると、ボスを失った羽虫型のメルフは慌てたような動きで何処かへと飛び去っていく。何匹かはドームに引っかかって粒子とかしてしまった。


 マガミは、まだ自分がメルフを倒したという実感が掴めないままぜぇはぁと息をついていた。


「やった……のか?」


 そう、マガミはやったのだ。メルフを撃破してみせたのだ……それも初めての戦闘でだ。

 

 しかし、なんだろう。胸はまだ高鳴っている……緊張とはまた違う。この全能感や多幸感は……マガミは、静かに言葉を漏らした。


「俺は……楽しんでる、のか?」


 傍からみても、その戦い方は初めての人間のそれじゃない。明らかにある程度戦い慣れた人間のそれだった。


「……お前、なのか……?マガミ?」


 イチカは、跪いて立ち上がるヴィークをみて、パイロットであろうマガミの名を呼んだ。


 なにはともあれ、これでメルフは撃破することができた。もう危険はない……そうして、村の人々はみな安堵した。








 次の瞬間、ヴィークが背後からワイヤーで巻きつけられるまでは。


「っ!?マガミぃ!」


イチカの絶叫が、静かな村に木霊した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小さい村で作業用に使ってた人型兵器はオーパーツ〜すいません、それ扱えるの俺だけなんです〜 土斧 @tutiono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画