習作集
キリエ
第1話 昼休みの学生食堂
「知ってる? ラズウェリさんの話」
「聞いた聞いた! なんか雰囲気変わったんだよね? 悪い意味で」
「そうそう。前は普通だったのに、なんかお高く止まったって感じで」
「なにそれ。そうすれば男子が見てくれるとか? なんかやだねー」
「美人だしハーフらしいけど、中身がそんなんじゃね」
「でもラズウェリさんが自分から声かけるのって月城君だけらしいよ」
「えー月城君もかわいそう! 同じハーフだから? 純日本人に興味ありませんってことー?」
「ハーフじゃないよ。クオーターだよ」
女子生徒たちの心無い会話に入り込んだのは、会話の登場人物に含まれてしまった男だった。 温かいピンク色の髪をした、細身で静寂な雰囲気をまとう。それが月城最である。
「つ、月城君!? あ……髪染めた…?」
「うん。昨日ね。なかなかに思い切っちゃった」
女子生徒たちが驚いたのは突然の最の登場、だけではなくその容姿の変化だった。月城最は本人の宣告の通りクオーターであるが、彼を見た人はみな彼をハーフであると思うほどには日本人離れをした顔立ちと色を持っている。女子生徒たちの知っている月城最は地毛が金髪であった。それがピンク色に変化していれば驚きは充分である。話をしている近くに本人がいたと思わないほどに。
「似合ってるよ! 月城君ならブリーチ必要ないよね? 羨ましー!」
「あたしも髪の毛明るくしたいんだけど絶対痛むー!」
「明るい色でも綺麗な髪の人いるから、ケア頑張ればいけるんじゃない?」
「そうかなー? バイト頑張って美容院のシャンプーとコンディショナー買えるように頑張ってみるー」
ヘアケアの話から最近の美容グッズ、ダイエット食品の話まで発展した頃に、学生食堂の時計の針が昼休み十分前を指しているのに気づく。
「やばっ、あたしたち次西棟じゃん! 急がないと遅れる!」
「マジじゃん! 月城君ありがとねー! 染めたら感想言ってもらうからね!」
慌ただしく食器を片付け、荷物をまとめて女子生徒たちが立ち去った後、最もいそいそと荷物をカバンに詰めて三限の講義室へ向かった。
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