第十四話 「試験」
ここ何日か滞在した城館を後にして、ロベルは冒険者組合へと向かった。昇格試験を受けに行くのである。
去り際に再度老執事から、辺境伯家へ奉公へ出ることを打診されたが、以前と同じような返事をして乗り切った。
今のロベルの最優先事項は、いち早く一級冒険者となって、その地位を享受することである。
屋台通りですれ違ったあの冒険者たちを見てから、余所見はしてこなかったし、これからもしないつもりである。
組合へ向かうついでに、以前とは別の宿屋へ宿泊の手続きを行った。
同じ轍を踏まない為にも、以前の宿屋よりもランクが高く、防犯設備のしっかりとした所を選んだ。勿論、手続きの際は、背伸びをした貧乏少年冒険者を装った。
組合へ着くと、いつもの受付嬢のもとへ行き、判断を仰いだ。
受付嬢からはここで少し待つように言われ、ロベルは言われた通り瞑想擬きのようなことをしながら待った。
◇◇
受付嬢は三人の冒険者を伴って戻ってきた。
受付嬢が言うには、彼等もロベルと同じように昇格試験を受けるらしい。
三人はロベルと同年代の少年たちだった。
しかし、ロベルとは違って健康的な筋肉をつけており、装備も潤沢とは言えずとも最低限は揃っている。
加えて、三人は同じ村の出身者で、現在はパーティを組んで活動をしているらしい。
受付嬢からの簡単な説明が終わり、三人はロベルの方へ体を向けた。
「モーリッツ、十歳」
「ぼ、僕はレオ、十歳です」
「俺はハンス、十二歳だ」
「そうか。俺はロベルだ。確か十歳だ」
「確かってお前、自分の歳くらいちゃんと覚えとけよ」
「ま、まあまあ。あ、そう言えば、受付のお姉さんの名前、ロベル君と似てるよね」
「ああ。名前を貰ったんだ」
ロベルがそう言うと、三人は各々表情を変えた。
無口のモーリッツは余計硬い表情に。
緩衝材役のレオは赤面に。
リーダーのハンスは不機嫌な表情に。
「そ、それって──」
「んな訳ねえだろ、ねえ? ロベルティーネさん」
「⋯⋯うふふ、秘密よ」
受付嬢はそう言うと、わざとらしくロベルへ流し目をしてから、ロベルを含む四人へ着いてくるよう促した。
それを見たハンスは明らかに不機嫌になっていたが、事情を全く理解していないロベルだけは何も思わず着いて行った。
「一次試験は口述試験です。組合職員から口頭で出される問題を同じく口頭で答えてもらいます。それでは私はこ──」
「っつーわけだ! 試験官はこの俺だ! 質問は一切受け付けん!」
受付嬢の言葉に割って入ったのは、鮮やかな青色の短髪を逆立たせた筋骨隆々の男だった。
明朗快活なその男はそれだけ言うと、睨む受付嬢を気にすること無く試験を開始した。
「そこのお前っ! 冒険者組合とはどういった組織か、三十秒以内に答えろ!」
最初に問題を出されたのは、レオだった。
「は、はいっ! ぼ、冒険者組合とは、自由組合と言う別称がある通り、国に縛られない機関で、えーと、冒険者に仕事を斡旋する所⋯⋯っ、です⋯⋯」
「六十点!」
「はい、そこのお前は!」
次に指名されたのは、ロベルだった。
「貴族制度によって埋もれてしまった有能な人間を発掘する機関だ」
「⋯⋯どうして、そう思った?」
「登録方法だ。あれは誰でもできるのだろう?
「成程な。うーん⋯⋯すまんな! 俺ではお前の評価はつけられん! 聞いていただろう? ロベルティーネ。お前が評価をつけてやれ!」
「えぇ⋯⋯貴方試験官ですよね、しっかりして下さいよ。⋯⋯そう、ですねぇ。飽くまで私からの評価ですけど、百点満点中、九十九点と言ったところでしょうか。
「問題無い。よし、お前は九十九点だ! よし次!」
青髪の男、ティーロはそう言うと、同じ質問を残った二人へしていき、それから更に二問目を全員へ出し、回答を聞き終えると、全員合格と言ってから二次試験へロベルたちを送り出した。
因みに、ハンスとモーリッツの一問目の回答は、レオと似たり寄ったりの無難な答えだった。
四人はティーロに言われた場所へ向かって歩き出した。
途中、ハンスからの射るような視線が更に鋭くなったことを感じたロベルは、警戒心を高め、直ぐに回避と反撃ができるよう歩幅や体勢を調節した。
結局何事も無く二次試験の会場へ辿り着いたが、ハンスがロベルへ悪感情を抱いているのは確かである為、ロベルは三人と少し距離をとって並んだ。
二次試験の会場は、良く乾いた硬い砂が地面に敷き詰められた殺風景な広場だった。
上から見れば、半径二十メートル前後の円のようになっていることだろう。
「七級冒険者パーティ、
四人は各々返事をする。
「試験内容を説明します。この試験では、一次試験とは異なり、戦闘力を試させてもらいます。組合職員である私が貴方たちの相手をするので、各々持っている武器で遠慮無く攻撃をしてきて下さい。私からは反撃はしませんが、防御の為に回避以外の行動を取ることがありますので、多少の怪我は承知して下さい。説明は以上です。──さあ、かかってきなさい」
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