琴寄奏音

 30分後。


「はー満腹」


「コウ、消化がてら駅前まで散歩しようか。私はドーナツが食べたい」


「えまだ食べるんすか深鈴さん」


 てくてくてく。

 てくてくてく。

 てくてくてくてくてくてくてく。(337拍子)


 駅前でドーナツを軽く20個購入する深鈴さん。帰る途中に10個、夕食後に10個食べるらしい。


「太りますよ深鈴さん」


「何か?」


「いえ何でもありません」


「…………」


「…………」


「…………(もぐもぐ)」


「……おいしい?」


「おいしいよ。人のお金で買ったドーナツは特にね」


金持ちなのになぜ人に買わせるんだ。


「ひとつ言っておくとね、お金持ちなのは私の両親と祖父母であって、私自身はお金持ちではないのだよ」


 ぐうの音も出ない。


「…………」


「…………」


「…………」


「ところでコウ。先ほどから小さな女の子が君の服の裾を引っ張っているのだが」


「へ!?」


「おにいちゃん、わたしを……つれて……いって……」


「わーなんか倒れた!?」


「コウ、連れて行ってあげなさい」


「なんで!?どこに!?」




 コウ宅。


「ただいま」


「おじゃまします」


「……(爆睡中)」


「……で。コウ、この子誰?」


「誰か知らずに連れて行けって言ったのさっき!?」


「だってお兄ちゃんって言っていたし、コウのいとこか知り合いかと」


「違うわ初対面だ!」


「え……。どうすんの?」


「こっちが聞きたいわ!!」


 押し問答をしていると。


「あ……れ?ここは……?」


「目が覚めたね。おはよう。いや今は……何時だっけ?ヘイコウ、今何時?」


「17時だよ。って人を某お助けAIみたいに使わないでくれますかね」


「17時か。微妙な時間だ。こんばんは、でいいのかな?では改めまして、こんばんは、私は花宮深鈴。君は?」


「ことよりかのんです!」


 そう言って、カバンについているネームタグを見せてくれた。琴寄奏音。これが彼女の名前らしい。


「お~奏音ちゃんっていうのか~こんばんは~!!僕晃一。コウ兄ちゃんって呼んでねえ~!」


「うん!」


「え、きもいよコウ」


「マジトーンで天才にきもいって言われるのはきつい!」


「きもい人にきもいって言って何が悪いのだろうね~奏音ちゃん」


「ね~!かのん、ようちえんにきもいひとがきたときのくんれんしたとき、せんせいが、『きもいひとがきています。みんなかくれてください』ってほうそうしてたよー!」


「大丈夫なのその幼稚園。情操教育的にも、身の安全のためにも」


「はいからようちえんっていうとこだよー!」


「え、うちの母さんが働いてるとこじゃん」


「…………(深鈴)」


「…………(奏音)」


「…………(俺)」


「そ、そういえばおなかがすいたな!コウにいちゃん、なにかたべたい!」


 空気読める子奏音ちゃん。マジナイス。


「いいよ~何食べたい?」


「かのん、ふぁみれす?にいってみたい!」


 人の財布事情は読めない奏音ちゃん。あといくら残ってたっけ……。


「あ、おかねないの?ごめんね。じゃあおなかすいたのがまんする」


「ひ、人の心読んだ!?」


「うえっ!?よ、よんでないよ!コウにいちゃんがこまったようなかおしてたから、おかねないのかなあーっておもっただけだもん!」


「そ、そうなんだ。っていうか、お腹空いたの我慢するって、いつから我慢してるの?」


「さいごにごはんをたべたのは、えっと、きのうのあさかな」


 結構やばいじゃん!今食べないと結構やばいじゃん!


「コウ、私もお腹が空いた」


 と、いうことでカフェ・リンリンに来た。

 もちろん俺のおごりである。深鈴に頼んでみたのだが、

『男ならおごってくれるよね?』


 と、圧をかけられたのだ。だがお金がないので深鈴に借金をすることになった。利子はトイチ(10日ごとに1割返済額が増える)。さっきの恨んでるな。


 深鈴ママが注文を取りに来た。


「かのん、ナポリタンと、オムライスと、カレーと、たまごサンドと、カツサンドがたべたーい!」


「ナポリタン500円、オムライス500円、カレー600円、たまごサンド300円、カツサンド350円。合計2250円っと」


 細かくメモしている深鈴さん。


「じゃあ私は、この店で一番高い料理と、一番高いお酒を」


 げ。深鈴さんだけで3500円いくんですけど。俺だけでも節約せねば。一番安いのは……?


「お、俺は、たまごサンドと、コーヒーで」


「たまごサンド300円、コーヒー250円。奏音ちゃんのとあわせて合計2750円っと」


「かしこまりました。追加のご注文等あればお申し付けください」


 満面の笑みで去っていく深鈴ママ。久々の大収入にうれしそうである。

 俺は今日だけでいくら出費したんだろう。


 1時間後。


「おいし~い!!コウにいちゃん、ありがとう!」


 追加注文を重ねに重ね、爆食を続ける奏音ちゃん。

 だが深鈴も結構な量だ。注文数自体は少ないが、大盛りやシェア用サイズなどを片っ端から食べている。今日、二人で全種類制覇するかもしれない。


「お客様、ラストオーダーのお時間です。ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」


「あ、あとまだたのんでないデザートぜんぶもってきてください!」


「かしこまりました。ご注文は以上でよろしかったでしょうか?ではこちら伝票になりま~す」


 今にもスキップしそうな足取りで去っていく深鈴ママ。開店以来、初めての大収入だろう。


「えっと、合計42550円、っと」


 今深鈴の口から恐ろしい数字が飛び出した。


「お会計になります。42550円です」


「コウ、今は私が払うけど、返すのだよ。絶対。ハイ一筆入れる」


「はい……」


 半泣きでサインをした。


「利子はトイチだからね」


「おいしかったあ~!」

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