第十九話 「讐鬼」
小鬼。
有り余る性欲とそれをぶつけることで異種族すら孕ます特性を持つ生物。
濁り黄ばんだ大きな瞳、歪に発達した鼻と耳、不自然な程に張った腹と対照的な
今日、一人の冒険者により討伐された小鬼たちもまた、劣人故に、完全上位互換である人間の魔の手に気がつくことすら無く散った。
ところで、安全な住処を手に入れた小鬼たちは、何をしていたのだろうか。
衣食住の内、衣は彼等にとって無関係な代物。住は金縛りの洞窟で満たされており、食もまた、洞窟付近を彷徨く魔力を感知できない通常生物を捕食することで、満足とは言えずとも満たされていた。
では、衣食住全て満たされた彼等は何をしていたのか。最低限の生活を手に入れた彼等にとって次に必要なものは数だった。──そう、繁殖である。
数少ない雌個体へ、有り余った性欲を注力して
六級冒険者ロベルの手により討伐が為されていなければ、ものの一週間程度で二倍に近い数に膨れ上がっていたことだろう。
十四体の小鬼たちは全て骸となり、死体を冒涜するかの如くその耳を削ぎ落とされた。
最早、かの洞窟には小鬼は疎か、鼠一匹すら居ない。これまでの静謐な空間が再び形成された、──そう、思われた。
◇◇
「ナンダ、コレハッ⋯⋯!」
その個体は幼少より他の個体と全てにおいて違っていた。
濁りの無い大きな黄金の瞳、正常に発達した人間よりの鼻と耳、雄々しい腹筋と全体的に筋肉がついて均等の取れた巨躯、深い蒼の体色。醜悪な小鬼とは思えない程に人間に近いそれは、最早完全上位互換の人間を超えた「
「カアサン、トウサン、⋯⋯ア゙ァ゙⋯⋯ヨニィッ!」
彼の視線の先には、冒涜的死化粧の施された妹、ヨニィの死骸があった。
削ぎ落とされた耳以外は、今朝狩りに出掛ける前に可愛らしく送り届けてくれた姿のままである。
「ア゙ァ゙、アァ、ナゼダ」
黄金の瞳から煌めきが零れる。
堰を切ったように流れ出すそれは、彼の心情をありありと物語っている。
「ナゼ、ドウシテ、⋯⋯⋯⋯⋯⋯ダレダ、ダレダオレノカゾクヲコロシタノハッ!!!」
やがて涙は枯れ、理性ある獣である彼は、その全てを捨てて復讐鬼と化す。
彼を止められる、優しく諭してあげられる者は、唯の一人として残っていない。
黄金の瞳を血に染め、拳を固く握り締め、彼は誓う。
「カナラズミツケダス。──殺してやる」
奇しくもそれは、この惨劇を為した男と同じく、燃え盛る村を背景に。
彼は同胞との別れを惜しみながら、丁寧に土葬を施した。
掌や爪の間に付着した湿った土が、何とも言い表し難い感情を呼び起こす。
この感情はきっと、復讐を完遂するその時まで続くのだろう。そして、全てが終わった後も忘れることはないのだろう。
家族に、同胞たちに、そして憎むべき我が宿敵に、彼は思いを馳せた。
◇◇
《
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