その②
◇ ◇ ◇
「――ほう。これの筒で心臓の音が聞こえるのか」
「はい。雑音なくハッキリ聞こえます」
「すげぇな。ただでさえソフィーちゃんは腕の良い薬師だからな。こんな立派な道具まで使うとなれば嬢ちゃんに敵う薬師はいないんじゃないか」
「バートさんったら、それは言い過ぎですよ~」
午後になってやって来たバートさんへステートの話をすると、その話は瞬く間に村中へと広がり、村の人が代わる代わる“木の棒”を見学しに来ました。今日は患者さんが来ないから良いけど、まさか新しい診察道具だけで村中が騒がしくなるとは思ってもいませんでした。
「でも胸の音を聴くって、なんの役に立つんだい」
「心臓は“ドクンドクン”って鳴ってますよね。その音を聴くことで心臓の異変を見つけたり、時によっては死亡診断の材料にするんです」
「そうか。心臓の異変ってすぐ分かるものなのかい?」
やはり音だけで異常が分かるというが信じられない様子の村人が疑問を投げかけてきます。
「薬師の中には調薬だけでろくに診察も出来ない人もいると聞きます。でも私はそれなりの知識と経験があります」
「つまり自信があるってことかい」
「はい。そうでなければこの村で8年も薬師をしていません」
わざとらしくニヤッと笑う村の人を前に自信満々に答える私。長い付き合いだからこそ言えるちょっとした嫌味を笑い飛ばす私は隅の方で薬棚の整理をしてくれているサラちゃんを呼びました。
「彼女はまだまだ新米です。でも、私の名に懸けて一人前の薬師に育て上げます」
「ソ、ソフィーさん⁉」
「この薬局の店主の座は譲れないけど、いつかは私を超える薬師になってね」
「ソフィーさん――はいっ」
私の期待に応えるように満面の笑みを見せてくれるサラちゃん。皆の前だからか照れているようにも見えるけどウチに来た頃よりシャンとしている。
医師がいないこの村でみんなを守れるのは私たちしかいません。お店の看板は当分渡すつもりはないけど、いつかはサラちゃんにも村の人たちに愛され信頼される薬師になって欲しいな。
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