リスト4(No.029~No.038)作家さん編その4
※このリストは、『小説の書き方本を108冊読んでわかったこと』のリストの一部です。本編は以下のURLをご参照ください。
https://kakuyomu.jp/works/16818093082304773813/episodes/16818093082680236247
No.029
『1週間でマスター 小説を書くための基礎メソッド 小説のメソッド〈初級編〉』
奈良 裕明 著 2003 雷鳥社
感想:
著者さんは小説家でもあり文章教室の講師でもある方で、文章教室の知見が際限なく行かされていると思しき、ボリュームたっぷりの一冊です。
第一章は、小説に重要なのは「意志」と「技術」であるという解説から始まります。この本は技術の書であるとして、テーマの立て方、プロットやシーンの組み方から、文章のリズムの作り方、書き出しやオチのコツまで、かなり実践的で具体的なアドバイスが並びます。プロットは、ハコガキでシーンを作ってそれを組み合わせるという手法が用いられていて、脚本的な考え方が強いと感じました。
章立ては「書いてみよう」「直してみよう」「プロット」と並びますが、これだけではこの本の魅力は全く伝わりません。この本の魅力はなんといっても、具体的な作例とその校正例が多く掲載されている所です。どういう表現、どういうプロットだと問題があり、どうすれば自然になるかがわかりやすく説明されます。
アドバイス内容に自体に強烈な個性があるわけではありません。しかし、丁寧にわかりやすく伝えようという気づかいと、細かい技術の具体性には他にはないものを感じました。文章教室の講師ならではの繊細さだと思います。
No.030
『創作講座 料理を作るように小説を書こう』
山本弘 著 2021 東京創元社
感想:
レシピ公開ということで、一つ一つが経験に裏打ちされた金言が洪水のように溢れてきます。ご自身の経験や、そこから生まれた執筆方法がおしげもなく開示されます。
本書はQ&A方式で進められるのですが、取り上げられる「Q」がどれも率直で、初心者が気になる疑問ばかりです。それに一つ一つ答えてくださっているのですが、「A」は非常にはっきりと、時に強い言葉で書かれています。「あなたが考えたアイデアは、既に誰かが書いている」などのメッセージは、辛辣なようにも思いますが、きつい印象はありあません。それはおそらく、「ではどう書くか」ということまで明確に書かれているからだと思います。
エンターテインメント志向の方におすすめだと思います。
No.031
『小説家になって億を稼ごう』
松岡 圭祐 著 2021 新潮社
感想:
売れっ子作家さんの筆による、印象的な書名が目を引く一冊です。「年収億超えの人気作家が本気で伝える禁断のハウツー 前代未聞!業界震撼!」と、帯ではなく新書の表紙に直接書かれていました。
二部構成になっています。I部の「小説家になろう」は現代小説とは何かから始まって、執筆指南、出版するまでが書かれ、II部「億を稼ごう」はデビュー後、編集者との付き合い方、ビジネスの拡大の仕方、映画化やドラマ化への対応、そしてそれから更に未来に向けて、という章立てになっています。
テレビ出演の時の出演料の相場まで書かれていて、読み手の夢を相当程度広げます。デビュー後や売れてからについてのアドバイスは、他の本に例がないわけではありませんが、ここまでの物は相当めずらしいと言えるでしょう。
ですが、独特なのは後半だけではありません。前半の執筆指南の部分もかなり独特なものがあります。よくある指南書ですと、テーマの設定や構成のコツなどが語られるところですが、本書では「技巧にとらわれるよりも、多くの読者にアピールしうる、別の作り方を用いていきましょう。」(p.25)と、全く別の独自な方法をとります。
『想造』という独自の造語で象徴的にあらわされるその執筆方法は、執筆というよりも想像の中で何日もかけて物語を創造するような技法です。書き手の想像力と、物語に触れてきた経験とその分析力にかなり依存するように見受けられます。執筆初心者を読者として想定していることと、書き手が創作力を既に持っていることを想定していることが、どれだけ嚙み合うかというのは私にはわかりませんでした。
まだ見出されていない才能ある書き手が本書の創作指南と作家業指南にぴたりとはまれば、億を稼ぐような人気作家になることも夢ではないかもしれません。
No.032
『作家で億は稼げません』
吉田 親司 著 2021 エムディエヌコーポレーション
感想:
上記『小説家になって億を稼ごう』(松岡 圭祐著)へのアンサー本で、「理想的なデビューをするにはどうするべきか? そしてデビューしたあと、どうサバイバルするか? その戦略・戦術の指南書なのです。」(p.6)ということです。
使い捨てのような扱いを受けている作家が多いことを憂慮しておられます。いわゆる“なろう系”や“俺TUEEE”などの潮流も踏まえたところが現代的です。
文章指南はほとんどなく、どうやってデビューするか、デビューした後、編集者さんたちとどう付き合ってどう活動をしていくかということに特化しています。
ご自身の経験を赤裸々に開示しつつ、「凡才」の作家が作家として活動していくためにはどのようにふるまってどのように立ち回るべきかが切々と述べられています。編集者との面談のシミュレーションなどが特にリアルに語られ、『小説家になって億を稼ごう』とは別の形で、もし自分が作家としてデビューできたら、の妄想が捗ります。
将来自分が億を稼ぐような作家になるか、それとも本書の言う"何とか生きていくだけの作家"になるかは誰にもわからないわけですが、職業作家になる上で本書が参考になるのは間違いありません。
それから、各章のタイトルが漫画やラノベのタイトルのパロディになっていたり、ツッコミなどにも漫画などのパロディがさりげなく入ったりしていますので、そういうノリが好きな方はぜひどうぞ。
No.033
『これさえ知っておけば、小説は簡単に書けます。』
中村航 著 2023 祥伝社
感想:
著者さんは小説家でもあり、ゲームのストーリー原案も手掛けられ、大学でも教鞭をとり、なんと小説投稿サイトまで主催されているという多才でエネルギッシュな方です。
ストレートな書名になんとも心躍ります。章立て、つまり焦点は、「アイデアの出し方」「こうすればおもしろくなる」「物語の構造を活かそう」といったもので、小説の書き方本に頻出の文字が並び、奇抜なところはありません。他の灰汁の強い作家さんの比べるとすると、やや小さくまとまっている感じなのかな、と思ってしまいますが、実際読んでみると、この方のアドバイスは不思議と新鮮な印象に包まれています。
この新鮮な感じはどこからくるのでしょうか。よく読むと、随所にその答えが散見されます。例えば想定読者層を明確化するために「ペルソナ」(マーケティングの世界で用いられる、具体的な個性を持たせた仮想のユーザー像)を設定することが提案されています。また、文章術の章では、わかりやすい文章を書くために文章のわかりにくさを数値化していたり、段落の冒頭にその段落の趣旨を書くというサイエンスライティングの手法を取り入れたりしておられます。
つまり、他の小説家さんの作法ではあまり見られないような、文学以外の知見をごく自然に取り入れられています。それが小説指南の本としては新鮮なのです。それもそのはずで、この方、大学の工学部卒で「小説とは遠い感じの場所で成長しました」とのことです。小説執筆に関する先入観の無いところから、独自のノウハウを模索したことが想像されます。
といっても、ステレオタイプな「理工系」のイメージから喚起されるような冷たい論理性だけのノウハウではなく、やわらかい言葉で、初心者のわからない・難しいという気持ちに寄り添うような文章です。特に、「おわりに」で語られるメッセージは、自分には「才能」がないのかもしれないと悩む初心者にとって、勇気が湧いてくるメッセージになっています。
No.034
『物語のつくり方7つのレッスン』
円山夢久 著 2012 雷鳥社
感想:
「基礎の基礎」の創作講座を標榜されています。主にストーリーとプロットの本当に基礎の部分や、キャラクターの本当に基礎の部分について丁寧に、順序だてて説明されています。
創作講座の講師を勤められているということです。丁寧な口調で、一つ一つの考え方について、なぜそれが重要なのか、どうしてそういう物語が望ましいのかと、必ず理由をつけて語られていることに気づきました。
物語全体の作り方、キャラクターの作り方、ディテールの考え方、という順序になっていて、非常にシンプルな考え方に基づいてます。「基礎の基礎」の創作講座ということで、あえて枝葉を切り落とした構成になっているのかもしれません。
また、系統立てた考え方が特徴的で、基本的な物語づくりに何が足りていないのかを認識するための穴埋めや、「ありきたり」な物語を避けるためのリストなどは、思うような物語がかけずにいる方には大いに役立つでしょう。
シリーズで何冊か出版されており、姉妹編『「物語」の組み立て方入門5つのテンプレート』ではいくつかのジャンルを取り上げてテンプレートからプロットを作り上げる実践が書かれます。また、『物語の魅せ方入門9つのレシピ』では、バリエーションを増やしてよりスムーズにより広い視野で書けるような「調理法」が書かれます。個人的には最後のSpecial Recipe「書ける」モードを作る10の秘薬」に大変勇気づけられました。
No.035
『エンタテインメントの作り方 売れる小説はこう書く』
貴志祐介 著 2017 KADOKAWA
感想:
ベストセラー作家による、非常に丁寧な一冊です。時折語られるご自分のエピソードから覗くのは、圧倒的な経験と苦労の積み重ねです。そこから生まれる平易にして端的な言葉によるアドバイスは、やはり重みを感じます。
文章作法やプロットなどの基本的なものから、新人賞応募に対するアドバイス、更には筆を止めないように書くコツなど、ベストセラー作家の頭の中を覗いているような気分になります。
あらゆる面において、客観性というか戦略性を感じます。想像力の使い方から読者の感情移入を促す仕掛け、言葉選びや推敲など、長年の執筆活動で培われた戦略が開示されます。
書名の通り、基本的にはエンタテインメント小説を念頭に置かれた本ですが、ストイックに書かれた文章の書き方などはジャンルを超えて広く適用されるべき心得なのでは、と感じました。
No.036
『プロだけが知っている小説の書き方』
森沢明夫 著 2022 飛鳥新社
感想:
某巨大書籍販売サイトの解説では、「本当に役立つ「具体的」「実用的」な情報だけをまとめました。」と書かれていました。本書の冒頭でも、心構えのようなふわふわしたものをおいておいて、実践的なコツとその使い方を、と宣言しておられます。
章立てもその通りになっており、ネタを考え、設定を考え、プロットを考え、原稿を書き、推敲する、という章立てになっています。
読みやすさの要因として、1.アドバイスが端的で具体的、2.文章が軽妙、3.挙げられている例がいずれも身近なもの、という3点を感じました。特に3ですが、こういった書籍では例えにいわゆる文豪などの名作文学作品が挙がることが多いのですが、本書では『ONE PIECE』や『ドラえもん』などを始め、マンガなどが多く挙げられています。
小説投稿サイトに掲載された質問への回答を中心とした書籍ということで、エンターテインメント小説、それもかなりライトで若者向けの小説を念頭に置かれているようです。スラスラ読めて頭に入るので、読み終えた時には、その勢いで長編小説を一本書けそうな興奮状態になっています。
No.037
『書きたいと思った日から始める! 10代から目指すライトノベル作家』
榎本 秋, 菅沼 由香里, 榎本事務所 著 2021 DBジャパン
感想:
ライトノベルを中心としたエンターテインメント小説の書き方本を多数書かれている著者さんが、10代向けということを特に強調して書かれた一冊です。
原稿用紙の基本的な使い方から、プロットの考え方、起承転結の考え方、ターゲットのとらえ方、プロを目指す際の心構えまで、小説の書き方本に頻出な項目をかなりの範囲網羅しています。図やチャートなども豊富で、とにかく概観を把握したい方に向いていますが、一項目ごとのページ数は限りがありますので、どれも初歩段階のアドバイスと言ったところです。
小説の書き方だけでなくその周辺についても10代向けということが意識されており、職業としての作家がどういうものかという話題や、「学校生活を大切に過ごそう」というコラムが掲載されています。最終第12章は「ライトノベル作家になるための進路」として中学生、高校生を中心に、今後の進路についてどう考えたらよいかのアドバイスが書かれています。決して無責任な姿勢を取らず、専門学校、短大・大学それぞれのメリット・デメリットが書かれ、最終的には「周りの大人に相談しよう」(p.197)としているところが、10代に向けて真摯に考えられた結果なのだと感じました。
ライトノベルを書いてみたい、とにかく始めて見たい若い方の最初の一冊としてよさそうです。
こうした指南書を多数上梓されている著者さんなので、肌に合うと思われた方は他のものもチェックしてみるとよいと思います。
No.038
『Web小説のための NovelSupporterで超効率的に文章推敲する本』
クロノス・クラウン柳井政和 著 2020 秀和システム
感想:
ソフトウェア、ゲーム、小説等を開発する会社の代表であると同時に小説家でもある著者さんの本で、NovelSupporterというソフトの解説本です。
便利な機能のあるワープロ、という範疇を超え、テキスト分析までできるソフトのようです。同じ言葉や表現が連続するのを防ぐための「単語近傍探索」文末の音の連続を防ぐための「文末重複確認」などから、作品全体の感情の流れを確認する「センチメント分析」など、小説を書く方ならどれだけ便利な機能かというのはそれだけでおわかりだと思います。
かなり多くの本で推敲の重要さ、大変さは語られています。こうしたソフトを用いて作業効率を上げると言うのも選択肢の一つとしてよいのではないでしょうか。
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