20.
最初のうちは遠慮して食べようとしなかった祥也だったが、それでも食べて欲しいと詩織はその手を取って自身の分の給食をあげた。
それでようやく食べてくれた祥也に、ホッと安堵したことも。
長年溜めていたものをようやく言えたと言わんばかりに深いため息を吐いていた詩織をよそに、祥也は眉間に皺を寄せた。
そんなこと全く憶えていなかった。
当時はただその時間が終わって欲しいと、たまにそのまま帰ったこともあった。
それなのに、彼女はそんなささいなことを恩に感じ、祥也に世話なんか焼いている。
何故、そんなにも人のためにしてやろうと思えるのか。
「今もこうやって私の作ったお弁当を食べてくれるなんて、夢にも思わなかった」
「しおりさまのおべんとー、おいしーです!」
「ふふ、本当に嬉しい。⋯⋯久須君は?」
ジルヴァが嬉しげに言うのを、頭を撫でながら笑いかけた詩織がこちらに問いかける。
こちらに顔を向けた時、緊張した面持ちでいるようだが、何故なのだろう。
「別に、美味しいが」
「はぁー⋯⋯そうなの、良かった⋯⋯。美味しくないって言われたらどうしようって思った」
心底安堵したというように詩織は自身の胸に手を当てて、深く息を吐いた。
何故、そんな反応をするのか。
「このお弁当、ジルヴァ君のためでもあるけど、久須君のためでもあるの。⋯⋯だって、私、久須君のこと⋯⋯──」
不意にやや俯いたかと思うと、その頬が徐々に赤くなっていた。
この顔には見覚えがある。確か⋯⋯
「⋯⋯具合が悪いのか?」
「え? 具合⋯⋯? 具合⋯⋯ああ! うん、そうかも! 久須君ばかり気にかけていて、自分のことは気にしてなかった! ジルヴァ君、まだ乗りたかったよね?」
「乗りたかったですけど⋯⋯でも! しおりさまのぐあいがしんぱいです! かえりましょ!」
そういうや否や、犬のようにかきこもうとするジルヴァにそんな忙しくてもいいよ、ゆっくり食えと二人揃って窘めるのであった。
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