第40話 事後処理
その後、山側の方を重点的に調べると、その麓のとある地点の叢に、藤の持ち込んだ荷物が見付かった。藤自身は知らなかっただろうが、そこはちょうど、千鶴嬢が頭部を強打した崖の真下だった。
彼の荷物を探ってみると、想定されていた寝袋や懐中電灯、火を通さなくても口にできる食べ物などの他に、ある想定外の物が出て来た。ダイヤルと送受器と長いコードを備えた無骨な感じのする筺体の器具で、何に使う代物なのかは分からなかった。もちろん、実光も事前に聞かされていなかったという。
「単なる僕の直感、何となくですが」
そう前置きして言い始めたのは和但馬。
「これって、あれを連想させませんか。ルパンの映画の」
「ルブランの? アルセーヌ・ルパン?」
「はい。いえ、違った。ルパン三世の方です。『カリオストロの城』で、中盤から終盤に掛けて、
「ああ! あれか」
『ルパン三世 カリオストロの城』なら推理研のメンバー全員が観ていた。ミステリの要素も少々あって、概ね高い評価をしている。
「ということは、藤はこれを使って、電話ができたのかもしれない。つまり、本来あった電話を使えなくしたのも藤ということになる」
加藤は荒っぽい口調で述べた。興奮と憤怒のあまりか、藤を呼び捨てにしていた。
残念ながら、使い方が不明である上に、犯罪の証拠になるかもしれないという理由もあっておいそれと
* *
夜になって港に辿り着いたものの、そのまま十鶴館に直行とはならなかった。田島さんがチャーターできた船は小ぶりな漁船だったのだが、何でも船長が病気で長らく操船を休んでおり、田島さんが交渉して要望を受けてくれたのは、船長の親戚の男性。その人も亨の経験はあるのだが、自前の船は手放しており、不慣れな型の船の整備に手間取っていた。結果、出発は明くる朝になってしまった。
正直な感想を述べると、明るい朝に出発する方がいいと思った。夜の海は港を離れると結構波立っているように見え、しかも暗い。小一時間、船に揺られて行くことを想像すると、かなりしんどい。幸い、寝泊まりの場所は、その元漁師さんが「船を約束通りに出せなかったことのお詫びだ」ってことで、自宅に受け入れてくれた。
そして翌朝九時前。俺達三人は、待望の十鶴館到着となったのだが……予想を越えた最悪の事態を突き付けられることになる。
事件を経て、B大学推理小説研究会は、無期限の活動停止に入った。学生会や大学側から勧告が出される前の、自主的判断によるものだった。
十鶴館での夏合宿中に起きた事件・事故に関しては、加藤部長達が滞在中に組み上げていった推測を、警察がほぼ追認する形で決着を迎える見込みのようだ。
森島さんと中谷さんが亡くなった件に関しては、力沢が自白をしている上に、森島さん殺害に使われたあいつのパーカーから、被害者の皮膚組織が検出できた。加えて、犯行現場に残されたメッセージの内容から言っても、力沢の犯行で間違いないと言える。
それらに比べると、王子谷の件はやや手間取っているらしい。藤が死んでいた場所のすぐ近くに落ちていた包丁の持ち手部分からは、王子谷及び藤の指紋が検出されていた。その付着具合や重なり具合から、最初に王子谷が握り、次に藤が持ったことも推測されたが、部長達が推理したようなアクシデントの結果、王子谷が死亡したかどうかの決め手にはならなかった。現場の窓や格子や壁、それに王子谷の衣服に残る血しぶきから判断して、窓越しに刺身包丁が刺さったのはまず間違いないとされた。警察が捜査で重点を置いているのは、他殺(ないしは過失致死)なのか、それとも事故なのかの見極めであり、王子谷を死に至らしめたのは藤で決まりと踏んでいる。藤が電話回線の大元をいじり、使えなくした上で、藤自身は電話を掛けられる機器を持ち込んでいたという事実が、警察の心象を相当悪くしたようだ。この流れのまま捜査が進むと、藤の動機は、夏合宿に参加できなかったことに端を発する、同じ一年生への逆恨みということになりそうだ。
ちなみにだけれど、一方の犯人である力沢は、王子谷を死なせたのは藤峰男である可能性が高いと警察から改めて聞かされると、納得の行かない顔しきりだったそうだ。クルーザー船内でダウンした力沢は、着岸間際に呼びに来た藤に、よほど親切にされたと感じたらしく、合宿参加を代われるものなら代わってやりたいとさえ思ったという。
もしもそのとき、本当に交代していたら、どうなっていたんだろうか。少なくとも森島さんと中谷さんは、死なずに済んだに違いない。
なお、副部長の実光さんは、捜査に協力する家庭で、婦警さんから嫌味混じりの説諭をくどくどと聞かされたそうだ。それ以上のお咎めはなく、実光さんの履歴に傷がつくことは避けられた。
十鶴館の各部屋から出て来たという丸い紙に関しては、その劣化度合いから、まず間違いなく、以前より仕込まれていた物であるとの鑑定が下った。
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