第4話 メルフの襲撃
あらゆる物質を吸収し、己の糧とする金属生命体メルフ。そのメルフの魔の手が、マガミの住むクラフ村へと押し寄せていた。
突如現れた甲虫型メルフは、ノシノシと鈍い動きでありながらも確実に村へと進んでいた。羽虫型のメルフは、そんな甲虫型をおいて真っ先に村へと突き進んでくる。
だが、村の方も何の対抗策もないわけじゃない。
次の瞬間、村全体を覆い尽くすドーム状の光が現れた。そこに突っ込んでいった羽虫型のメルフは、次々と光の粒子となって消えていく。
これは、各村の基本装備とも言えるドーム状の防護フィールド。反射粒子ドームだ、このフィールドを展開することによって、メルフはドームの中には一切近づけなくなるのだ。
しかし、メルフも火に無理矢理飛びかかるような真似はしない。所詮は、撃退態勢が整うまでの時間稼ぎにしかならない。
それに、ドーム自体もも長く持つわけではない。一刻も早く迎撃態勢を整えねば……
「HFと固定砲台を展開しろ!」
「くっそ!?祭り時にメルフなんて!」
「嘘だろ!?まだ死にたくねぇよ!」
迅速に動く者、こんな時に限ってと舌打ちする者、恐怖に駆られる者、反応は三者三様だ。
マガミとイチカと言えば……
「離せマガミ!私も出る!」
「無茶だ、作業用のHFに乗り込んでるだけなのに!」
「シミュレーターで訓練は受けている!問題はない!」
「シミュレーターはシミュレーターだ!実践じゃねぇんだぞ!?」
「しかし……!!」
二人が出撃するしないで言い争っている最中、3機のHFが飛び立った……それは、灰色のカラーをした、四角形のバイザーとそこに映るカメラアイが特徴的なHF。
この世で最も流通しているHF、ナタクスだ。普段は作業用として使われているものだが、武装をつければ対メルフ用としても扱える。
しかし、パイロットの技量は……この村は争いの無い村だし、来るメルフも大抵小さい羽虫型、巨大な甲虫型なんてもう何十年もきていなかった。そう語れば察せられるだろう。
3機のナタクスはふらつきながらも、展開された反射粒子ドームを抜けて、手に持った反射粒子銃――フォトンライフルを持って羽虫型を避けながら甲虫型メルフへと向かう。
「撃て!撃つんだ!」
「村には近づけさせるなよ!」
「応!」
ナタクスのパイロット達は、お互いに声を掛け合いながら巨大な甲虫型メルフへとフォトンライフルを放つ。
放たれた反射粒子によって作られた弾丸は、辺りを飛び交ううざったい羽虫を粒子に変えながら、甲虫型の表面に着弾する。
「GYAAAAAAAS!」
甲虫型メルフは、甲高い金属質な雄叫びを開けながら体を震わせる。……やはり、反射粒子による攻撃効いているようだ。
反射粒子を伴った武器で攻撃されると、メルフの攻撃された部位は粒子となって消滅する。
貧弱な羽虫型のメルフはそれで消滅してしまうのだが、ある程度のサイズのあるメルフだと、粒子化して消滅来たそばから再生させることが可能だ。
その為、ある程度のサイズのあるメルフには、攻撃を再生できなくなるまで当て続けるか、再生する暇もなく大火力で攻撃を続けるのが有効だ。
その為、甲虫型メルフの周りを飛び割るナタクスは、動きながら攻撃を当て続ける。手堅いが、確実な戦法だ。
村の縁に設置された固定砲台からも反射粒子を利用したフォトンカノンが発射され、メルフ達を攻撃する。
しかし、それを邪魔するように羽虫型もナタクスへ突貫攻撃を仕掛けてくる。これが鬱陶しいことこの上ないのだ。
「くそっ!羽虫如きがぁっ!」
そう叫びながら、羽虫型を撃退していくナタクスのパイロット達。
すると、甲虫型に突然変化が現れた。
「GIAAAAA......aaaa」
甲虫型のメルフは、蹲るように体を丸める……初めは攻撃が効いているのかと誰しもが思ったが、違う。
「な、なんだ……?」
「警戒は怠るなよ!……だが……これは……?」
次の瞬間、メルフの表面から無数の棘が浮き出てきた……その棘は鋭く尖っており、それが無数にメルフから突き出るさまはまるで剣山だ。
そして、パイロット達が瞬きをする間もなく……メルフから無数の棘が、まるでロケットの様に発射された。
「うおおおおっ!?」
「な、なんだこれぇ!?」
ナタクスのパイロット達は、突然飛び出たその棘を見て大慌てでよける……避けた先には村を囲むドームが貼られており、棘はドームに触れると消滅する。無数の棘がドームに突き刺さり消滅する。
そして、溢れ出る棘の前に固定砲台も串刺しにされて爆散してしまう。
ナタクスも、なんとか回避に成功したが……
「よし!よし!避けた!避けきっ―――」
次の瞬間、ナタクスの一機が後ろから棘に串刺しにされる。動きを止めたナタクスを狙うように、無数の棘がナタクスを串刺しにした。
貫かれたナタクスは次の瞬間棘を巻き込んで爆破……ナタクスはそれに慌てて陣形を崩す。
「くそぉ!やられた!やられやがった!?」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
残った二機のナタクスは背中合わせになり只管に棘とメルフをフォトンライフル打ち抜いていく。
「くっ、くそぉ!裁ききれ―――」
「じ、ジニス―――」
だが、溢れでる棘を倒し切ることができずに、両機ともに棘に串刺しにされる。ある者は無力さに嘆きながら、ある者は家族の名を叫びながら逝ってしまった。
メルフはのそりのそりと村へと近づいてくる。その光景を見て、イチカは益々闘志を燃やしていた。
だが、それを止めるのは……無論マガミだ。
「離せ!マガミ!私も!」
「駄目だ!お前だけは行かせられない…………」
「ならこのまま蹂躙されるのを黙ってみて色と言うのか!?」
「そんなこと言ったって、使えるHFはもう………!?」
HFは、少なくとも戦闘に使えるものはもうない。そう言おうとした瞬間、固唾を飲み込み……瞳を閉じる。
イチカは、街に行ってさらにいろんなことを勉強して……さらに先へ前進する資格がある。イチカには、未来がある。
自分はどうだ?停滞を選び現状維持に満足している自分……年は同じでも……偉い違いだ。行くのなら……自分だ。そう、マガミは思った。
それに、HFならまだ残っている。一機だけ、マガミにだけ使えるのか。
「……イチカはシェルターに行ってくれ。」
「マガミ……?なにを……まさか!?」
次の瞬間、マガミはイチカの手を離すと自分の家に向かって走っていく。イチカはそれを追いかけようとすると、父であるカルラに呼び止められる。
「イチカ!どうした!?
「お父さん!マガミが!」
カルラが遠くを見れば、マガミが自身の自宅に向かって走っているのが見えた。思わず、カルラは絶叫した。
「マガミくん!!マガミくん!……マガミ・ウォーレスぅ!!!」
カルラの絶叫は、マガミの耳に確かに届いていた。しかし、止まるわけには行かないだ……今だけは。
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