19.

「給食の時間だけ教室から出ているところを見つけたの」


胸がズキリと痛む。

他のことはまともに憶えてないくせに嫌なことだけははっきりと憶えている。

やめろ、それ以上は話すなと心の内で言っても、詩織には聞こえるはずがなく、彼女は言った。


「たまたま見かけたその日だけかなと思ったら、次の日もその次の日もその時間だけ出ていって、かと思ったら、五時間目が始まるぐらいには帰ってきているから、気になって」


ある日、その日も給食の時間に教室から出ていく祥也のことを詩織は追いかけていった。

行き交う生徒達に紛れ、途中見失いそうになりながらもそのどこかへ向かう後ろ姿をどうにか追いかけていくと、昇降口の前にあるベンチで一人でぽつんと座っている祥也を見つけた。


「なんだかその姿が寂しそうに見えて、思わず声をかけたの。何をしているのって」


まさか声をかけられるとは思わなかったというような反応をする祥也が、しかし、言いたくなさそうにくちごもらせていると、盛大な音が鳴った。


何の音かと思うと、それは祥也のお腹からだった。


「給食の時間だし、戻ろうと言ったのだけど、『自分にはその資格ないから』って答えたの」


資格? 給食を食べること自体に資格があるの?


当時の詩織は頭の上が疑問符でいっぱいになった。ただ食べることに何の資格があるのだろうと。

だが、それ以上訊いて欲しくはないと、構わないでくれという雰囲気の祥也から後ろ髪を引かれる思いで教室へ戻った。


「でも、やっぱり給食の時間には帰ってこない久須君のことが気になって」


あんなにお腹を空かせているのに食べない意味が分からないと思った詩織は、お礼も含めて、分けられそうなものは分けてあげるようにした。

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