第7話

「よう、ヘガドラ」


天馬くんも龍一くんは隊の人達からペガドラとひとくくりで呼ばれることが多い。

天馬くんはペガサスで、龍一くんがドラゴン。合わせてペガドラ。

というのも二人は幼馴染で仲がいい。二人が持っている能力も一緒にいる方が相性がいいので二人は例外的に同じ班に属する。


滅魔くんがペガドラと呼ぶと龍一くんはフンとそっぽを向く。

天馬くんも龍一くんも嫌ってはいない。龍一くんはライバル視しているだけ。

天馬くんは滅魔くんが主人公過ぎて苦手らしい。


「緒川くん、昨日ジェネキンやった?」

「もちろん。ちなみに新ダンジョンマップ制覇したから」

「え? まじ?!」

「ええ!! みつき先輩本当っすか?!」

「まっ!?」


ふふっ、なんて素敵な食いつき。

この優越感は癖になりそう。

僕はこの四人でゲームの話をするのが好きだ。

僕と滅魔くんはまだ初めて1年ほどだけど、天馬くんと龍一くんはもう3年目だそうだ。どうやらお家はお金持ちらしい。

四人ともヘビープレイヤーなので情報交換や攻略の話が弾む。


「つか、ガーディアンすげー強くなかった? 俺んとこでも勝ったの奇跡に近かったぞ。緒川君は何処から入ったの? 俺は大草原。みんな見晴らしがいい方が好きだからな」

「ええー!! 僕らなんてガーディアン倒せなかったっすよ。なあ龍一」

「……くっ」


龍一くんは結構寡黙。盛り上がってくるとよく話してくれるけどね。


「ガーディアン、正直ヤバすぎでしょ。僕はたまたまた野良パーティーに入れて貰えて勝てたけど、運が良かっただけかなー」

「そのパーティーってどこ?」

「んー、わかんないけどリーダーはゼブランさんで、後から応援で来てくれたのがガナッシュさんだったかな」

「まじかよ。日本でも20位以内に入るトップパーティーじゃねえか。どんだけ強運なんだよ」

「え? ほんと? あ、確かに凄い人達だったよ。なんていうのかな判断力と決断力と行動力が半端なかった」

「みつき先輩凄いっすよ。僕達もレイドで組んだことありますが、斬鬼ゼブランに鬼斧ガナッシュのレイドは勝率は高いものの被害も甚大と有名すっね。お二人の采配は相当有名すっよ? いいなー、僕らもまたパーティー組みたいなー、なあ龍一」

「……おう」


あああー、被害が大きいのは頷ける。あの人達基本突貫だもんなー。強かったもんなー、有名な人達って言われても違和感ないな。うん。そっかあれがトップパーティーなんだ。納得。

食事中はゲームの話で盛り上がって楽しかった。

新ダンジョンマップの権益をGETしたぜの件では、天馬くんと龍一くんが気持ちのいいくらい驚いた反応をしてくれたので、僕は大・満・足。こんな優越感一杯にゲームの話が出来たことなんてあっただろうか。ミツファの園の話ができないのは悔やまれるが、僕をヨイショしてくれる二人の目の輝きはほんとゾクゾクくるね。コレ学校行っても話そうかな。みんなの驚く顔が目に浮かぶぜ、クックッ。


昼食を終え、僕は装備を整えに行く。

各班ごとに用意された防具の他に、今回の任務に当たり支給された銃器を選びに行く。

普段の訓練で慣れているので、僕はちゃっちゃとフル装備に着替える。

名はわからないがいつも使うサブマシンガンとコンバットナイフ。コンバットシャツにズボン。ボディーアーマー、ヘルメットに軍靴、グローブ。

人によっては防護マスクを着けるようだけど、視界も悪くなるし邪魔っけだからうちの班は誰も使用しない。

毎回訓練の度にフルセットを装備するので着替えはお手の物。

軍事演習場を抜けて、南部城門入り口へと向かう。

だだっ広い舗装された道から見える城壁を見上げ、なんでこんなもんが突如現れたんだろうと思う。


城郭都市古都イェリコ型。

二重の城壁に囲まれる古都で、外壁の高さは15メートル。内壁は10メートルもある。

広さは250,000m²くらいあるらしく、旧東京ドーム5個分だそうだ。


実際のイェリコと呼ばれる古都は56,000m²位のようだから4倍以上の大きさ。

なんでかわからないけど、こういった古都が世界各地で突如として現れ、そこのディビヴァと呼ばれる悪魔がいる。ディビヴァの名前の由来は、喋る悪魔が死に際にそう名乗ったから。死に際だったので呂律が回ってなかったとも意見があるが、今はディビヴァ=古都にいる悪魔という認識だ。

これがまた厄介で、普段は古都に閉じこもって出て来ないのだが、一定数のディビヴァが生成されると古都を出て厄災となる。

毒を撒き散らし生態系を変えながら人里を目指して進軍してくる。

この毒が厄介で防ぎようがなく、毒に侵されると致死率は3割だ。

ディビヴァ自体は軍が赴くとすぐに一掃されるが、なんせ毒は何しても防げない。必ず死亡者は出動人員の3割に上る。

毎回毎回そんなに人員を失うわけにもいかず、古都制圧が始まったが一般の人ではどのような武器を使おうがディビヴァは倒せない。古都にいるディビヴァの毒性は低く、接触されない限り侵されないが排除できないのでは意味がない。

そこで登場したのが僕ら特死技能持ち。

正確には、悪魔特攻死滅技能。

古都が現れる少し前から、人類にも変化があった。

一つは魔法が使えるようになったこと、二つ目がゲームでスキルを得れるようになったこと。最後が10万人に一人の割合で特死技能持ちが生まれるようになったことだ。

僕はその特死技能持ちというだけで15歳から兵役が課せられている。

というのもこの特死技能。3タイプあり常時発動型と任意発動型と条件発動型の3つ。僕と他所道くんが15歳から従軍するようになったのは特死技能持ちか判明してなかったからだ。

天馬くん龍一くんは既に判明していたため、法定年齢最年少の14歳から兵役が課せられた。

僕の場合は、ある日特死技能を判別できるという特死技能持ちが学校へきてたまたま発見されてしまった。

他所道くんは発見される可能性が高かったけど、僕はバレた形だ。僕のような条件発動型は本人の自己申告がないとバレにくい。その日は運が悪かった。

といういう訳で軍属になった僕は、今日も命を懸けてディビヴァ討伐に駆り出されている。給料も出るし好待遇といえばそうなんだけど、誰も死にたくはないよね。

だから僕は今日も生き延びるために全力を尽くす。


「みつきはいつも張りつめてんなぁ」


南部城門入り口に着くと譲二さんにそう言われる。


「だって、死にたくないもん」

「まっ、そうだな。それは同感だがあまり緊張すると動きが鈍くなるぜ?」


譲二さんなりにいつも励ましてくれている。

ディビヴァ討伐によって死亡するのは、毒に侵された場合だ。ディビヴァ自体はあまり強くない。よっぽど油断しない限りやられはしない。

毒は接触すると毒に侵されるリスクがある。フルセット装備時は何とかなる場合が多いが、完璧ではない。装備の上から触れられて浸食されることも間々ある。

譲二さんと瞳さんは毒に侵され生還し、その上で抗体も出来た貴重な戦士。ディビヴァに対して無敵と言っても過言ではない人達。

そしてもし二人の間に子が成され、生まれながらにして抗体を持っていた場合、特死技能がなくともディビヴァを殺せる貴重な兵士となる。

毒の抗体を持った者は達はブレイバーと呼ばれる。

なんてことはない体のいい呼び名だ。その実は勇敢であることを強いられるだけ。

本人の意思は関係なく、対ディビヴァ戦に於いて無類の能力を有しているから戦わされる。

現在日本にいるブレイバーは譲二さん達を含めて10人。兵役を終えたブレイバーは世界中で引っ張りだこだ。逆に退役の32歳までは出身国が身柄を確保する事ができる。そういう国際条約。いずれ譲二さん達も世界中を駆け巡るのだろう。

僕は死にたくないので、絶対に毒に侵されないよう必死だ。

ブレイバーになりたいとも思わない。

一般の方は致死率3割というが、特死技能持ちの致死率は何故か9割9分。すなわち即死と同じだ。

触れられない限り大丈夫な上、触れられても脱衣すれば助かるのでよっぽどでない限り死にはしないが、それでも年間数名が亡くなっている。

油断など出来たものではない。


「俺と瞳がいる限りうちの班に死人はでねーよ

「そう。出させないわよ。あんな思い誰にもさせないわ」


二人が励ますように笑いかけてくれる。

くーっ、カッコイイぜ。正直ブレイバーである二人が同じ班って言うのは贅沢この上ないんだけど、彼らは人事に介入できるくらいの権利がある。僕が二十歳になるまでは同じ班で面倒を見てくれるそうだ。

ありがたくて二人には足を向けて寝れないよ。


「はい! 期待してます!」


そう言うと二人の顔は更に綻ぶ。

好意は感謝して全力で受けろと師せんせいから言われたことを実践しているのだが、これがまた親切な人には効果が高い。素直に喜ぶと相手も喜んでくれる。いい人っているんだよなーと思う。


班のメンバーが揃うと城門を潜り、各所定の位置へ移動する。道中ディビヴァに遭遇することはなかった。

大規模掃討作戦に参加するのは20班100人。この20班が一斉に北上しディビヴァを殲滅していく。

僕の班は南東に位置し大通りを北上していく。

古都といっても廃墟なので、ディビヴァが家屋に留まっていることはあまりない。人の気配がするを向こうから人間に寄ってくる。




「目標二時の方向に2体。家屋の上と正面」

「みつきは正面。譲二は屋根の上だ」

「了解!」


坂東隊長が指示を出し、瞳さんのナビの元僕と譲二さんは銃を構え前進する。重石さんは周囲と後方の安全確保。

瞳さんの技能は嗅覚が鋭いこと。ディビヴァのおおよその位置が臭いで分かるらしい。もし技能がバレずに徴兵されなかったら調香師になって化粧品が作りたかったそうだ。

譲二さんは兎に角眼がいい。動体視力は埒外の性能で集中すると壁も少し透けて見えるらしい。中学時代に野球部でガンガンホームランを打っていたら即バレたらしい。

僕はと言うと年に一回だけ夢を見る。それだけ。

僕だけ全然戦闘に役立たない。それでも技能持ちだから僕を通した攻撃は何であってもディビヴァに届く。


「みっちゃん。次の通路右来るよ。3・2・1・撃って」

「死にさらせやーー!!」


僕は指示通りにサブマシンガンを乱射する。

カッカッカッカッカッと、石畳や石壁にも着弾するが目標のディビヴァにも命中する。


「ターゲットロスト。みっちゃんお疲れ。いつ聞いてもその掛け声。……どうにかならないの?」


呆れ声で瞳さんは僕を見る。


「すんません。どうしても気合を入れないといけない気がして」

「はあ。まあいいわ。譲二場所分かる?」

「ああ、もうすぐ射程内だ」

「流石ね。期待してるわ」

「おうよ。夜も期待してろよ」

「馬鹿。子供の前で」


そんな軽いやり取りの中でも、譲二さんと瞳さんの目は真剣だ。隊長も二人のじゃれ合いを注意しない。

二人が決して油断しない戦士だと知っているからだ。

譲二さんがアサルトライフルを高く構えると、屋根の上を人影が動いたような気がした。

パパパパッと撃ったと思ったら瞳さんが「ターゲットロスト」と告げる。

僕が倒したディビヴァよりも遠くにいたのに、あっさり撃破する。

戦闘に有利な技能持ちは、ほんとに心強い。

隊長の坂東さんは、身体能力を任意で著しく向上する事ができるが時間の制約があるので、必要な時に咄嗟に使う感じ。重石さんはディビヴァを視界に収めると任意で動きを止めることができる。止める時間は2秒と少ないけど、2秒止まれば十分。チームメンバーが排除するかに逃げる時間を確保できる。

僕は役に立たない。

僕はいつも前衛で先頭。

その方が安全だから。

瞳さんが警戒してくれてるし、譲二さんもいる。重石さんが動きを止めてくれるので頭上からの攻撃や急に生成されたとしても、坂東さんが一瞬で対応してくれる。僕も攻撃が当たりさえすればディビヴァは倒せる。

そんな風にガッチガチに守られながら僕は前進する。


「今日は思ったより少なくて楽だな」


何度かディビヴァと遭遇し殲滅しているが、確かにいつもより少なく感じる。

それに姿をしっかり確認する前に倒せてるのもありがたい。ディビヴァは人によって見え方が違うらしいけど、僕にはいつも気持ち悪い怪物に見える。今日はまで見てないから平気。


「ええそうね。と言いたいところだけど、うーん。どうしようかしら」

「どうした石井?」


石井瞳さんは少し悩むと、坂東隊長へ告げる。


「ディビヴァの集まりが二か所あります。10時の方向に反応が6つ。こちらは隣の班に任せればいいと思います。こちらからは距離がありますから。問題は、正面200くらいの位置に反応7つ。これが厄介ですね」


なるほど、少ないと思ったらそういうことか。


「よし。では御影班には注意するよう伝えておく。我々は正面のを何とかするか。正面はあの区画か?」

「はい。正面の集合住宅ですね。7体とも屋上にいます」

「わかった。適宜情報を伝えてくれ」

「了解」


僕らは集合住宅へと向かう。

住宅の高さは4メートル程の二階建ての石造り。密集していて通路の幅が2メートルしかない。屋内での戦闘はディビヴァが有利になるのでこのまま前進することになる。

僕らは触れられたらアウトだから屋内での戦闘はリスクが高い。階段や狭い通路に居る時に勢いよく頭上から飛び掛かられると誰かが触れることになるので除外。

ディビヴァが群れを成すことは少ないのだが、今回はついてなかった。


「右に3。左に4。ともに距離約20。屋上にいます。どうしますか?」

「各自警戒は怠るな。いくぞ」


頭上を警戒しながら通路へと侵入する。


「囲んできています。正面左右に1。右2、左2。左後方に1距離6」

「5、4、3……」

「前に走れー!! 重石頼むぞ」

「おう!」


僕らがダッシュすると頭上前方左右からディビヴァが飛び掛かってくる。

今回のディビヴァは怪物タイプ。僕には触手の生えた悍ましい化け物に見える。

重石さんがそれぞれのディビヴァ動きと止め、譲二さんと坂東隊長が仕留める。

ディビヴァは実体がないのか、血が出たりはしないが霧になって消滅するまでに3秒かかる。

霧になりかかっているディビヴァを瞳さんが蹴りつけ、そのまま踏みつける。僕らはそのままディビヴァを飛び越え、前進する。囮になってくれた瞳さんと譲二さんにディビヴァ4体が襲い掛かる。

譲二さんが銃で応戦し、瞳さんはナイフで防衛。


「みっちゃん上。そっちに一体」


僕は振り向き頭上に向けて銃を構えるとディビヴァが頭上から飛び掛かってくる。重石さんが動きを止めてくれたのでそのまま仕留め――


「みつき! 伏せて!!」


僕はわけわからず、撃つのを止めて伏せると、僕が立っていたところにディビヴァが生成し始める。それを重石さんがナイフで仕留め、頭上のディビヴァは坂東隊長が殴り倒す。ディビヴァを打撃で倒せるのは身体能力を技能によって上げれる人だけ。ぶっ飛ばされたはディビヴァは霧となって消える。

怖かった。この生成は怖い。前触れはあるみたいだけど、僕にはわからない。これで毒に侵され年間数名の方が命を落としている。

殴った坂東隊長は急いでグローブを脱ぎ捨てる。幸い浸食はグローブだけで済んだようだ。

だけど、無茶過ぎる。一歩間違えれば毒に侵されていたんだ。怖すぎる。

僕は心配で坂東隊長を見るが、安心させるよう微笑まれる。


「大丈夫だ。もう慣れた」


絶対嘘だ。いつもそうだ。坂東隊長は結構無茶をする。今の討伐も一度基地に戻ってライフルで狙撃することも可能だったはずだ。だがそうしなかった。譲二さんと瞳さんがいることも突撃の判断にはなったと思うが、それでも命を懸け過ぎだ。

坂東隊長のご家族がディビヴァによって殺害されているのも聞いている。この班は僕以外ディビヴァに対する殺意が異常に高い。僕は自分の命が大事だが、仲間も同じように大事にしたいと思っている。ほんと無茶はしないで欲しいといつも思う。


譲二さんと瞳さんは危なげなくディビヴァを仕留め、僕に笑顔を向けてくれる。瞳さんのお陰で今日も助かった。僕も笑顔で手を振ってお礼を言う。


「隊長。目的地までディビヴァの反応はありません。応援に行きますか?」


瞳さんが御影班に合流するかを確かめている。


「いや、大丈夫だろう。向こうは地上戦だろ? ペガドラもいるし楽勝だろ?」

「まあ、……そうですね」

「では帰還だ。帰るまで気を抜くなよ」

「はい!」


今日の討伐は終わった。

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