第8話

「3・2・1、撃って」

「死にさらせやーー!!」


いつもの掛け声とともにサブマシンガンを乱射する。


「ふうっ、はあっ、はあっ」

「ターゲットロスト。みっちゃんお疲れ」

「うっす。今日はやっぱり多かったっすね」

「多いな。だが楽だったな」

「はい! おかげで楽に集めれました」


瞳さんが手を振って労ってくれ、譲二さんが頷く。

僕の手には黒い小さな石ころがいくつもあった。

ディビヴァを倒すと偶に落ちている石ころ。効能は魔力を阻害するというもの。大きいものは国に提出するが、僕が持ってるような小指程の大きさしかない物はあまり価値がないので貰えたりする。

小さいのも需要はあるが、あまりとやかくは言われない。

大きいものは使用しても反発が少なく、僕らが使用する装備フルセットに練り込まれている。そうすることによって悪魔ディビヴァの攻撃から少し守られる。

譲二さんと瞳さんはブレイバーなので、別の意味で私服にも大量に使用されているが、僕が持っている小さいサイズは使えない。

小さいサイズは何故か魔力と反発する。魔力と反発すると魔力持ちはどうしようもなく不快感と倦怠感に襲われ、魔法が使えない。

有用性は大きな魔石と同じだが、反作用が大き過ぎて一般では使えない。それが僕が拾った黒い小さな石。通称魔石だ。


「それ気持ち悪からな。俺触りたくねーよ」

「そうね。みっちゃん変態」

「変態は酷いですよー。僕には役立つんですから」


ニヘラと笑うと譲二さんは眉を顰めるが、坂東隊長が軽く手を挙げてので注目する。


「お疲れさん。今日の任務は完了だ。案外早かったな」


時間は16時。予定より二時間早い。


「石井、どうだわかるか?」

「はっ。おそらく強化型と特殊タイプが一体ずつかと」

「やはりそうか。他の班からもそう報告を受けている。明日は少し難航しそうだな」


皆それぞれに顔をしかめる。


「それにだ、報告では三型が数体でたそうだ」

「うわー、めんどくせー」


間髪を入れずに譲二さんが応える。


「最終日の特殊型は幻惑系の可能性が高い。今日はしっかり休んで寝ること。睡眠不足は大敵だからな。以上。帰還する」

「了解!」


討伐二日目も無事に終わった。

二日目の討伐は北部から中央に向けて南下する作戦だった。

城郭都市の中央には必ずお城か本丸がある。城郭都市古都イェリコ型の場合はお城が少し北側にあるので今日は昨日より作戦範囲が狭かったから楽だった。

家屋が少なく田園などが広がっていて見通しもいいのでディビヴァも発見しやすいし、ディビヴァが群れていることもないので殲滅も容易。

ただ最終日である明日はいわゆるボス戦が待っているのでやはり緊張する。

でも悩んでも仕方がないので早めに食事を済ませて寝よう。明日の討伐が終われば帰宅だ。早くゲームもやりたいし。


食堂に着くとまだ誰もいなかった。


「あっちゃー。一番乗りかぁ。ちょと寂しいな。ま、いっか」


食堂のおばちゃんに挨拶して「もう食べれます?」と聞くと「大丈夫よ」と笑顔で答えてくれるので定食を頼む。もちろん大盛。

食事をゆっくり食べていると、少しづつ人が増えてきた。


「みつき先輩。お疲れっすー」


振り向くとペガドラの二人が僕の席に来た。


「お疲れ。二人とも早かったね」


まだまだ駆け出しの二人は仕事が早く終わることが有能の証みたいに勘違いしているところがあり、少し褒めると喜んでくれる。


「いやー、最速の坂東班に言われても嬉しさ半減っす」

「ほんとだぜ」


とはいうものの席に着く二人は少し嬉しそうだ。


「そう言えばさ。三型出たんだって」

「ああ、それうちっすよ。ほんと嫌になりますねー」


心底嫌だったのか天馬くんの眉間に皺が寄る。


「で、誰がかかったの?」

「僕っすよ! もうほんと勘弁して欲しかったっす」

「おおう、それは、大変だったね。ちなみに、……何が見えたの?」


三型は幻を見せる。しかも一番見たくないものか大切にしているものを見せて、戦意を挫くか反撃しにくいようにしてくるらしい。

それ自体は大したことないといは言わずとも死にはしない。

その状態の時は周りが見えなくなるようで、他のディビヴァに襲われたらお終いだ。

三型一体につき幻を見せられるのは一人だけなので、その人を守りながら殲滅すれば問題はないが厄介には変わりない。


「えっとっすねー、今回見えたのは僕の婚約者でした」

「は?」


意味不明だった。天馬くん14歳だよね? 婚約者とは……?


「えと、婚約者って?」


僕としてはそんな人いるの? と聞きたかったのだが、勘違いした天馬君は婚約者がどんな子かを話し出す。


「ああ、一つ下なんすけどね可愛いいい子なんですよ。ちょっと控えめだけど、よく笑うんですよ。それが可愛くて、僕って改めて大事にしてたんだなーって思っちゃいました」


誰もそんな惚気誰も聞いてねーよ! と言いたいがグッと堪える。


「そ、そうなんだ。ご馳走様? そんな特別な子いるんだね」

「龍一もいるっすよ。僕らの二つ上で僕の婚約者のお姉さんっす。綺麗ですよ」

「は? 龍一くんまで?!」


最近振られたばっかりの僕は更に心を抉られる。しかも僕と同じ歳だと。リア充との格差を思い知らされ、龍一くんに目を向けると少し照れながら答える。


「あー、そうですね」

「何故に急に敬語? 僕、気を使われてる? はあー、色々と負けた気分だよ。……それで三型どうだったの?」


もうこの話題に触れたくなかったので話を戻す。


「幻惑とは頭では分かってるんすけど、ひかりちゃんの姿をしてると、あ、ひかりちゃんが僕の婚約者っす。……無理ですね。僕、撃てませんでした。班の仲間が撃退してくれると分かってたっすから、無理しませんでした」

「そうなんだ」


14歳で戦場に立つのも凄いのに、精神的にも強くなれっていうのは無理だろうさ。僕は天馬くんの判断が悪いとも思わないし、同情すらする。天馬くんの判断は間違ってないと思うよと励ます。


「明日のボス戦、特殊型と強化型みたいだけど、嫌になるね」

「ホントっすよ。明日はそれでも撃たないとっすからね。早く寝ろって言われてます」

「だね」


天馬くんは軽く話し、何事もなかったように美味しそうに食事を始める。

幻に抵抗するのは、僕らのコンディションがいいことが前提になる。でないと付け込まれる。後はメンタルのみ。何が出ても倒すと言う気迫が大事になる。

覚悟してしっかり休んで絶対撃つと心構えして、それでも厳しいけど誰かが先に撃ってくれれば撃てるというものらしい。

今日は早く休むことだねと言うと、ほんとそうっすねと元気に答えてくれる。龍一くんも頷きもりもり食べる。


「そう言えば滅魔くんはまだだね」

「滅魔さんも三型だったそうっすよ。僕と違って撃ちまくってたらしいっす」

「あっ、流石……って感じか」

「ですね。坂東班の殺意も相当ですが、滅魔さんのも異常ですよ。気持ちはわかりますが同意は出来ないっすね。あそこまでの殺意は持てないっす。大切な人が傷付けられたらそうも言ってられないんだろうけど」


殺意かあ。僕も無理やり奮い立たすために叫んでるからなー。敵で悪だと分かっていても実際に被害に遭ったわけじゃないので尻込みしてしまう気持ちはわかる。だから研修で被害に遭った方の話を延々と見せられるんだけどね。

僕らは甘いんだろうなー。こればっかりは少しづつ養っていくしかない。ディビヴァは狡猾だからその心の隙をついてくるって聞くけど、遂この間まで平和に暮らしていた子供がいきなり殺意を持つ何て難しすぎるよ。

だからVRゲームをやれって推奨されるんだよなー。敵を倒す感覚を養えるそうだ。ゲームをやりまくっている僕としても実感として同意できる。殺意ってのも養うもんなんだねー。嫌なもんだ。

その後はゲームの話で盛り上がるが、食事が終わるまで滅魔くんは来なかった。

僕らは解散し明日に備えるため各部屋へと戻る。

部屋の前には坂東隊長が僕を待っていた。


真月みつき。明日は本当に大丈夫か?」


本気で心配そうに僕を気遣うように聞いてくれる。


「はい。僕、丈夫なことだけが取り柄ですから。毒には弱いので守って貰えると嬉しいです」


ニヤリと笑うと、坂東隊長が少し乱暴に僕の頭を撫でる。


「任せろ。それは俺達の仕事だ。お前は安心して自分のできることだけに力を注げばいい」

「はい! 信じてます」


坂東隊長もニヤリと笑うと、おやすみと言い残し部屋へと戻っていく。


ベッドにダイブし明日のことを考える。

僕の仕事は結構重要な立ち位置だ。僕の代わりはいるとはいえ責任重大なことに変わりはない。

少し心配になり都月つつきの事を思う。

家族と連絡を取るか? 

――やめておこう。

明日の戦闘で都月つつきの幻を見せられて僕に撃てるんだろうか? とも考える。

覚悟かぁ。どうなんだろう。本番にならないとわからない。

そんなことを考えながら横になっていたら、いつの間にか眠っていた。





―――――




大規模討伐作戦最終日。

僕らは城を包囲し、ディビヴァを殲滅しながら城内へと侵入する。

ボス戦はゲームのレイドバトルのような感じで、だだっ広い中庭か、広い王の間で行われることが多い。

前回の討伐では強化型が三体で、中庭に一体、王の間に二体だった。

今回は二体で一体が特殊型だから、王の間で二体と戦うのかなーとみんな予想していた。

だから僕らの班が中庭に一番乗りで飛び込んだ時いきなりボス戦が始まるとは僕は思ってなかった。

僕以外の班の仲間は驚くことなく冷静に対処していた。


「特殊型2メートル級。強化型5メートル級。共に中庭にて発見。戦闘に突入する」


坂東隊長が各班へ一斉に連絡する。

僕らに遅れて滅魔くんの班も中庭に来ていた。


「みつき! 前へ」

「はい!」


眉間に皺を寄せた坂東隊長の命令で僕は背負っていた大盾を左腕に固定して前へ出る。

滅魔くんは装備を脱ぎ私服となって太刀を構え、溜めをつくる。

ボス戦に入ったからと言ってディビヴァがいなくなるわけではない。譲二さんと瞳さんはディビヴァを警戒し後方に意識を割く。

坂東隊長はバズーカを重石さんはロケットランチャーを装備する。


「くるぞ!!」


5メートル級の強化型が巨人とは思えない速さで走ってくる。

みるみる近づいてくる巨人は大きな口を広げ、長い舌を出している。

体は鎧を着こんだような紫色の鱗の覆われていて、手の指は触手のようだ。

体つきはアンバランスでやたらと上半身がでかい。結果キモい。

それにに5メートル級は巨体だ。二階建て家が突っ込んでくるような威圧感。

いや、デカ過ぎでしょ! 

正直大型トラックの比ではない。ゲームで大きいのと戦ってなかったらとてもじゃないが怖くて無理だろう。

そういう意味ではゲーム様様だ。まあそれもゲームを推奨する理由に一つなんだろなーと思う。

迫ってくる巨人に身構えるが、強化型が大きく息を吸い込んだかと思うと頬を膨らまし炎を吐き出す。

火炎放射器を見まごうような劫火が勢いよく僕らに襲い掛かる。


「主の真実は大盾であり、砦である」


即スキルを使い迎え撃つ。

眼前に迫りくる炎はその熱も伴い恐怖そのものだ。兵士になり立ての頃は何度泣きそうになったことか。ふとそんなことを思いながら、スキルと耐性を駆使して、迫りくる炎を押し返す。

よし! 怖くないしいけそうだ。

チラリと少し離れた滅魔くんを見ると刀身が燃えていた。

滅魔くんは同じ魔法の炎で炎を巻き上げる。流石だね。カッコイイ。僕は魔法が使えないから無理だ。

炎が途切れると、坂東隊長のバズーカと重石さんのロケットランチャーが呼吸を合わせたかのように同時に火を噴く。他の班の人達もガンガン撃ち込んでいる。

一斉に人類の兵器が襲い掛かり巨人に命中するが強化型は怯むだけ。

普通のディビヴァはマシンガンの数発で倒せるが、強化型になると何度も攻撃を叩きこまないと滅せない。正しくゲームのボス戦さながらに長期戦になるわけだ。

いつのまにやらかなりのチームが戦闘に参加していた。

巨人は坂東隊長に目を付けたのか、僕ら目掛けて突っ込んでくる。

僕は気合とともに大盾をかざし、巨人の蹴りを全力で受け止める。


――バッキーン


大盾と硬い巨人の足がぶつかり、痛々しい金属音とともに僕は後方へ飛ばされるが、巨人も同じように僕を蹴った足だけが後方へ飛ばされる。

思いっきりバランスを崩した巨人はそのまま頭から転倒。

一斉に攻撃が巨人へと襲い掛かる。

態勢をすぐに立て直した巨人は、今度は滅魔くんに向かって駆け拳を振り下ろす。

ガリガリガリッと一瞬音がし、滅魔くんもぶっ飛ばされる。

さっきぶっ飛ばされて床で何度もバウンドしていた僕とは違い、滅魔くんは器用に空中で体を捩り、受け身を取りながら床を転げる。

流石は主人公。すぐに立ち上がり戦線に復帰する。


次の瞬間、僕らの視線は特殊型巨人に釘付けになる。


あ、これが幻覚だと思った時には、気持ちが引き込まれていた。

予想通り。

僕の目には特殊型が、まだ小さい可愛い妹の都月つつきに見えていた。


――おにいたん。


いつもの期待の籠った眼差しで、よたよたと頑張って僕の所へ走ってくる。


「はは。あははははっ」


僕は思わず笑ってしまう。

こんなの、こんなの、こんなの攻撃できるかあぁーーー!! 幻覚には興奮する作用もあるのか、思わず都月つつきぃと叫びそうになる。

強化型は!? 周りを見回すが誰一人として視界に入らない。


「これが幻覚か。ほんと厄介だ」


なんとなしにもしもの為と盾をしっかり構えると、ガキーンと金属のぶつかり合う音がし、僕は再度ぶっ飛ばされる。

その瞬間から周りの景色が戻り、幻覚から一時的に解き放たれる。

ゴロンゴロン転げまわりながら状況を確認すると、滅魔くんが巨人と戦闘していた。


「ひかりちゃん!」

「あかりー!」


何故か天馬くんと龍一くんの声だけは鮮明に聞こえた。あっ、龍一君の彼女ってあかりさんなんだね。了解。後輩たちがすっかり幻に惑わされていたので、冷静になれた。

チッ。僕だって、マリアムは……振られたからダメだけど、幼馴染の姫色ひいろちゃんくらい見せてくれてもいいじゃんと捻くれる。姫色ひいろちゃんも可愛かったんだぞ。

その期待に応えてか、また僕の視界が狭まり特殊型と対峙する。

見た目は都月つつきのまま。

とてもじゃないが撃てない。


だが、少しづつ都月が大きくなり、3歳から6歳くらいになり姿が都月から思い出にある姫色ひいろちゃんへと――


「死に晒せやーー!!!」


僕は容赦なくサブマシンガンを乱射していた。

カンっと弾丸が特殊型に当たった思ったら幻影が消える。


撃てたし。


いやっ、違う! 都月つつきが撃てなくて、姫色ひいろちゃんだったら撃てたんじゃない!

そう、僕は怒ったんだ。そうだ! 僕の思い出を汚すなと……。


誰にともなく僕は言い訳をしていた。

なんだか今度会う姫色ひいろちゃんに申し訳なくて……。


戦闘に集中だ!


僕は雑念を追い払い、強化型の巨人へ向かって駆け出していた。

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ジェネシスキングダム ~ゲームで好きになった美女がリアルではおかっぱぽっちゃりさんだった~ でんりゅう @habakuku

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