リスト9(No.068~No.071)SF編

※このリストは、『小説の書き方本を108冊読んでわかったこと』のリストの一部です。本編は以下のURLをご参照ください。

https://kakuyomu.jp/works/16818093082304773813/episodes/16818093082680236247


No.068

『スペース・オペラの書き方 新版 宇宙SF冒険大活劇への試み』

野田 昌宏 著 1994 早川書房(ハヤカワ文庫)

感想:

 文体に強い個性があり、合う方にはとても楽しく読めるでしょう。

 作家さんの中でも、特に物語が自然とほとばしる方なのだとお見受けしました。スペース・オペラとは何かから、ストーリーとプロットの組み方、盛り上げ方、執筆上の注意、執筆環境まで幅広く言及した本なのですが、およそありとあらゆる部分に、著者さんのエピソードなどの物語が挟まります。例えば、魅力的な物語には魅力的なキャラクターが必要、ということを説明するために、著者さんが某映画を見た時にどれほどその世界に浸ったか、あるいは別の駄作映画を見た時に、そういう風に感じられなかったか、というエピソードが何ページにもわたって語られます。

 過去の名作を参考にしよう、という一節では、単に「小説、映画など、名作をたくさん鑑賞しましょう」と書いておわらせるのではなく、子供のころみた喜劇映画がどんなに面白くてどんなに笑い転げたか、某古典文学にどれだけ痺れたか、が切々と語られます。

 こうした語りはどれもコミカルでユーモラスであり、大変盛り上げてくれるので、おもしろおかしく話して欲しいという方には最適な講師でしょう。理路整然と要点だけを記した文章を読みたい方はもどかしく感じるかもしれません。

 一方、作業の要点とその相互関係をまとめた表や、ストーリーを概観しながら組み上げていくための<右往左往シート>などは、系統だてて一覧しながら創作していくための独自の工夫であると言えます。

 癖の強い作者さんの世界に浸りながら、どこか懐かしさを残すスペース・オペラの世界に入門してみるのもいいかもしれません。


No.069

『SF作家はこう考える 創作世界の最前線をたずねて』

日本SF作家クラブ 編 2024 KaguyaBooks

感想:

 2023年の日本SFクラブ創立60周年を記念して作られた本のようです。(『あとがき』より)

 第一部と第二部に大きく分かれていて、第一部『作家のリアルとそこで生きる道』では5名の作家さんのリアルな現状を見ることができる座談会、大森望氏や門田充弘氏のコラムなど、第二部『フィクションとの向き合い方』では、SFと現代社会、科学技術との関係を論じたコラムやインタビューが掲載されています。

 小説指南の部分は限られていますが、作家を目指すうえでの指南という意味では非常に参考になるのではないでしょうか。特に、小説を書くという所作は常に技術や社会という文脈に置かれているのだということを強く意識させる本です。同人活動やネットの発表の場、賞の潮流、あるいはSFプロトタイピングなどの概念もとりあげられています。もしかしたら、こうした最新の文脈を意識すると言うことそのものが、SFというジャンルと親和的なのかもしれません。

 なお、あるコラムで「小説、特にコンテストに応募することを目的とした作品を書く上で重要だと感じたポイント」(p.47)が紹介されているのですが、これが簡潔で明瞭で大変な優れものだと思います。


No.070

『SFの書き方「ゲンロン大森望SF創作講座」全記録』

大森 望 編著 2017 早川書房

感想:

 2016年に開講された「ゲンロン大森望SF創作講座」という講座の記録です。毎回有名作家を講師に迎えており、課題に対する生徒の梗概、講評レポート、講義の採録という形で、全10回分掲載されています。それとは別に、生徒さんの実作が二編とその講評も掲載されています。

 「SFの書き方」という書名の本書に何を求めるか、ですが、いわゆる「小説の書き方」類のような例えば「1.テーマの設定方法 2.キャラクターの書き方 3.プロットの構成」式のものを期待すると、面食らうかもしれません。体裁がそうなっていないというだけでなく、小説を書くうえでの技術的な指南はほとんどありません。(講師によっては少し言及している場面もあります。)

 講義の採録は、その回を担当された作家さんのお話を大森望氏が聞く形で、SFを書くうえの視点、問題の所在、過去の名作とその評価など、様々な話が自由に語られます。濃密な世界で、著名作家の思考が溢れ出ているかのようです。

 SFというジャンルの特性と関連するのかもしれませんが、とにかく過去作を参照する場面が多く、講義の採録でも多くの作品が参照されますし、「課題」では参考文献が提示され、さらに講師紹介でもそれぞれの著作が多めに付記されます。

 課題に挑戦したり、参照されている過去作に片っ端から当たるという使い方がよさそうです。一から丁寧に指導してほしい初心者の方よりは、自らの実践に試行錯誤して取りいれることができる中級者に適していると感じました。


No.071

『読者を没入させる世界観の作り方 ありふれた設定から一歩抜け出す創作ガイド』

ティモシー・ヒクソン著 佐藤弥生 茂木靖枝訳 2024 フィルムアート社

感想:

 “世界観の作り方”というタイトルですが、原題はOn Writing and Worldbuilding:Volume1です。創作全般を扱ったYoutube動画のシリーズを基にした書籍とのことです。

 世界観だけを取り扱っているわけではなく、ストーリーやキャラクターなど、フィクション全般に及びます。

 特にファンタジーやSFが中心的な対象となっており、『ハードマジックシステム』『ソフトマジックシステム』『複数の神を登場させる』といった章立てはなかなかユニークですし、参照されている小説や映画なども、『ハリー・ポッターと賢者の石』からはじまり、『一九八四年』『マトリックス』『鋼の錬金術師』『デューン 砂の惑星』など、ファンタジーやSFの名作が大好きという嗜好が伝わってきます。

 伏線から敵との対決まで、全体的に構造化されていくことに特徴があるように感じました。なかなか濃密でハードな一冊ですが、映画の脚本などには、これくらいのレベルが要求されるのでしょうか。




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