リスト12(No.083~No.088)エッセイ・コラム/アンソロジー編
※このリストは、『小説の書き方本を108冊読んでわかったこと』のリストの一部です。本編は以下のURLをご参照ください。
https://kakuyomu.jp/works/16818093082304773813/episodes/16818093082680236247
No.083
『エッセイの書き方読んでもらえる文章のコツ』
岸本 葉子 著 2018 中央公論新社(中公文庫)
感想:
エッセイってこんなに戦略的に書かれているんですか! というのが率直な感想です。
個人的に、エッセイは自由な発想で気の向くままに書くものと、牧歌的に思いこんでいた節があります。特にこの筆者さんのエッセイは、柔らかい印象で、日常的な出来事を優しくユーモラスな視点で書かれる印象なので、そんな風に錯覚していたのかもしれません。
エッセイの書き方って、小説の書き方の参考になるの? とお思いの方、なります。終始なります。全部です。
例えば、構成の点から言うと、「へぇーっ」という驚きを起承転結にどうやって落とし込むかということが解説されるのですが、「結」は大事でないとか、「転」を中心にしてどうやって組み立てていくかとか、そのまま小説にも転用できる技術になっています。
その他にも、主観と客観を使い分けるやり方、どこをセリフで言わせるか、意識とカメラの関係、情報開示の方法など、基礎的で実践的な技術論が惜しみなく語られます。
一般的に小説に比べて文字数の少ないエッセイだからこそ高度に発達した技術論なのかもしれません。それらを少しでも小説に応用できたら、読みやすく、面白いものに仕上げることができそうです。
No.084
『小田嶋隆のコラム道』
小田嶋 隆 著 2012 ミシマ社
感想:
書き出しの話、文体の話、主語の話、終わり方の話、どれもそのまま小説にも使える話ばかりで、即参考になります。個人的には、「コラムの終わり方あるある」がおもしろかったのと、「文体」というものに対する慧眼が心に残りました。
コラムの名手だけあり、文章にぐいぐい引き込まれるのですが、それをちょっと俯瞰的に考えると、つまりこの「コラムの書き方」の文章自体、すごく引きつけられる文章なんですよね。素晴らしい比喩だなと思ったり、よく言語化してくれた、と思ったり、そんな考え方があるんだ、と思ったり、心が動かされる文章です。
とにかく訴求力のある文章という点で、内容も文章自体も参考になる本です。
No.085
『エッセイの書き方』
日本エッセイスト・クラブ (編集) 著 1999 岩波書店
感想:
13名の文筆家がエッセイを題材にそれぞれ一章ずつ書かれており、ボリューム感のある一冊です。どんな企画で、どんな依頼が著者さん達に送られたのかわかりませんが、どうも「エッセイの書き方をテーマごとに分担して書く」方式ではなく、「エッセイという題材でエッセイを好きなように書く」方式になっているようです。ですので、具体的なエッセイの書き方、技法などはあまり語られませんし、系統立ってもいません。なんなら、人によっては語られる内容が少し重複してさえいます。
山川静男氏が、エッセイとは筆のおしゃべりであり、「楽しいエッセイは、仲良しの友人からいい話を聞かせてもらっているのと同じ喜びを感じる」(p.95)と書いておられます。その伝で行くと、本書も「エッセイの達人である大先輩たちから、エッセイや文章にまつわるいい話をたくさん聞かせていただく」という態度で接するのに適していると思います。
文体も内容も様々ですが、皆さんテーマがはっきりしていて、こだわりを持って、真摯に書かれていることは間違いありません。「拡散」と「収斂」(白井建策)、「冷熱熱腸」(石川真澄)、「表現は限定」(尾崎左永子)、「現場感覚」(辰濃和男)など、挙げればきりがないですが、それぞれの著者さんのキーワードはエッセイだけでなく小説を含めた文章全体に適用できる教えであり、文章を豊かなものへステップアップさせる教えだと思います。
No.086
『たとえば純文学はこんなふうにして書く 若手作家に学ぶ実践的創作術』
女性文学会 編 1997 同文書院
感想:
二十二名の著名作家さんを取り上げ、「若手の研究者、大学院生、編集者からなる<女性文学会>のメンバー」(あとがきより)が数ページずつ解説をする、という趣向です。どちらかというと作家解説、文芸批評に近い文章ですが、あとがきや副題を参照すると、創作指南を標榜されているようです。
本書は、「事例集」のような理解をすればよいのだと思います。作家さん毎に、中心となるテーマ、問題意識、表現方法の特徴、魅力などが、いずれも平易な文体で語られます。項目や体裁は共通しているわけではなく、それぞれ自由に語られますが、そのどれもがそれぞれの作家さんの見どころをうまく取り上げているように思います。何人かの作家さんについては、小説から抜き出した魅力的な文の見本がいくつか付記されています。
副題が「若手作家に学ぶ実践的創作術」ということですが、「若手作家に偏っているのかな」という心配はご無用です。取り上げている作家は椎名誠、中上健次、久間十義各氏など、刊行年代を考慮に入れても若手とは言えない方も含みます。
No.087
『作家はどうやって小説を書くのか、じっくり聞いてみよう! (パリ・レヴュー・インタヴュー I, II) 』
青山 南 編 訳 2015 岩波書店
感想:
1952年秋から発行されている”the PARIS REVIEW”のインタビューコーナーの書籍化ということです。
とにかく豪華な顔ぶれのインタビューで、一人ひとりの濃密なインタビューでは人柄がそのまま伝わってくるような、目のまえで実際にその作家から話を聞いている気分になるような、名調子の翻訳です。例えばホルヘ・ルイス・ボルヘスのインタビューでは、インタビュー中に何度も秘書の方が「キャンベル夫妻がお待ちですが」と割り込んできます。そんなの文字起しする必要あるの? と笑ってしまいましたが、これが非常に良い味を出していて、こうしたことも編集者の技の一つなんだろうな、と思います。全体にわたって、こうした生の声を届けるための編集者の精神と技術が満ちていることを感じさせます。
あくまでインタビューなので、プロットの組み方、キャラの設定の仕方のような話はほとんど出て来ません。しかし有名作家の意外な一面や人間らしい一面に次々と触れ、生の声や思考に接することで、創作への意欲と勇気が湧いてきます。
No.088
『私の文章修業』
週刊朝日編 1984 朝日新聞出版(朝日選書)
感想:
昭和五十三年に『週刊朝日』に連載された、いろいろな方の文章修業に関するエッセイを単行本化したものです。丸谷才一からはじまって五十名以上の方のエッセイを読むことが出来ます。
かなりの割合の方が、“文章修業について書くよう依頼されたが、ことさら文章修業をしたことはない”もしくは“子どもの頃から文章を書くのは嫌い(もしくは不得意)だった”という趣旨のことをおっしゃっていて、なかなか示唆的なものを感じます。
周りに隠れて小説を書いていた方(池田満寿夫)、学校の素朴リアリズムのために作文が書けなくなった方、(澁澤龍彦)、スランプを翻訳で乗り越えた経験(芥川ひろし)、鉄道が好きで鉄道関係の文章を雑誌に乗せるべく彫琢した方(堀純一)など、とくかく千差万別でその生涯の中で文章が出来上がっていったことがわかります。
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