リスト10(No.072~No.078)マンガ/落語/童話編

※このリストは、『小説の書き方本を108冊読んでわかったこと』のリストの一部です。本編は以下のURLをご参照ください。

https://kakuyomu.jp/works/16818093082304773813/episodes/16818093082680236247


No.072

『マンガ脚本概論 漫画家を志すすべての人へ』

さそう あきら 著 2021 双葉社

感想:

 マンガ脚本というタイトルで、この本自体もマンガで描かれていることから、基本的にマンガを描くための本として本書は想定されていると思います。ですがこの本の教えは、マンガだけに留まらず、小説含め創作全般に適用できるものだと言えます。「マンガ向けのものだから、小説には適用できないな」と思ったページは1ページもありません。

 アイデア、ストーリー、キャラクター、テーマ、表現、といった項目が章ごとに取り上げられます。著者さんは毎回、取り上げた項目について、適切な表現方法はどんなものか、本質は何なのかと問い、考えます。そして、理路整然とした思考と長年の経験をもとに、明快な答えが導き出されます。実際のマンガが例として掲載されていることもあり、非常に説得的です。

 それぞれの項目を検討するにあたって、多くの"小説の書き方本"に言及されているのも印象的です。たとえば第7回「二つの起承転結」の章では、ハリウッド脚本術なども取り上げつつ検討することで、起承転結の奥にある本質と、そこから実際に創作に適用すべき「二つの起承転結の型」を析出されています。個人的に「起承転結」というものに曖昧性を感じていたこともあり、これは腑に落ちました。

 本書を最後まで読み進めると、ストーリーとは何か、キャラクターとは何か、テーマとは何か、というテーマは全て一体となっているということがわかり、質の高いエンターテインメントと言うものがどのようにできているのかが理解できます。

 そもそも本書は「面白いってなんだろう」という究極の問題に真正面から取り組むところから始まっていて(しかもごまかすことなく二つのキーワードでそれに答えるところから始まっていて)、本書自体が飽きずに面白く最後まで読ませるような『推進力』を持っています。そのあたりはもしかしたら、小説よりもマンガの方が「ページをめくらせる」ことにシビアだということからきているのかもしれません。本書の『推進力』は、本書の構成や内容もさることながら、本書の語り手である著者さんのキャラクターが、とても表情豊かで一生懸命に説明してくれることにも由来しているのではないかと思いました。


No.073

『小池一夫のキャラクター創造論 読者が「飽きない」キャラクターを生み出す方法』

小池 一夫 著 2016 ゴマブックス株式会社

感想:

 マンガのキャラクター作りを主眼においた本ですが、話は創作全体に深くかかわってます。そのままエンターテインメント小説の書き方にも適用できます。

 そもそもなぜマンガの書き方としてキャラクターを中心的に取り上げているかというと、物語を作る際にまずストーリーの設計図から考える手法は初心者に難しく、それよりもまずキャラクターを考える手法が成功率が高い、というご提案から始まります。

 まず魅力的な主人公を考え、魅力的な適役、サブキャラクターを考え、そこから物語の目的である『謎』を設定し、そこから起承転結を導き出し……と、話は進みます。キャラクターに『息吹』を吹き込む方法、複数のキャラクターをかき分けて魅力的にする方法、キャラクターのプロファイリング、そしてラストシーンへと、話しかけるような文体での流れるような説明は、まさにベテラン作家の頭脳から物語がとめどなく生まれる様を見ているかのようです。

 個人的には、「起承転結」をある言い方で言い換えた独特な表現が腑に落ちました。また、二人の同じような侍が対決する場面でどちらに肩入れするかの問題(p.153~)など一つ一つの例え話が面白いので引き込まれます。またキャラクター描写のお手本に仏像を提案されたりするなど(p.187~)着眼点がユニークです。

 サブタイトルは“読者が「飽きない」キャラクターを生み出す方法”ですが、本書自体も「飽きない」工夫が随所に見られます。こういうところがやはりエンターテイナーなのだと感じました。

 エンターテインメントを志向する人、キャラクターの魅力が要求される創作を目指す人にはうってうけの本です。


No.074

『荒木飛呂彦のマンガ術』

荒木 飛呂彦 著 2015 集英社(集英社新書)

感想:

 キャラクターの造形や描写、設定からストーリー展開まで、独創性の塊と言える著者さんの漫画創作論です。どんな「奇妙な」ノウハウが並んでいるのかと思って本書を開くと、第二章『押さえておきたい漫画の「基本四大構造」』で「キャラクター」「ストーリー」「世界観」「テーマ」が漫画の四大要素であるとしたうえで、続く第三章から第七章までその四大要素をひとつずつ取り上げるという、極めて標準的な構成になっています。

 中身も、例えばキャラクターであれば”読者の共感を得ることのできる強い動機をもたせよう”、”主人公と適役は対比を打ち出そう”など、一見、どこにでもある教えが並んでいます。

 では本書はノウハウ本として凡庸なのかというとそんなことはありません。精読していくと、そこかしこに潜む著者さんの特異性に気づきます。

 例えば、キャラクターシートです。特徴的なキャラクターを設定して矛盾なく描写するためにキャラシートや履歴書のようなものを作成するという手法は、他の指南書にも散見されます。ところがこの著者さんの場合、「身上調査書」として、 身長体重利き腕など基本情報はもちろん、「手術経験や虫歯、病気」「幼児・幼少期の精神的体験、その人物」趣味・娯楽の欄は音楽、新聞、インテリア、ひいきの店など非常に細かい項目まで設定します。

 また、『富豪村』という短編ができるまでをアイデア出しから完成まで説明している章があります。冒頭シーンの工夫として、主人公のキャラクターを描写すると同時に奇妙な物語であることを示すシーンを入れた、とあります。この考え方自体は、やはり珍しくありません。しかしそのために実際に書かれたシーンは「漫画家が執筆活動をする前にする準備運動」です。この目的からこの結果が産まれるメカニズムが不思議でなりません。

 四大要素やその具体例などのノウハウは王道で、わかやすく、説得的なものばかりです。ご本人も指摘されているように、決して漫画だけでなく、小説、脚本などエンターテインメント全体に適用できる教えばかりです。

 しかしその王道の教えから『荒木飛呂彦』という装置を通ると、オリジナリティ溢れる表現や作品が生まれるというのが印象的でした。


No.075

『たのしい落語創作』

稲田 和浩 著 2015 彩流社(フィギュール彩)

感想:

 落語等の演芸や話芸に造詣の深い、らいたーでもあり評論家でもある著者さんの手による落語創作の本です。

 創作だけを扱うわけではなく、まずは落語とはなんぞや、というところから始まって、新作落語の現状、名手らの紹介などが順を追って説明されます。落語初心者にはフレンドリーですが、逆に落語には知悉していて創作に手を出してみたい、という方には少しまだるっこしく感じるかもしれません。

 さて本書で本当に落語創作ができるようになるか、ということは置いておいて、小説の書き方の幅を広げ、あるいは相対化するという観点から読んでみますと、「創作落語台本政策五つのポイント」として挙げられている5点が目につきます。(p.7~9)

1.『台本は丁寧に書こう』、2.『古典落語に学べ』、3.『落語を創るとは、物語をつくること』、4.『演者の個性を知ろう』、5.『新作は「愛」』、です。

 このうち2で、過去作は先人が考え抜いて生き残ったものであるので、そのパターンを積極的に利用すべきということが、また3では「客に受ける」とはどういうことかということが語られます。

 ここでいうパターンとは、物語内容、構成、登場人物などの類型のことです。アリストレテス以来の脚本の議論、あるいはプロップの議論とも親和性が高いと思いますので、深読みして、小説に当てはめて考えてみるのも悪くないと思います。

 また、オチの分類なども紹介されますので、落語に詳しくない方、コミカルな小説を書いてみたい方には参考知識になるかもしれません。


No.076

『きむら式 童話のつくり方』

木村 裕一 著 2004 講談社(講談社現代新書)

感想:

 絵本や童話を多数書かれている著者さんの手による童話のつくり方です。「発想」「テーマ」「設定」「構成」など、童話以外の大人向け小説にも通じる項目が並んだ後、「トレーニングルーム」として童話づくりの実際が書かれ、後半になるにつれ、童話特有の話題や子供についてなどが取り上げられます。

 内容ですが、「童話の書き方」にステレオタイプな偏見を持っていた私は大変驚きました。

「あらゆる職業の中で、子供の本の作家ほどおいしいものはない。」(p.3)

 本書はこの一行から始まります。童話作家は文字をちょっと書いただけで「夢があっていいな」と言われるだけでなく、ロングセラーになればお金も入ってくる、とのことです。

 ただし急いで付け加えると、童話は誰にでもかけるものではないし、特に童話を読んだことがない人が明日一冊買ってきて書けるというものではないともおっしゃっています。「子供はこんなのを喜ぶだろう」という「見下した感じ」があると、子供はすぐ見抜く、とのことです。(p.18-19)

 教示される指南もそれを反映して、童話以外のフィクションにそのまま適用して差し支えないものばかりです。特に「起承承承転結」や「坊と屋と虫と名作プロット」などは、特にエンターテインメント性の強い物語全般に即戦力ですし、たしかに多くの小説やマンガなどにも当てはまるものが多いと感じました。

 ドライで、しかし鋭い洞察に満ちた、フィクション全般を対象とした書き方本になっていると言えます。


No.077

『100年後も読み継がれる児童文学の書き方』

村山 早紀 著 2022 立東舎

感想:

 「ゆるく書きます」と初めに宣言しておられるように、全編通して柔らかい語り口と愛情に満ちた眼差しをもって進みます。テクニック本や指南書という感触よりは、ご自身の過去やそこから得た児童文学に対する考え方を解き明かす「語り」というような印象です。

 著者さんの考え方として、「物語を書く方法」のようなものはなく、できる人は自然とできていて、内にあるものを表現するだけ、という思想があります。ですから、キャラクターの設定方法、起承転結の考え方、文章のコツ、といったものは一切かかれません。例えば次の一文のような説明が見つかる程度です。

「物語を書くというのは、自分の中にある、物語を構成するための要素=パーツを組み合わせ、それでひとつの首飾りのような物を作り上げてゆく作業だとわたしは思っています。」(p.100-101)

 児童文学と言うものがどういうのか、どうあって欲しいのか、という思いが、「理想」や「未来へのメッセージ」というキーワードと共に随所に語られます。根底に流れるのは、児童文学は過去に自分が読んだ先人からの贈り物を、自分の中で昇華して、次の世代に贈る、ただし時代は変わるので、過去に固執してはならない、という考え方です。

 巻末に付された「付録」は多少様相が変わります。著者さんの短編『トロイメライ』を全文掲載しているのですが、一文一文に手書き風の注釈が書かれています。どんな技術が使われているか、どんな意図や効果のある文章なのか、等が説明されます。ここで少し技術論を見ることができます。必ずしも児童文学特有の技術というわけではなく、創作全般に関わりそうな技術ばかりです。

 また、それらに混じって、やはり「この思いは子どもに伝えたい」「私が夢を見て生きていたので、子どもにも夢を見て欲しい」といった思いが語られます。個人的には、作中人物の台詞を通じてテーマ(たとえば戦争反対)を直接的に書いてるのが印象に残りました。

 児童文学に対する愛と考え方を味わいたい方には前半が、著者さんの技術を参考にされたい方は付録がおすすめです。


No.078

『児童文学塾 ~作家になるための魔法はあるのか?~』

日本児童文芸家協会編 著 2021 あるまじろ書房

感想:

 『児童文芸』に掲載された創作術の文章をまとめ、書下ろし文章を追加して一冊の本にしたものです。それぞれの文章は短く簡単に読めるのですが、エッセンスが濃縮されています。

 章ごとに、「絵本・幼年童話・紙芝居」「ファンタージー・エンターエインメント」「詩・童謡」「ノンフィクション」と別れているのが特徴的で、射程はかなり広いと言えるでしょう。ジャンルごとに本職の作家さんたちが担当されていて、考え方や表現の仕方が少しずつ違うのが面白いと思いました。そのことが指南書としての厚みを増していると思います。

 「デビューを目指して!」の章では、五名の方のデビューまでの体験談が披露されます。最後の第七章「誌上ミニ添削講座」も充実していてとても参考になります。

 児童文学中心に、幅広いジャンルの、大勢の方の考え方に触れることのできる、お得な一冊です。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る