第3話 千釣は部活を立ち上げる

「水瀬先生!部員集めてきましたよー!」

「ちょ、千釣!他の先生もいるんだし迷惑でしょ!」

「あ、ごめん。そうだったね」

そう言うと、千釣は声を少し抑え、再び水瀬先生の名前を呼んだ。その時、

「聞こえてるよ、海瑞さん」と言いながら、白衣を着た20代前半くらいの男性が現れた。


水瀬みなせ あきら。化学の先生で、私たちのクラスの副担任でもある。化学の得意な生徒には優しいが、赤点を取ろうものなら補講日は地獄の空気となる。私は文系の中の文系なので、理数系は総じて苦手なのだが、化学だけは赤点を取らないように努力している(かと言って他の教科を適当にしているなどと言うことは全くないのだが)。とはいえ苦手なものは苦手でテストの成績は散々なので、いつも冷たくあしらわれる。


「こんにちは、先生!」

「はい、こんにちは。それで、部員集めてきたっていうのは本当?」

「はい!頑張りました!」…頑張ったって、私は元々入ってたし、高梨くんもあっちから来てくれたわけだから千釣が何かしたかと言えば微妙な気がするんだけど、と私が悶々と考えているのを他所に、水瀬先生は千釣と書類を確認していた。

「これが部員の名簿で、こっちは部活の概要とかそういうのをまとめる書類だからね」

「了解です!頑張って書いてきます!」

「じゃあ、これで『帰宅部』結成だね」

「はい!先生には色々手伝ってもらって、助かりました!ありがとうございます!」

「良いんだよ、海瑞さんの頼みなら断れないしね」


「いやー、協力してくれてありがとねー」

「い、いえ!海瑞先輩のお役に立てて嬉しいです!」

「…疲れた…」

異様にテンションの高い2人と、疲れ果てて動けなくなった私。カオスな空間がそこには広がっていた。

「しかし、よく許可降りたよね…。あの活動内容だと実績とかも取れないだろうし…」

「それを部長が言っちゃったらおしまいだよー!私たちは出来ることをやればいいの!」

「でも先輩、活動はどうするんですか?」

「あ、それは私も気になってた」

千釣はそこでふふん、と自慢気に鼻を鳴らして言った。

「よくぞ聞いてくれました。帰宅部は主に、一年を3分割して、活動内容を決めようと思います」

「3分割…?」

「うん。4月から7月までは基礎体力をつける期間。8月から11月までは帰宅に必要なものを制作する期間。12月から3月まではルート制定の期間。この三分割で部活を進め、3月の最後の登校日の3月17日に全校生徒の前で1年の成果を見せようと思います!」

しばらくの間があった。そして、私は一言、心の底から出た言葉を吐き出した。

「えぇ…?」

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千釣は苦難を越えていく 朔菜 時夏 @0226haruka

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