第6話

――ジジジジジジジ。


朝5時半の目覚ましを止め起床する。


ゲーム後はホントにぐっすり眠れる。脳が疲れるからかジェネシスキングダムを始めていら睡眠の質がとてもいい。以前からそんな話は聞いていたけど、ほんとにスッキリ目覚めれる。

不眠症の人なんかも不眠症を治すためにこのVRゲームマシンガドルテイバーを購入するそうだが、流石にポンと500万もだせるのは金銭にゆとりのある人だけだろう。

僕もお金を貯めるのには苦労した。

まあぶっちゃけ戦場に駆り出されて生き延びるのに必死で、お金を使う暇がなかっただけなんだけれども。


着替えながら今日の予定を思い出す。

現地までの交通手段は電車と新幹線だが、向こうに着くとバスで基地まで向かう。

今回は久々の大規模掃討作戦。

死なないようにしなきゃな。


真月みつき。朝ごはん食べるんでしょ?」


一階から母の声がする。

そんな大声出すと都月つつきが起きるじゃんと思うが、うちの可愛い妹は母が起きると大体起きている。

朝ごはんは僕が用意する時もあるが、僕が仕事の時は母さんが準備してくれている。


「うん。今行くー」


三日分の着替えが入ったボストンバッグを肩にかけ、忘れ物がないか確認する。

財布さえあれば最悪大丈夫なんだけどね。

一階に降りると家族全員が揃っていた。


「父さんいたんだね」

「ああ、今日は休みだ。都月つつきと遊んであげないとな」

「それは大事。いっぱい遊んであげて」

「うむ。真月みつきは仕事なんだな」

「うん。今回は三日だって。できるだけ早く帰ってくるよ」

「何か必要なものはあるか?」

「んー、大丈夫かな。VRゲームマシンガドルテイバーも買っちゃったし、お金ないから稼いでくるよ」

「そうか。気を付けてな。死ぬなよ」

「うん」

「……真月」

「何?」

「帰ってきたら話がある」

「え? 今じゃダメ?」


父さんはもったいぶる性格じゃないから、聞けば話してくれるだろうと思う。時間ないけど。


「そうだな。父さんの親友で神藤しんどうってのがいただろ?」

「神藤博士のこと?」


勿論覚えている。なんでそんないい方するんだろう。


「そうだ。その娘さんがな、うちにくる」


神藤家。僕の父さんの親友でもあり、その一人娘が僕の幼馴染だった。

娘さんと聞いて一瞬驚くが、彼女は死んだんだと思いなおす。彼女が亡くなってから疎遠になったから。


「……そうなんだ。まだ小さいの?」

「いや、真月と……同い年だ」

「はい?」


神藤家に僕と同い年は、死んだ彼女しかいないはず。

冗談にしては笑えない。僕は父さんを睨む。


「何言ってんの? 冗談だったら僕、本気で怒るよ?」

「わかってる。わかってるから。だから帰ってきてからと思ったんだ。だがな、姫色ひいろちゃんは生きてるぞ。俺も聞かされて信じれなかったさ。詳しくは帰ってきてからだ。だが、朗報だろ? だから話した」


父さんの眼差しは嘘を言ってるようには見えない。

それどころか、僕を安心させるようにまなじりを下げる。


「……僕死んじゃったとばかり思ってた。だってもう助かる見込みないって。面会謝絶でその後引っ越したって。お葬式もしないからって聞いたのに。ほんとのほんと?」

「ああ、姫色ひいろちゃんも真月みつきに会いたいそうだ」

「父さん!!」


僕が大きな声を出すので驚いた父さんだが、次第に優しい笑みに変わる。


「よかったな真月」

「うん!!」


今日、死んだと思っていた幼馴染が返ってきた。

昨日のゲームでのイベントより嬉かもしれない。

だがそこで冷や水を被せられる。


「姫色ひいろちゃんな。後遺症があるそうだ。だから今まで会いたくなかったと聞いた」

「え?」

「それでも随分改善されたそうだから、今回の話が来た。だから真月みつき。無事帰ってきて自分で確かめろ。死ねない理由が出来ただろ?」


少し悲しそうに言う父さんはどんな気持ちなんだろう。

僕が戦場に行くのに一番反対していたのは父さんだった。

いくら国の危機であっても子供を戦わすのは違うと訴えていた。

でも、僕はそんな父さんたちが世間から非難されるのがたまらなく嫌だった。

だから戦うと言い出したのは僕からだ。

都月つつきも生まれたばかりで、僕が守りたいと思ったのもある。


うちの両親が凄く良い人かと言えばわからない。

父さんは結構身勝手だし、母さんは適当な所が目立つ。

二人とも我儘なため喧嘩も多い。都月つつきが生まれる前くらいから夫婦仲は改善してきているけど、人としてお手本かと問われるとNOと僕は言うだろう。

だけど尊敬できる大人か? と問われれば間違いなく僕は頷く。

うちの家族の教育方針は単純だ。


自分の気持ちを偽るな。言いたいことは言え。勝手に諦めるなだ。


だからか夫婦喧嘩は絶えない。

いいのか悪いのかはわからないが、僕はこの方針に従って生きている。

こんなだから、僕は思ったことを正直に言うようにしている。


「都月を置いて死ぬわけないじゃん。それでもって姫色ひいろちゃんと会う」


親の心配より妹が大事。それが今の僕の気持ちだ。


「だな」


父は苦笑する。

僕は可愛い妹の前で屈み目線を合わせる。


「つつきぃ」

「あい」


いつの間にか食卓で豆乳を飲んでいた都月つつきが元気よく返事をする。


「いってくるね」

「いってらんしゃい」


今日も妹の笑顔に癒される。

僕も自然と笑顔になる。

笑顔になりたくて笑顔になるって素敵だなーとちょっと気取りつつ、最近いいことばかりで少し心配になる。

あ、振られたからトントンか、などと自分の運を強引に引き戻す。

さくっと帰ってこよう。

いつもより気分よく僕は戦場へ向かった。





―――――   





電車を乗り継ぎ、目的地へと向かう。

新幹線の車窓から見える景色は早すぎて綺麗とは言えない。

だから今は景色を楽しむのは現地に着いてからだ。

朝ごはんは母さんにサンドイッチにしてもらったので、それを戴く。

ゲームのイベントのことや、生きていた幼馴染のこと。後遺症って大丈夫なんだろうか。

いろんなことを考えていたら現地に着いた。

ここからはバスで移動。

駅を降りると、物々しい真っ黒の大型バスが待機していた。

黒かあ、もっと明るい色の方がいいんだけどといつも思う。

バスに乗り込むといつもの顔ぶれが僕に笑いかける。


「よう。みつきぃ。元気してたか?」

「はい。おはようございます。譲二さんと瞳さんもお元気そうで」

「ういー、みっちゃん今日もよろしくー」


僕をみっちゃんと呼ぶ22歳のお姉さんは瞳さん。

短いキャミソールで腹だしなのにベージュのピチッとした七分シャツを着て、ミニスカートなのにやっぱりベージュのストッキングを履いている。露出度が高そうで高くない栗色の髪をしたグラマラスな女性。

最初に話しかけてくれた筋肉質でツイストパーマのお兄さんは譲二さん。瞳さんの婚約者で同じ班の戦友だ。


「あれ? 隊長たちはまだなんですか?

「ああ、隊長は今回先に行ってるって。なんかお偉いさんたちと話があるんだってさ」

「そうなんですね」


僕達のチームは5人。

僕と譲二さんと瞳さん。坂東隊長と補佐の重石さん。

坂東隊長は大ベテランで29歳。見るからに軍人さんぽっくて角刈りだ。重石さんは26歳でボディビルダーでソフトモヒカン。譲二さんは瞳さんと同じ22歳で大学四年生。大学と言っても特殊兵装課の幹部候補生。僕もいずれはそこへ通うことになる。

バスの中には僕たち以外の3チーム15人が既に待機していた。


「あ、すみません。僕が最後だったんですね」


ペコリとお辞儀すると「まだ30分前だから問題ない」と別のチームの隊長が返事をしてくれる。

僕が窓際の席に着くとバスは出発した。

ほんの些細なことでも挨拶と気遣いは大事だと坂東隊長から口酸っぱく言われているので、他のチームとの方々との関係も良好だ。まあ、同じ命を懸ける戦友でもあるしみんな仲は良いんだけど。

チームの隊長には25歳になると指名される。相性のいい副官を体長が指名でき残りの三名は総合戦力に見合う人員を上層部が決める。

今バスに乗っている隊長さん達は重石さんの同期の人達。現在26歳の若手の指揮官だ。

僕は能力が低かったので、優秀な坂東隊長の元に配属された。あれから一年。僕も随分馴染んだと思う。


バスは街中からどんどん田舎へと進んでいく。

景色が目に見えて自然が溢れものへと変わっていく。

僕はこの自然を目いっぱい感じて、美しいと感じるものを探す。

バスの窓を開け、外の新鮮な空気を吸い込む。

正直バスは苦手だが、自然豊かな田舎の風景を楽しみながらの乗り心地は嫌じゃない。

少しでもゲームの世界を豊かなものにしようと、心に残るものを探すのは楽しい。


「みつきも好きだよなー。VRゲームジェネシスキングダムのために景色見てんだろ?」

「はい。良いものを探して思い出にするのは楽しいですよ。譲二さんも結構ゲームやるんでしょ」

「まあそりゃやるけど、500万は今でも高過ぎだろと思うわな」

「ですねー。お金がないと買えないですもんね。あ、でも一般の人は300万らしいですね。僕らは特殊仕様の必ずスキルが手に入るような仕組みだって。でも300万円で買ってもほとんどの人はスキルが手に入るみたいですよ。500万払う意味あったんでしょうか?」

「あれ、みつきは聞いてないの? 俺らのって痛覚設定が0から100パーセントまであんだろ? 一般は20までらしいぞ」

「えっそうなんですか? 痛覚設定は最大値まで上げた方がステータスが上がるって……」

「一般は20だろ? 俺らは100まで。ステータスの伸び率は5倍違うんだよ。知らなかったのか?」


初耳すぎる。

え? 軍では絶対100にしろって厳命されてるし(訓練になるからという理由)、ああーだから防御特化の僕は驚かれるのか。スペシャルで一点特化の上に補正まで一般の人の5倍だもんな。通りで硬いわけだ。

とはいってもその補正は微々たるもの、僕の場合は特化してる上に更にそこに集中的にステータスが上乗せされるから奇跡的な特化率なのかもしれない。

そう思うと僕は日本一硬いビルドなのかもと思ってしまう。


「他にもあるけど、そのうち習うだろ。他は軍用だからゲームとは関係ねーよ」

「そうなんですね。勉強になりました」


先輩であり戦友でもある仲間たちと雑談をしながら景色を楽しんでいると目的地に着いた。

各自宿舎へ荷物を置き、各班それぞれ班長の待つ会議室へ集まり、本日の予定が告げられる。


「14時に南部方面に集合し、全部隊の総力を持って北上する。南部はすでにある程度の殲滅は行っているので、今日中に中心地付近まで到達見込みだ。各自昼食を取り13時半には所定の場所に集合すること」


僕が大規模掃討作戦に参加するのは3回目だ。

各拠点で半年ごとに一回行われる。

全国には7か所存在するのだが、僕みたいな新兵を抱えたチームは新兵が成長するまで近場の慣れたところで経験を積み、後に全国に派遣される。といっても所属地が決まっているので、他の地域の現状を知っておくための研修みたいなものらしい。みんな少し旅行気分で行き、観光してから帰ると言っていた。もうそれ仕事がおまけじゃんと思うが、仕事的には命を懸けているので何とも言えない。


時刻は12時前。隊長の注意事項と指示も終わったので会議室を後にする。

体は動かさずとも成長期はお腹が空く。早速食堂に向かいお昼を済ますことにした。


「あっ、みつき先輩! こっちっす、よかったら一緒に食べましょう」

「天馬くんに龍一くん。そうしよっか。久し振りだね」

「おう。みつき先輩も元気そうで」


元気に声を掛けてくれた茶髪の優しそうな子は天馬くん。ちょっと偉そうで黒髪ツーブロックが龍一くん。ともに14歳の最年少だ。

だが彼らは期待の新人。まだまだ教育も訓練も足りていないが、その力と有用性はお墨付き。

僕なんかすぐに飛び越えて皆が認めるほどに頭角を現すだろう。

なのに僕に懐いてくれるんだから嬉しい限りだ。

盆の上に大盛に盛られた定食を持って彼らのいるテーブルに向かう。


「二人とも今日はよろしくね。死んじゃだめだからね」

「あはは、みつき先輩はいっつもそれですね」

「死ぬわけねーよ。雑魚じゃねーんだよ」


天馬くんはいつも嬉しそうに答えてくれるので、弟がいたらこんな感じなのなって思うくらい接しやすい。

龍一くんはツンデレだから仕方ない。


「なんだよ。気持ち悪い目で見やがって」


ツンデレは勘も鋭い。

言葉の割に嫌そうでないのが龍一くんのいいところだ。接してると分かるが単なるコミュ症っぽい感。可愛いもんだ。

僕の所属する坂東班以外で気を遣わなくてすむ貴重な後輩たち。後、僕の知り合いと言えば――


「ういっす。緒川おがわくん。俺も一緒していい?」


僕は声の主を見上げる。

彼は他所道よそみち滅魔めつまくん。長身で引き締まった体躯をしていて、センター分けのパーマをした僕の同級生。ツイストスパイラルなんたらとか言ってたけどそんな髪型らしい。

滅魔って名前を聞いた時は、お洒落さんなのにキラキラネームで不憫だと思ったけど、事情を知るとマジで悪魔を倒すために生まれてきた申し子みたいじゃんと思った。


「もちろん。他所道よそみちくん」


天馬くんは兎も角、龍一くんは少し滅魔くんを睨む。

二人ともホープで間違いないが、滅魔くんは違う。

僕と同期で同じく16歳。同じ中学に同じ高校へ通う同級生でもあり、背の低い僕とは違い身長は175センチらしい。

僕らを見下ろすその視線に侮りや嘲りはない。

性格もサッパリしていて、付き合いやすい

なにより彼は戦闘力が高い。

おそらく彼ほどこの仕事に向いてる人はいないだろう。

彼の強さは新人の域を遙かに超え、もう戦力に数えられているほどの猛者だ。

まだ僕と同じ未成年なため軍部も気を使っているが、何れは彼は上に立つだろう。


僕から見ると正に主人公。

それが他所道よそみち滅魔めつまくんだ。


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