父との再会
旅に出た一人息子が帰郷しているなどとは夢にも思わず、ルーキスの父であるベルクトは息子が旅に出てしばらく経ってから急に増えた仕事を片付け、帰路についた。
自宅の前まで辿り着くと、ベルクトの鼻に今日の夕食の良い香りが漂ってくる。
「ただいま〜」
帰宅したベルクトは書類の入った鞄を足元に置くと、上着のローブを脱ぎ、コートラックに引っ掛け、ダイニングのほうに歩いていった。
そんな時「お帰り父さん」と、ダイニングの扉を開けたルーキスが顔を覗かせる。
突然現れた息子の姿。
旅立った時と変わらず元気そうなその姿に、ベルクトは一瞬何が起きたか分からずに思考が停止、目を丸くして口を開き、呆然としてしまった。
「ル、ルーキス。お前、帰ってきたのか」
「今日の昼くらいにね。遅かったね、最近忙しいらしいけど、体は大丈夫?」
「あ、ああいや。お前の方こそ、よく無事で」
込み上げてくるものを必死に抑え、ハグをするベルクトとルーキス。
この時、息子の体格が随分と良くなっている事に父は気が付いた。
「たくましく、なったな」
「鍛えたし、鍛えられたからね」
ハグをやめ、半袖のシャツを着ている息子の腕を見て、感心していると、ベルクトはルーキスが言った「最近忙しいみたいだね」という言葉が、ここ最近の仕事の忙しさと繋がり、ある一つの仮説を口にさせる。
「ルゥ。お前旅先で何をした? 近くのプエルタの冒険者ギルドと商業ギルドからの仕事の発注の増加、王国騎士団からの新規の発注。これが数ヶ月前に一気に起こった。こんな田舎の錬金術師の工房にだ」
「ああ〜。ちょっと色々あってね。夕飯食べながらでいいなら話すよ」
「やっぱりお前が関係してるのか!」
「まあまあ、母さんも待ってるから」
そう言って、ダイニングに入った息子の後ろを歩いてベルクトもついていく。
すると、ダイニングのテーブルを囲んでいる見知らぬ少女二人の姿が、ベルクトの目に入った。
「どちら様、あ、ルーキスのお友達かな?」
「父さん、俺が旅立つ時言ったじゃないか『帰ってくる時は恋人でも連れてくる』ってね。で、赤い髪の子がその俺の恋人」
そう言って、ルーキスは椅子から立ち上がったフィリスの肩にポンと手を置く。
「は、初めましてルーキスくんのお父さま! フィリス・クレールと申します! ルーキスくんとは将来とお付き合いさせて頂いてます!」
「お、おお。あ、ベルクト・オルトゥス、ルゥの父です。お前本当に恋人作って帰ってきたのか。じゃあ、もう一人の子は」
「初めまして。私はお兄ちゃんとお姉ちゃんの、娘で、イロハ・アマネといいます」
フィリスの隣に移動して、ペコッと頭を下げるイロハ。
その額に生える二本の小さな角で、その子が鬼人族だというのは一目で分かった。
息子と息子の恋人の間に出来た子ではないのと、連れ子でもないことも理解できる。
それ故に「娘?」と、ベルクトの口からは素っ頓狂な声が漏れた。
「それも今から話すよ」
父の様子に苦笑しながらそう言って、ルーキスはイロハと父をテーブルにつかせると、フィリスと共に本日の夕食をテーブルに並べ始めた。
「椅子が一つ足らんな」
「ああいいよ。魔法で作るから」
夕食を並べ終わり、フィリスを席に座らせると、父の言葉に笑って答え、ルーキスは魔力を集めて固め、背もたれのない椅子を作って座る。
そして、食前の祈りを捧げると夕食を開始した。
「さて、何から話そうかな。食事中だし、血生臭い話題は避けないとね」
「なら私たちの出会いは後回しかしら」
「え? 血生臭いのか?」
「ちょっとね。フィリスとそのお仲間がゴブリンに囲まれてて、それを助けたって話なんだけど」
「ああなんだ、そういう感じか」
夕食を楽しみつつ、ルーキスとフィリスの出会いの話を聞くルーキスの父母。
しかし、ルーキスは最初に挑んだダンジョンの話を途中で中断。
食べ終わった夕食の片付けをフィリスとしたあと、お土産ついでに買ってきた紅茶を父に淹れ、母にはキッチンで見つけたココアを淹れてルーキスはテーブルの側に魔力で作った椅子に再び腰を掛けた。
「えーっと。どこまで話したっけ? ああそうだ、そのダンジョンのボスがさあ」
と、話を再会。
このあとイロハとの出会いを話したのだが、その話を聞いていた両親の反応は、ルーキスの予想通りで、悲しそうだった。
「イロハちゃん。私たちのことも家族と思ってね」
「辛かったろうになあ。よく頑張ったなあ」
「ありがとうございます」
ルーキスの両親の言葉に、嬉しそうな笑顔を浮かべるイロハ。
こうして三人の出会いの話から、これまでの旅の思い出話を両親に聞いてもらっていくうちに、ベルクトは何故工房に仕事が舞い込んできたかを知る。
「旅先で錬金術で作った物を売り込んでいたわけか。おかげさまで儲けさせてもらっているわけだが」
「これから産まれてくる妹のために丁度いいじゃん」
「まあなあ。それよりルゥ。吸血鬼の女王の弟子ってのはなんの冗談だ? ドラゴンを倒したなんてのは流石に話を盛りすぎだぞ?」
「冗談じゃないんだなあこれが。なあ?」
父の言葉に苦笑して、ルーキスはフィリスとイロハに笑いかけると「あ、そうだ」とズボンのポケットからカードケースに入ったギルドカードを取り出してテーブルの上に置いた。
「これが今の俺のギルドでのランク。二人も一緒だ」
テーブルに置かれたギルドカードをベルクトは手に取る。
そして、隣に座る妻と共にそれを眺め、二人して目を見開いた。
「特級⁉︎ ええ⁉︎ お前、旅に出て一年でコレ、ええ?」
「史上最速記録だってさ。ちなみにイロハは史上最速最年少で特級になったらしいよ」
「そりゃそうだろ。聞いたことないぞ。この歳でこんな高位になってる冒険者なんて」
照合にギルドカードの所有者本人の魔力が必要なため、複製は不可能。
というよりは情報自体はギルドに保存されているので、カードの複製品に価値などない。
つまるところ、今ベルクトが手に持っているギルドカードは正真正銘の本物でしかないのだ。
「俺の息子が、ドラゴンを倒したってのか」
ギルドカードに視線を落としたベルクトの声は優しげだったが、その端々に怒気に似たものをルーキスは感じた。
なぜかは、なんとなく分かっていた。
「ごめんね父さん。危ないことして」
「本当だよ全く。三人とも、よく無事に帰ってきたな」
ベルクトはそう言って、ルーキスにギルドカードを返すと、何か言いたそうに口を開こうとしたのだが、その口から出たのは安堵のため息だけ。
言葉は何も出てこなかった。
転生したベテラン冒険者のアナザーストーリー リズ @Re_rize
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