リスト5(No.039~No.048)編集者さん・研究者さん他編

※このリストは、『小説の書き方本を108冊読んでわかったこと』のリストの一部です。本編は以下のURLをご参照ください。

https://kakuyomu.jp/works/16818093082304773813/episodes/16818093082680236247


No.039

『【実践】小説教室』

根本 昌夫 著 2018 河出書房新社

感想:

 「海燕」「野生時代」の元編集長さんということで、小説だけでなく小説をとりまく状況に対する造詣の深さを感じます。出てくる固有名がモンテーニュ、ジュネット、ソシュールなど、ハイソです。

 小説家に向く人の特徴、賞の紹介など、実践的な教えになっています。特徴としては、具体的な添削例が書かれていることが挙げられると思いますが、これが秀逸です。一つ一つの赤が、なるほどこういうニュアンスがこうなるのか、このわかりにくさがこう化けるのか、と濃い指摘になっています。

 全編通して、編集者さんはこういう小説を待っているのだな、と読めるような内容になっています。精神的なところから具体的な技法や添削例と、”何でも入り”ですので、手っ取り早く指南を一通り仕入れたい、という方には向いているかもしれません。


No.040

『2週間で小説を書く!』

清水 良典 著 2003 幻冬舎(幻冬舎新書)

 文芸評論家の筆によるもので、書名が「2週間で小説を書く!」と若干あおり気味ですが、中身は骨太です。ストーリー、キャラクター、描写、文体など広範囲に鋭い洞察をもって迫ります。バルザック、ジョイス、谷崎、村上春樹など随時文学史を参照しながら、理論と実践を往復して進んでいきます。

 「実践練習」という名の宿題が出され、14あるこの「実践練習」をこなしていけば、14日つまり2週間で小説が書けることになっている、という趣向です。

 文芸評論家さんらしく、良いものは良い、悪いものは悪い、とはっきりしているところがあるように感じました。ただそれは、必ずしも主観的ということを意味しません。「昔はこういうのが良いとされていたが、現在は別のものが良いとされている」というように、分析的かつ客観的な議論がなされます。川上弘美氏と王城舞太郎氏の文章の共通点を挙げられ、現代に適合した文体であると読み解いておられる個所に感銘を覚えました。


No.041

『あらゆる小説は模倣である』

清水 良典 著 2012 幻冬舎(幻冬舎新書)

感想:

 同じ著者さんですが、取り上げてしまいました。こちらもかなり目を引くタイトルです。このタイトルが表すのは、小説というものは常に既存の作品を“模倣”して作られるものである、という主張です。

 著者さんによれば、”模倣”といっても、窃盗と等しいパクリから、もとの作品を土台にして独自の作品の昇華させる巧みな技法まで様々であり、むしろ文学の歴史というのは、先行作品の思想、文体、形式、内容などを継承することで発展してきた、ということです。第一章では、文学においていかにこの”模倣”がなされてきたかが語られます。

 第二章ではさらに論を進め、構造主義やプロップの物語論を援用してオリジナリティというものが幻想であり、小説の作者やアウラがいかに消失したかが語られます。ケータイ小説や二次創作をも真正面からとらえているのが印象的です。

 第三章が、こうした“模倣”を元にした創作の実践講座です。既存の作品から上手に影響を受けて小説を書こう、という趣旨になっているのですが、「既存の作品」の幅が広く、絵画や音楽やマンガも既存の作品としてとらえ、そうした作品から小説を書く実践練習が課されます。また、冒頭の続きを書くことや、タイトルから想像を膨らませて書くことなど様々な手法が提案されます。

 半分は創作講座というよりは文学論ですが、他の創作指南の本でもこの種の議論が展開されることはありますし、学ぶことはまねること、というのは人口に膾炙した考え方です。本書はそのあたりを深掘りした本と位置づけることができます。“模倣”と創作について詳しく考えながら、その観点から実践してみたい方にはうってつけの本です。


No.042

『あなたの小説にはたくらみがない 超実践的創作講座』

佐藤 誠一郎 著 2022 新潮社(新潮選書)

感想:

 編集者ならではの見識と視点で語られる著書です。文章指南というよりは、小説家のありように関して、こうでなければならないと指南するような文章です。

 章立ては、キャラクター、起承転結、視点、テーマなどとわかりやすいものになっていますが、それらを系統だてて書くのではなく、エッセイ風に滔々と語る趣向です。その主張は長年の編集経験や膨大な読書量に支えられ、名作の名作たる由縁、国内外の文学史、社会の変化などを参照しつつ、熱量を持って進みます。少し以前の高名な作家さんのエピソードなどが豊富です。

 小説家や小説とはこうでなければならない、という強いこだわりと熱情が伝わってきます。


No.043

『ストーリーメーカー 創作のための物語論』

大塚 英志 著 2013 星海社(星海社新書)

感想:

 本書が標榜するものは、”ストーリーを一から作り上げるための完璧なマニュアル”です。

 前半でプロップの『昔話の形態学』やジョセフ・キャンベル『千の顔を持つ英雄』など5つの物語論を概観した後、第二部ではこれらを踏まえて作成されたQ&A方式の物語制作マニュアル、その名も「ストーリーメーカー」が紹介されます。姉妹編『物語の体操』『キャラクターメーカー』にも出てくる「物語の文法」を屋台骨としています。

 Q1「まずあなたがこれから書こうとする物語のうち、頭の中に現状あるものをどのような形でもいいので書いてください。」(p.170 傍点原文)、から始まる30の設問に記述していくと、最終的にストーリーが出来上がっています。

 まんが原作や批評家として長年活躍しておられる筆者の深い見識に支えられた議論は研究書としても優れていますが、「本書は「読む」ものではなく「使う」もの」(p.15)と述べられている通り、自分で手を動かしたときにその全貌が浮かびあがるでしょう。


No.044

『小説を読むための、そして小説を書くための小説集—読み方・書き方実習講義』

桒原 丈和 著 2019 ひつじ書房

感想:

 大学の文芸学部で創作についての講座・実習を担当されている著者さんということで、そうした講座・実習を元にしていることが推察されます。

 各章の構成は、まず短編小説が一本まるまる掲載され、続いてそれを解説する講義、そして次にかなり手ごたえのある問題が出される実習編、となっています。

 『二銭銅貨』(江戸川乱歩)や『黄金虫』(エドガー・アラン・ポー)を題材に語り手の問題や情報のコントロールについて論じたり、また『女の決闘』(オイレンベルク著 森鷗外訳)、『女の決闘』『葉』(太宰治)を用いて<空所>つまり小説に書かれていない部分について、あるいは小説と小説の関係などについて論じます。

 創作講座の内容としては特異なテーマを深掘りしていると言ってよいでしょう。一般的な初心者向けの創作講座というよりは、「読むための」の方に力点を置いた文芸批評入門に近いかもしれません。

 巻末には入門書や研究所のブックリストも配置され、こちらもかなりアカデミックな香りが漂います。



No.045

『ベストセラー・ライトノベルのしくみ キャラクター小説の競争戦略』

飯田 一史 著 2012 青土社

感想:

 経営学修士課程に在学されている(執筆当時)著者さんによる評論です。小説家の体験談でも創作講座の講師や編集者の指南書でもありません。

 「本書は商品としてライトノベルを分析する。だから作品論、なかでも顧客満足を実現するための技術論を中心に据える。」(p.20)とある通り、「購買決定要因(KBF Key Buying Factor)」や「顧客満足度」など、経済・ビジネスの概念や用語が並び、ライトノベルやそれを取り巻くマーケットなどの環境が分析されます。

 総論では、大ヒットしたライトノベルが分析されます。それらが、ある三層構造も共通して持つことや、いずれも「楽しい」「ネタになる」「刺さる」「差別化要因がある」というニーズを満たしていることが指摘されます。そのうえで、ラブコメもの、バトルものを中心に一つ一つの作品を取り上げ、このニーズがどのように満たしているかが具体的に分析されます。

 行われているのはあくまでも既存の作品の分析なのですが、ニーズを満たすロジックが分析されているわけですから、とりもなおさず小説の書き方としても読めます。起承転結やテーマ性といった視点ではなく、上記のような独特な視点からの分析は切れ味が鋭く説得的です。例えば、キャラクターの魅力の出し方として、「意外性・二面性」という一言で済ませるのではなく、スペック・外見・内面等の軸と過去・現在・近未来の時間経過の二軸を設けて分析するなど、深掘りの分析が展開されます。これにより、例えば「残念」なキャラクターになぜ魅力があるのかが説明されます。

 取り上げられているのは、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『バカとテストと召喚獣』『とらドラ!』などなどで、本書が出版されたのが2012年ですから、流石に作品や状況が古いことは否めません。この後、いわゆる「なろう系」をはじめとするオンライン投稿サイトのブームも起こりますし、市場も変わってゆきますので、本書に書かれていることがそのまま現在と未来において適用できるかは留保が必要だと思います。しかし、本書がまさに標榜するように、表層的な要素を真似するのではなくそこにあるニーズとロジックを理解することが重要でしょう。


No.046

『芸術大学でまなぶ文芸創作入門―クリエイティブ・ライティング/クリエイティブ・リーディング』

大辻 都 著 2015 ブイツーソリューション

感想:

 芸術大学の准教授が書かれた一冊で、前半は小説を書くためのテクニック、後半は小説の読み方となっています。授業を基にされているだけあって、確かに読解の授業の様相を呈しています。

 全体に、難解なテーマがわかりやすく説明されています。例えばプロットの項目では、細かいテクニックを紹介するというよりは、文学や文芸批評の知見に基づいて重要な項目を説明したり、既存の作例を説明したりするという傾向があるようです。後半も興味深く読め、小説というものが時代や場所を超えて深遠なテーマを共有しうるものであるということがよくわかります。理論派の方には合点のいく内容だと思います。


No.047

『読者の心をつかむ WEB小説ヒットの方程式』

田島 隆雄 著 2016 幻冬舎

 今やベストセラーやアニメ原作の源泉となった、超有名な小説投稿サイト『小説家になろう!』をフィーチャーした本です。

 出版業界の現状や、小説投稿サイトについてもそれぞれ章を割いて詳しく書かれています。ですが、この本の目玉はなんといってもインタビュー。『小説家になろう!』から実際にデビューされた10名の作家さんへのインタビューが並んでいることです。このインタビューが、生い立ち、心構えからテクニック、webならではの苦労まで、かなり深掘りで、どれも読みごたえがあります。

 それぞれに苦労と工夫があって興味深いのは当然ですが、いわゆる紙媒体を想定した小説指南の本には決して書かれないような技術と発想がたくさんあります。例えば、WEB小説では長編の小説でも小出しに投稿することが多いので、いかに飽きさせないかに腐心する必要があったり、更新頻度を高くして固定ファンを獲得する必要がある、というような話があります。

 あえて紹介しませんが、文章の技術についても、一般的な小説指南の本で必ず言われる文章作法(「○○するな、××せよ」)とは全く真逆のことを書かれている作家さんもおられて、驚きます。むしろWEB小説に興味の無い方にも是非一読していただきたい内容になっています。



No.048

『脳が読みたくなるストーリーの書き方』

リサ・クロン 著, 府川 由美恵 訳 2016 フィルムアート社

感想:

 400ページ超、かつ濃密な内容です。テレビのプロデューサーさんということで、小説や映像物を広く対象にしていることが伝わってきます。「人間の脳は、思考のカタログとしての物語への希求という性質を持っているので、それをいかにストーリー作りに利用するか」という趣旨になっています。

 タイトルから、脳科学とか認知科学などに依拠してストーリー制作を論じる本かと想像しましたが、そういうわけではありません。わりと一般的な項目立てに対し、著者さんの主張が展開され、都度それっぽい科学(ピンカーなどを含む)の知識がいいとこどりで援用されているというところです。

 たとえ話やレトリックを頻繁に用いている点、またケーススタディやチェックリストなどによってポイントがわかりやすくなっているところが特徴です。

 また、「一般的にはこう思われているが、真実はこうである」という対比を多用しています。斜に構えた創作スタイルの方にはすんなり入ってくるかもしれません。

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