第2話 3限の講義室
「隣いい?」
「どうぞ」
「ありがとうね、ラズウェリさん」
狭めの教室の壁際の机に座っている女子学生の隣に最は腰掛ける。軽いカバンから赤色の筆記用具と講義用のプリントを取り出し、椅子の横にカバンをしまう。その様子を見届けた女子学生は、首を左に向けながら最に声をかける。
「まだ窓際空いてるのに、月城君変わってるのね」
「んー、俺窓際って外気になっちゃうんだよね。あとこの時間は日差しで眠い。ラズウェリさんもそんな感じ?」
「まぁ、そんなところ」
三限の開始時刻になっても教授がやってこないため、最たちを含めた学生たちは雑談を始める。この講義の教授は遅れることが定番であり、三十分を経過しても来ない場合に限り、学生の誰かが呼びに行くというのが講義のセオリーとなっている。
「そういえばラズウェリさんって、お高く止まってるの?」
「……それを直接言ってきたのは月城君が初めてね」
昼休みに女子生徒たちがしていた話題を、最はためらいを見せることもなくラズウェリ本人に問いかける。ラズウェリは呆れたように最を見て、慌てることもなく冷静に、一度静かに目を閉じたあとゆっくりと瞼を開いて瑠璃色の瞳をのぞかせる。
「そう見えるのならそうなんじゃないの? どうせそう言ってる人たちは、私が違うと言っても意見を変えないんだし」
「うわぁ、無難すぎる答えされた」
「あら、実は周りがみんな愚かに見えるって言った方がいいのかしら?」
「そっちのが面白い。悪女っぽくて面白い」
「そんなこと言ったら私の大学生活終わりじゃない」
「最近は悪女ものの漫画とか小説が流行ってるらしいよ?」
「フィクションでしょ。現実の悪女が流行ってたまるものですか」
「でも流行ってるかもね。現実の悪女」
最の言葉にラズウェリが反応をしようとしたところで慌ただしげに教授が講義室に入ってくる。教授は「いやーごめんごめん、横断歩道を渡ろうとしていたペンギンを待つ渋滞が長くてね」と悪びれもなく明らかに嘘の言い訳をしながら講義用のプリントを配布した。
習作集 キリエ @kirietoon
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