動揺

次の日には彼女から連絡が来ると読んでいたのだが、連絡は来なかった。店に行っても姿が見えず、俺はただの常連として、ほぼ毎晩お酒を飲むことになった。たまにソフトドリンクの日もあったけれど……。美鈴さんが見れない寂しさを紛らわすことは出来なかった。

店主にも聞いてみたが本当に店に来てないらしく姿を見かけていないと言われてしまった。家はこの前知ったが、押しかける訳にも行かないしな……。

1ヶ月ほどそうして会えない日々が続き、仕方が無いので店に行く回数を減らした。この店は会社から近いが住んでいるところからは若干距離がある。電車で数駅ほどの距離だが、仕事が忙しくて寄る余裕がなかった。


その日は遅くまで仕事が終わらなくて、9時を回った頃にようやく会社から開放された。重い足取りで駅に着いたら、ちょうど改札から出てくる美鈴さんを見つけた。

「美鈴さん!」

少し疲れているように見えた彼女は、俺を見るとバツが悪そうな顔をした。

「悠生。久しぶり」

この場で立ち話もなんだと言うことで彼女は自宅で落ち着いて話すことを提案してきた。明日も仕事だと言うのでその方が楽ならと再び彼女の家に足を踏み入れることになった。

「適当に座って。ちょっとまってて」

美鈴さんはコップに麦茶を注いで持ってきてくれた。

「ありがとうございます、いただきます」

流石に居心地が悪い。というか避けられていた訳ではなかったのか?

おもむろに美鈴さんを見るとバッチリ目が合って、思わず逸らす。

「あの、この間はごめんなさい。ちょっと仕事で揉めてしまって、自暴自棄になっていたの。家まで送ってくれてありがとう」

「いえいえ、全然気にしないでください。

それより、暫くお店に来ていなかったのは何かあったんですか?」

「いえ、それは、その……合わせる顔がなくて。本当はもっと早く連絡してお詫びをしなきゃと思っていたのだけれど」

ぶっちゃけ今の状態は既にご褒美なので俺としては他に何も要らないのだが……。

「なにか私にして欲しいことは無いかしら」

「それなら、俺と、デートしてください!」

「デート?」

ここまで来たなら言うしかないと少し深呼吸して、美鈴さんを改めて見る。

「美鈴が好きです。だから、その、えっと……」

なんと続ければいいかわからなくて、なんとも情けない言葉が続いてしまう。

「だから、デートして俺を好きになって欲しい」

美鈴さんは最初は驚いた顔をしていたが、俺の言葉に少し笑って、頷いた。

「もう既にちょっと好きだけど、デート、行きましょう」

2人でそのままカレンダーを確認して、デートの予定を立てた。

彼女の家を出てから自分がしたことに気がついて、俺ってこんなに大胆だったっけなと思いながら走って帰った。

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エンジェルキッス れい @waiter-rei

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