正ヒロイン(仮)登場
「ここらへんか。」
ん?いまなんと?
「おはようコウ。あぁ今は15時か。では改めて。こんにちは、コウ」
高い位置で一つに縛った栗色の髪の毛が揺れ。パソコンに向かっていた端正な顔がこちらを向く。僕はその顔に向かって。
「こんな痛いなんて聞いてないんですけど!静電気くらいって言ったじゃん!」
「興奮しすぎだ。落ち着きなさい。あ、こら!機械をボコろうとするのじゃない。……えっと、肉体に異常はなし、と。あとは精神のチェックか。名前と住所は?」
「一ノ瀬晃一。年齢は17歳。住所はA県B市C通り1丁目2番地。」
「OK。じゃあ私は誰?」
「
殺されるところだった。なんで研究室に包丁があるんだ?
この深鈴という女は、俺の幼馴染である。とはいっても、5才ほど年は離れていて、どちらかというと近所のお姉さんといった感じだが。そして、ものすごい研究馬鹿だ。研究に夢中になりすぎて、大学の単位を落としまくった結果、22歳(あ、言っちゃった♪)となった今でも、大学一年生だ。
「安全装置の実験に付き合ってくれてありがとね。おかげでわかったよ。」
「何がだ」
今、彼女は別の生き物になって好きな年代に一時的に生まれ変わる機械を発明している。俺はそのテスト試行に呼ばれたわけだ。ちなみに、この機械内では時間が濃縮されるので、テスト試行は数秒で終わった。そして俺はとある悩みを抱えている。
「私の研究結果は完璧だったということだよ!!!ところで、ないと思うけど改善点とかってある?」
「あ……る。あるあるあるあるっ、大ありだ!」
「へ?」
「まず第一に、なんで俺がモテてないわけ?俺にはモテ期永遠に来ないの!?というか陰キャって、陰キャって!!」
そう、俺はなぜかモテないのだ。顔もそう悪くはないはずなのだが(自己フィルターを大いに含む)。
「え、だってそれは機械が。あと、まず第一に、っていうのは文章としておかしいよ。ほら、頭痛が痛い、みたいな感じで、意味が二重になってるの」
「機械がじゃない!人のせいにしないと幼稚園で習わなかったの!?」
「私保育園だったよ?あと機械は人じゃないよ?」
そしてこの機械は、対象人物の心(脳?)の奥底を読み取り、なりたいようにシチュエーションなどを選んでくれるはずだったのに、
「なのにいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃィィィィいいいいいいい!!!!」
ぜえぜえはあはあ。
「大丈夫?やっぱ精神状態がおかしいのじゃ」
「第二に、!ちょっと古い時代に、しかも現実と全く同じ人物として飛ばすのってどうかと思うんだが」
「それも機械が……」
うぐっ。
「っそれに!何でもできる人にするって、コレ嫌味なの?ねえ嫌味なの?」
「コウの頭と運動神経、別に悪い訳じゃないでしょ?特に運動神経。めっちゃいいじゃん!」
「っ天才に尊敬のまなざしで褒められて悪い気はしねえ!じゃなくて!別に成績は、悪い訳じゃない。中の上くらいだし。でも!頭が良すぎ~~るやつがすぐ近くにいるから、何かと比べられるんだよな???」
そう、むかつくことにこの深鈴とかいう女は、何かを見たら瞬時に覚えられる特殊能力的なものを持っていて、しかも適応力がすごい。なので能力を最大限生かしながらも世間で浮かずに済んでいる。さらに不思議なところは、小学三年生のころ、誰も知らないうちに日本で最難関といわれている大学に合格していたことだ。そこから彼女は小学校を卒業するまで待ち(余裕あるう~)、その大学に通い始めた。
「改善点は以上?でもこれ、ただコウが自分の事大好きなだけじゃない?それを機械が読み取っているだけであって」
むぐ!?
「そ、そういえば、お腹が空いてるんだけど、何かない?」
「急に話変えたね」
気のせい気のせい♪
「じゃあ、カフェに行こうか。」
「もちろん、深鈴様のおごりでございますよね??」
「え、男ならおごってくれな」
「だってどうせあそこだろ」
「何故ばれた⁉」
ということで、深鈴と一緒に歩き出す。
その前に。
「深鈴着替えたら?」
「コウ、女の子に向かってなんてことを」
「深鈴、お前自分のファッションセンスを自覚しろ」
ちなみに深鈴はお気に入りのサッカーチームのTシャツにプリーツスカート、紺色のハイソックスに長靴、そして白衣という格好である。
「いいから着替えろ」
そして奇抜なファッションショーが始まり30分後。
「私はこの組み合わせはあまり好きではないのだが」
「前よりましだ」
猫のワッペン付きのパーカーに細身のジーンズ、スニーカーに落ち着いた。
そしてようやく出発。
てくてくてく。
てくてくてく。
てくてくてくてくてくてくてく。(337拍子)
と、深鈴専用研究所(庭付き。金持ちぃ~!!)から歩くこと約30秒。
「着いたよ」
「ほらやっぱりここじゃん!」
「いいじゃん。まずいわけじゃないし?」
「だってプロなんだろ?」
そう、着いたのは深鈴の両親が経営するカフェ、『カフェ・リンリン』である。店名からも両親の親バカ具合がお分かりいただけるだろう。
だがそんな親バカ両親でも料理の腕はピカイチ。何を作ってもめちゃめちゃおいしいのだ。だが、この店には客が全ッ然来ないのだ。何とも不思議である。この町の七不思議(自己統計)の一つだ。
「住宅街の奥深くにあるからじゃない?なんか近寄りがたい雰囲気を醸し出しているというか」
な、なぜ思考を読んできたこの女⁉
「だてに17年近所づきあいしていないよ」
「来たよ」
「おっじゃまっしまーっすっ!」
お客さんがいるかもしれないので一応裏口から入る。ちなみに今日は一人もいなかった。おやつの時間なのに。
「あら~いらっしゃい晃一君、深鈴。二人とも、何食べたい?」
「私は何でもいいよ」
「今日はお客さんがあまりいらしていないからなんでも残ってるのよ。もう、いつもいつも何でもいい、って。それが一番めんどくさいのがわからないのかしら」
それには激しく同意いたします、深鈴ママ。
「じゃあ傷みが早いストロベリーパフェと、パフェに合いそうな紅茶にするわね。晃一君はどうする?」
「では同じもので。あ、でも、紅茶はダージリン、濃いめで、砂糖、ミルク抜きでお願いします。あとレモンも受け皿に添えてくれると嬉しいです」
「相変わらず紅茶にだけは細かいね」
「俺なんか全然細かくないぞ。世の中には茶葉の産地、会社、お湯の温度まで指定してくる人もいるんだからな。人によっては、どうしても自分の入れた紅茶だけを飲みたいーってマイボトルに紅茶を詰め込んでるって人も」
「その話は耳にタコができるまで聞いたよ」
「じゃあそのタコ、見せてみろよ!」
「ないって、あくまで比喩ひゆだってば」
「そんな回りくどい比喩、使わないでくれます??」
「回りくどくありまっしぇ~ん!!よくある表現で~すぅ!」
「はぁ??俺が無知だといいたいのか??」
「そんなことはないけど、でも国語力は高くしたほうがいいんじゃない???ほらだってさっき、まず第一に、って言っていたじゃん」
こいつ、俺が最近国語の成績落ちてるからって……!!もう俺はかっちーーーんときた。
「やんのかてめえ?ああん??」
どこかで聞いたようなセリフを吐きながらつかみかかる俺。なぜかノリノリで応戦しようとする深鈴。最近ずっと研究ばかりだったから運動不足なのか?ま、でも体力差はこちらが圧倒的に勝っているのだよ。ここは我が家直伝背負い投げ(そんなものはないが)を……。
そのとき雷鳴が轟とどろいた。ような気がした。
「なあ~にしてんの二人とも!!!やめなさい!!!!!!!おやつあげないわよ!!!!」
深鈴ママである。怒ると超怖い。
「で、でも深鈴があ」
「深鈴があ、じゃない!人のせいにしないって幼稚園で習わなかったの!?」
またもどこかで聞いたことのあるセリフを吐きながら私の言い訳を一刀両断する深鈴ママ。人の家の子にも容赦しない。さすがだ。こんな大人になりたい。
「ごめんなさい……」
「深鈴も!人を挑発しないの!しかも年下相手に!分かった?」
「はあい……」
「分かればいいのよ~、さ、おやつ」
「やったぁ!」
深鈴ママ、言い訳する人には厳しいけど、ちゃんと謝る人には優しいんだよな。
……イチゴマシマシだあっ!ほんとにお客さん来ないんだな。
「いただきます!」
おいしいっ!これがタダで食べられるなんて、幸せ~……。
このカフェが繁盛してほしい思いと、そうなったらタダでは食べられなくなってしまうという思いがぶつかり合う。
結論が出た。
お金を出しても食べたいから、やっぱり繁盛してほしい!
そうだ。深鈴に食リポさせてみよう。さっきの機械で陰キャに仮転生させられた腹いせだ。
「それでは深鈴さん。食リポをお願いします。」
「はい。こちらカフェ・リンリンに来ています。このストロベリーパフェをいただきたいと思います。 ぱくっ、もぐもぐ……ん~!ストロベリーの程よい酸味と、生クリームの甘みがマッチしていておいしいです!ザ・定番という味なのですが、そこがまた何とも言えない安心感と、おいしさを醸かもしだしています!」
すご。絶対、『やだめんどくさい』とか言って断られると思っていたのに、ノリ良すぎだろ。自分もノルことにする。
「ありがとうございました深鈴さん。それでは、気象情報に移ります。来週の天気は、えっと、その、わかりません……」
「来週は確か晴れのはずだよ」
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