俺の幼馴染が超能力者かもしれない

藤田ルミナ

一ノ瀬晃一

「おはようございます、〇〇くん」


「おはようございます△△先生!今日、部活あります?」


「それくらい自分で確認しろ」


朝の聡怜《そうれい》高等学校は今日も賑やかな声が溢れている。


 僕はそんな中、足早に自分の教室へと急いだ。正直人間関係などどうでもいいと思っているからだ。別に、決して、友達ができないからとかいうわけではない。今、すごく冷たい空っ風が吹いた気がするが、気のせいということにしておいてほしい。


 僕の名前は一ノいちのせ晃一こういち。なりたてホヤホヤの高校一年生。ごくごく普通の家に生まれ、育った。運動神経はいいほうだと自分でも思っているし、頭もそんなに悪くはないと思う。だってこの有名進学校に入れたのだから(しかも推薦で)!


 一人でどや顔をしながら(気持ち悪い)教室について、荷物を片付ける。クラスの陽キャたちの声が聞こえてきた(僕はいわゆる陰キャというやつだ)。


 _ねね、今めっちゃ流行ってるらしい〇〇って知ってる?_知ってる知ってる、昨日有名インフルエンサーのHUhuhuトリプルHUが紹介して一気に伸びたんだよね!!_えー初めて見た~!か~わ~い~い~!!_なぁなぁ明日食べに行かん?_


 はあ?そんなの超古いじゃん。あいつら何遅れたこと言ってんだ?ていうか、ここ進学校だよね?あいつら勉強しつつ、ちゃんと流行のチェックまでしているのかすごいな・・・そこまで思って、ハッとした。あれは昨日、流行り始めたばかりなのに、なんで僕は古いとか思ってるんだろう。そういえばこの前も、新発売のWePhone17が古いと思っていた。おかしいな。


 ずっともやもやしながらその日の授業を受けた帰り道、僕の周りに大量の上級生が群がってきた。


「ねえねえ君、中学では長距離が得意だったんだって?うちの陸上部に入らない?」


「いやいや、水泳もすごく速かったと聞いた!ぜひうちの水泳部に!」


「ちょっとまってよ、この獲物子はうちのバスケ部が最初に目をつけてたの!……ね、バスケ。強かったんでしょ、バスケ部に入ってよ」


「いや美術部に!だってコンクールで最優秀賞だったじゃん!」


「ぜひ文芸部に!君の書く詩はとても興味深いと話題だ


「いやいや野球部でしょ!一ノ瀬君の豪速球なら甲子園優勝間違いなしだ!」


「ねえ君、勉強同好会とか興味なぁい?おねーさんが手取り足取り教えてあ・げ・る♡」


「なんだとソフトボール部を忘れ」


「吹奏楽部とかどう?シックスパックを目指してみない?ほら見てよ僕の腹筋!」


「おいゴラ露出狂。人の言ってるときに口挟みやがってェ、やんのかてめえ?ああん?」


「お~やったるわ!表に出ろやあ!」


「表に出なくてもいいわ!てめえら吹奏楽部の音がよお、いつもいつもきれいな音過ぎて集中できねえんだよゴラ!ちょうどいい、かかってこいやあ!ああん?」


「お前らこそいつもいつも大会で優勝ばっかしやがって!廊下に飾ってあるトロフィーがまぶしすぎんだよ!」


 なんか喧嘩が始まった。二日前の勧誘が解禁となった時からこんな感じだ。うるさい。僕はできるだけ陰キャとして、空気として埋没したいのだ。うんざりしたので、"陸上部が勧誘に来るほどの速い足"を使って、一目散に逃げ出した。


 すたこらさっさのさっさっさ。


 さすがの反射神経。陸上部の人が追いかけてくる。このままじゃ捕まる!だが甘い!僕の家はこの近くにあるのだよ。このあたりの地形は全部把握済みなのだあ!


 もう、ついて来れてないよね?


「ぜえええ、はあああ、ひいいい、ふううう、へえええ、ほおおお」


 深呼吸して落ち着いたあと、念のため遠回りをして家に帰る。ドアの前で気づいた。


「……勉強同好会のお姉さん、かわいかったなあ。あそこいいかも♪」


「ほんと?じゃあ入ってくれるんだね、やった!さあここにサインをしてね!もう必要項目は私の手で記入してあるから。ああやっと勉強同好会が部に昇格できる!この日を何度待ちわびたことか。一年生を釣るために整形してよかった」


 へ?勉強同好会のお姉さん?


「ぎゃああああああああああああああああ」


 逃げた。


 必死でまいて、見つかりかかって、まいて、見つかりかかって。


 しょうがないから近くのショッピングモールで親が帰ってくるまで時間をつぶすことにする。ハマっているアニメとのコラボドリンクがあったので軽く10本ほど購入した。ラベルはラミネートして永久保存だ。しかし重いな……全種類一気に買おうとしなければよかった。


 しばらくブラブラとウィンドウショッピングをして時間をつぶす。その間、腕がミシミシと悲鳴を上げていた。ハイ明日筋肉痛かくて~い♪……あ~重。


 親が帰ってくる時間になったので、家に帰ってご飯を食べ、ベッドの中でSNSを徘徊していると、「新商品!」を紹介しているインフルエンサーを発見。気になったので詳細を見てみる。動画が流れてきた。


 今回紹介するのは……、この〇〇でーす!いやこれめっちゃ可愛くないですか?□□社の新商品らしいんですけれど、も~ほんっとにかわいくて!……ちょっと食べてみますね~……わー甘くて美味しい!!……』


 なんだ、◯◯か、古っ。や~これちょっと見た目がよくて甘ったるいだけであんまり美味しくないんだよな~さっきのページに戻ろ~。


 って、えええええ!?


 また新しいものを古いと感じてしまった。


 もしかして僕、未来人だったりして。そんで地球の未来を救ったりして!ちらっとオタク根性でそんな妄想をした途端、頭の中に誰か他人のものと思われる記憶の切れ端が流れ込んできた。何だこれ、と思ってスマホを触り続けていると怒ったように一気に記憶が流れ込んできた。


 頭が割れるように痛い。僕はベッドに倒れ込み、声にならない悲鳴を上げながら、のたうち回った。

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