21.

最後はごめんねと、また遊ぼうねとわざわざ身を屈めてまでジルヴァに手を振る詩織を見送り、まだ遊び足りなさそうなジルヴァに、「どこか遊びに行くか」と行って、その手を繋いで歩きだそうとした時だった。


「おうおう、兄貴なんてザマなんだ!」


植え込みから大きな影が急に出てきたものだから、咄嗟にジルヴァのことを庇った。──のだが。


「⋯⋯匡⋯⋯お前なんでそんなところにいるんだ」

「この一週間、兄貴にデートの心得をどんなに叩き込んでも、何がしでかしそうな気がしてな! 心配だからついてきたのさ!」


得意げな顔をする弟に、「あ、そう⋯⋯」と心底どうでもいいという反応をした。

あちこち葉っぱを付けていて何を言っているのか。


「それにしても、兄貴! 入って早々ダウンしていたじゃないか! 昨日は早くに寝たじゃん! どうしたんだよ!」

「どうしたもこうしたも、お前そんな時からいたのか」

「いたとも! なんなら兄貴達が家を出た時からつけていたからな!」

「⋯⋯暇かよ」


何をしているんだ、全くとわざとらしくため息を吐く祥也に、「それと!」とビシッと指を差した。


「詩織さんからあーんしてもらわなかったのか! あーんを!」

「何ふざけたことを抜かしているんだ」

「は? 兄貴の方こそ何言ってんだし! デートで、彼女の手作り弁当で、してもらわないとか、そっちの方がおかしいじゃん! だって、詩織さん、兄貴に伝えようとしたレベルだったんだぜ!」

「俺に、何を伝えようと⋯⋯?」

「だーぁ、もうっ! 本当に何にも分かんねーんだな! 兄貴は本当に残念なイケメンだなっ!」


髪を思いきり掻きむしっている匡に呆然としたが、やがてジルヴァと顔を見合わせては首を傾げた。


全くもってコイツの言いたいことも分からない。


急に具合が悪かったことを伝えたかった、のだろうとこの時はそう思い、またジルヴァと行くことになったら、その時に訊いてみよう。


そう思い至った祥也は、わーわー騒ぐ匡を置いて、ジルヴァと共に遊びに行くのであった。

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勘違いのランデブー 兎森うさ子 @usagimori_usako

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