三十九 ミズハさん

「これっ!加具土神さん!デレデレしないで、しっかりしなさい!」


 むむっ、これはいったい?誰ぞね?


「あたしよ!あ・た・し!」

 そういう声とともに、アルファが変身しおった。

 出たな!化け猫!アルファに取り憑いて、何をしておる?

 そう訊こうと思ったら、アルファはわしの腕の中で居眠りしとった。現れおったんはアルファの背後霊ではのうて、背後神の罔象女神さんだった。

「おぬし、三保の松原で女御にょうご乙女おとめさんに憑いておったじゃろ」

「あら、良くわかったわね」

「背後神が羽衣を風に奪われてどうするんじゃい」

「どうしてそんな事を知ってるの?天の神に聞いたの?」


「乙女さん、裸で寒そうだったから、わしの家で焚き火にあたり、暖めてやったじゃろうて」

「ええっ?タロちゃんなの?羽衣を風に奪われて寒がってたあたしを、家の囲炉裏のそばで抱いて暖めてくれたタロちゃんはカグツチさんだったの?」


「そうじゃ。おかげで、わしは乙女さんといっしょになって、子どもも産まれおった。あれは、ミズハさんの策略じゃろうに?」


「羽衣、風に奪われて、裸で寒かったのよ。タロちゃんの家のそばだったから、タロちゃんに助けを求めたの」

「しかしじゃ。夏も過ぎたあの時期に、羽衣を脱いで、スッポンポンで何をしとったんじゃ?」


「あの松原に、海に注ぐが川があったでしょう?あそこで水浴びよ。

 でもね。ほんとはタロちゃんを誘惑してたの。

 あたしって、貴族の娘だったでしょ。タロちゃんにとったら、雲の上の存在よねえ。ちょっと意味は違うけど、雲上人。だから、皆はあたしを天の女、天女って呼んだわ」


「それなら、貴族の力で平民のタロを婿にすりゃいいじゃろ」

「ああら、そんなんじゃ、刺激が足らないでしょう。だから、羽衣無くしたって言って、裸のままタロちゃんから逃げたの。捕まるの、わかってたけど、ハラハラドキドキよね。

 最後は捕まって、家で囲炉裏のそばで暖めてもらって・・・」


「お、やはり、わしはミズハの策略にはまったんじゃな」

「あたしの策略に、はまりたくなかったの?」

「うんにゃ。はまって良かったぞ。乙女さんは、身も心も天女だったぞ」

 わしは、囲炉裏のそばで乙女と過した夜を思い出していた。ああ、なんという、ニャンニャンなのだろう・・・。


「そうよね。ああいうのなら、何度してもいいわね・・・」

「これ、ミズハさん。身も心もトロケてきとるぞ」

「わかってる・・・。刺激的なニャンニャンだったわ・・・・。

 だけど、こんどは猫の背後神になって、何をするのかしら?」

「わからんぞね。これも、天の定めっちゅうか、そんなもんじゃろ。

 新しい任務があるんじゃろうて」

 そうはいったものの、その前の古い任務は何じゃったろうか?


「あら、そんなの決ってるわ。人助けよ。

 あたしの任務は、平安の女御にょうご乙女おとめさんの幸福だったわ。カグツチさんとふたりして、タロと乙女の縁結びをしたのよ。

 おさらく、今度は猫の姿で近づいて、また人助けするのよ」


「平安の時はタロウで、現代は、トラになって、サナと真介の縁結び・・・。

 今度はアルファになったミズハさんと、トラになったカグツチのわしで何をするんかいな?」

「また、乙女とタロみたいに、ニャンニャンして縁結びかな?」

「そうとはかぎらんじゃろ・・・」


 わしは考えた。わしもアルファも、平安の女御にょうご乙女おとめさんとタロウの思いを叶えてやった。現代はサナと真介の縁結びじゃ。神さんたちはわしらにいろんな経験をさせる気じゃろうて。

 ことわざにあるように、『鶴は千年、亀は万年』。人生には限度があるよってに、同じような経験を何度もすることは無かろう。とは言うものの、亀じゃのうて、神の寿命は何年じゃろうか。何年もあるはずよって、今度は何を経験されるんかいのう・・・。

 縁結びは経験しおった・・・。縁を結んだら、繁栄か・・・。

 繁栄となれば・・・、埴山比売神さん、サナだぞね。


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ボイスチェンジャー 牧太 十里 @nayutagai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る