第10話 リリアさんからの贈り物

その①

 前略

 

 調子はどう? また風邪とか引いてるんじゃない? あまり無理するんじゃないわよ。あんたは母親なんだから気を付けなさいよ。

 この間、王都に行ったら面白いもの見つけたの。一緒に送るから診察で使ってみなさい。


 追記 あたしは栗より果物の方が良いわ


                      リリア・ゲーベル


 昼間もめっきり寒くなった11月。リリアさんから届いた荷物に私たちは首を傾げていました。

「これ、木の筒だよな」

「うん。なんでも最近、発明された診察道具みたいだよ」

「ソフィーさん、説明書みたいなのが一緒に入ってますよ」

「説明書?」

「はい。どうやら胸の音を聞く為に使うようです」

「胸の音? 心音ってこと?」

「はい。“ステート”って言うみたいです」

 私が手に持っているそれ――ステートは長さが30センチほどの木製の棒で中心に直径が1センチほどの穴が開いた筒状になっています。

 リリアさんの手紙によると王都に行った際に偶然見つけたらしく、珍しさのあまりつい買ってしまったそうです。

「これどう見ても穴の開いた棒だよな。これで心臓の音が聞けるのか」

「物は試しだよ。エド、ちょっと胸貸して」

「は? なにする――」

「――なにこれ凄いっ」

「聞こえたのか?」

「うん。すごく鮮明に聞こえる」

 エドの胸に当てた棒……じゃない、ステートに耳を当てると彼の心臓の音が雑音なく聞こえました。直接耳を胸に当てて聞くより何倍もきれいにはっきりと聞こえる心音に私は唖然としました。

「こんな棒切れで胸の音が聞こえるなんて――」

「おまえ、いま“棒切れ”って言ったな」

「だ、だって……」

「ま、まぁ。それにしても凄いですね。これで診察も楽になりますね」

「楽になるかは分からないけど、より正確な診断は出来るね」

 患者さんの胸の音を聴くと言うのは薬師にとって基本中の基本。それでも耳を患者さんの胸に当て聴くと言う、ある意味原始的なやり方には限界があると師匠も言っていました。ですがこのステートと言う道具はその欠点を補っているようでした。

「養成学校でも見たことないのできっと最近発明されたんですね」

「もしかしてこれ、すごく高いのかな」

「わたしたちが使う道具って元々値が張りますし、もしかしたら――」

 ひょっとしたらと思うと私もサラちゃんもゴクリと唾を飲んでしまいます。発明されたばかりでまだ世に出回っていない代物は高価だと相場は決まっています。これも私のお小遣いじゃとても手の届かないものなんだろうな。

「なぁ、ソフィー。ほんとにこれ貰って良いのか。すげぇ高そうなんだろ」

「う、うん。でも返すのはマナー違反だし……」

「と、とりあえず大事に使いましょう」

「そうだね。あと、リリアさんになにかお礼しなきゃだね」

 たぶんこれに見合うお礼は村じゃ見つかりそうにないけど、精一杯の気持ちは返さなきゃ。

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