リスト3(No.018~No.028)作家さん編その3

※このリストは、『小説の書き方本を108冊読んでわかったこと』のリストの一部です。本編は以下のURLをご参照ください。

https://kakuyomu.jp/works/16818093082304773813/episodes/16818093082680236247


No.018

『マナーはらいない 小説の描き方講座』

三浦 しをん 著 2020 集英社

感想:

 有名人気作家さんの人気連載の単行本化です。エッセイ的な側面も強く、語り口が楽しいです。やや脱線しながら本質に迫っていくパターンにいつのまにか引き込まれます。語り口が楽しく、ぶっちゃけトーク感があります。投稿作のあるある失敗などがわかりやすく、自分のこととして読める方も多いのではないでしょうか。親身に相談に乗ってもらっているイメージです。

 人気作家ならではの項目も多く、例えば取材方法についてのアドバイスもあります。実際の執筆に使われた構成メモの公開など、貴重な話が多いです。

 短編についての言及が多いので、短編志向の方にもおすすめです。


No.019

『小説の書き方小説道場・実践編』

森村 誠一 著 2009 角川グループパブリッシング

感想:

 「仕事人」、「職人」、「プロフェッショナル」。そういった言葉が浮かんできます。

大ベストセラー作家が記した「小説の書き方」ですが、寄り道せず、かと言って端折りもせず、アイデア、プロット、文章、文体など、テーマごとに丁寧にその理論と技術を開示していきます。

 ミステリーで知られる方ですが、それに限らず、広く小説全体を射程におさめた技術論です。アドバイスは具体的かつ理知的で、例えばプロットの立て方一つとっても、きっちりとパターン分けがなされており、あれだけのミステリーを書くにはやはりこれだけ頭の中を整理している必要があるのだな、と敬服せざるを得ません。

 大御所中らしい大所高所の発想もあれば、大御所でもこんなに謙虚なんだ、というところもあり、その懐の広さを感じます。他の作家さんの文章を引用されて、そこで使われている技術などを説明されるのですが、石田衣良氏や三崎亜紀氏など、ご本人からすればかなりの若手と映るであろう作家さんの文章を、良い例として参照されておられる点も素晴らしいです。

 晩年までどん欲に研究されていた様子が伝わってきます。


No.020

『都築道夫の小説指南 増補完全版』

都築 道夫 著 2023 中央公論新社

感想:

『都築道夫の小説指南』(1982 講談社)、改題『都築道夫のミステリイ指南』(1990 講談社文庫)を基に、著者による小説に関するエッセイ・対談を増補し再編集したもの、だそうです。一から順を追って小説の書き方をたどる形式ではなく、コラムを集めた書籍です。

 エッセイ『エンタテインメント小説の書き方を伝授しよう』、コミュニティ・カレッジの講座を基にした『小説指南』がそれぞれ七本、『わが小説術』が25本、対談が4本、25の質問もついて、こうした種の本としてはかなりボリューム感があります。

 本来小説には書き方などない、としながらも、「早手まわしに小説が整えられる技術というものが、一応ある」(p.9)とおっしゃっています。 “小説を整える“という表現は興味深く、一通り小説として成立するように書く技術と、内容として本当に面白い物を書くということを別物として想定しておられるようです。

 そのうえで、多くの経験に裏打ちされた小説指南が語られるのですが、昨今の「簡単にストーリーが作れる」式の指南本に慣れている方には、やや抽象的に映るかもしれません。しかし決してわかりにくいという意味ではありません。時にはリアリティの出し方について、時にはタイトルのつけ方について、時にはご自身の修行時代について語りながら、小説、特にエンターテイメント小説の書き方が、根本的な精神と共に語られます。

 大家の語りに浸りながら、その精神に入門してみようという方にはうってつけです。他の本にあまり登場しない怪奇小説やホラー(ハラー)についてもページが割かれているのもうれしいところです。


No.21

『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない』

大沢 在昌 著 2019 角川書店

感想:

 「小説 野生時代」に掲載された誌上講座を単行本化したものです。『第一回 作家で食うとはどういうことか』『第二回 一人称の書き方を習得する』『第三回 強いキャラクターの作り方』など、各回テーマに沿って会話体での講義が記されます。中には、受講生の習作を取り上げて講評する回もありますし、それ以外にも質疑応答も随所に挟まります。

 全体的に、系統だてた話というよりは著者さんが重視している点や思いついたノウハウを滔々としゃべるという作りになっています。そう書くとなんだかまとまっていないように聞こえるかもしれませんが、内容が濃く、ポイントを押さえた話しぶりも相まって、散漫な印象はありません。

 書名からもわかると思いますが、小説の書き方だけを取り上げているのではなく、どうやったらデビューできるか、デビューした後にどうやって食べていくか、作家としてどう作品を生み出していくか、ということが強く意識されています。

 受講生のどんな質問にも真摯に答えておられ、著者さんの人柄が伝わります。


No.022

『たった独りのための小説教室』

花村 萬月 著 2023 集英社

感想:

 最初から最後まで花村萬月節で、とにかく理想とする小説への厳格なまでの探求心に溢れています。

 いろいろな小説を、こういうのは無意味、こういうのはセンスがない、と切り捨てていく様子は圧巻で、ベストセラー作家の凄みと厳しさを感じます。この「センス」というワードが随所に現れます。まずセンスありきで、その上に技術を積み重ねるのが小説家ということだそうです。

 プロであるということに重い意味を置いておられ、例えば小説を金銭に変える(=売る)ことができない人に対しては「これをなしとげることができぬ人がいかに御立派な御高説を垂れようと、無意味です。ネットという無料奉仕の場でせいぜい自己顕示慾を充たしてください。」(p.75)と、喝破します。

 それから大御所作家の放談エッセーとしてもとても面白く、当時の銀座での豪遊エピソードなど、かつての出版業界のバブリーな様子が垣間見えたりして、参考になります。


No.023

『書くことについて』

スティーブン・キング 著 2013 小学館 (小学館文庫)

感想:

 「書くこと」について、著者さんの思考をそのまま、時にユーモアたっぷりに、時に容赦ない辛辣な言葉で書き連ねたような本です。

 小説の書き方本に、チャートやリストを作成して分解して記述するタイプと、ご自身の経験やエピソードなどを用いて思考し語るタイプがあるとすれば、本書は典型的な後者です。

 ストーリーやプロットの書き方のノウハウとして、三幕構成の分析的な説明などではなく、"旅行に向かう飛行機で見た夢を紙ナプキンにメモしておいて、宿泊したホテルで机を借りてノートに十六頁書いた"というような説明を読みたい方には最適の本でしょう。

 また、日常生活や創作ということに向けられる鋭い洞察には感心するばかりです。

「もうひとつ忘れてならないのは、現実の世界に“極悪人”や“無二の親友”や“美しい心を持つ娼婦”などはいないということである。現実の世界では、ひとはみな自分こそが主人公であり、キーパーソンであり、いっぱしの人物であると思っている。」(p.254)

というような、はっとさせられる金言に満ちています。


No.024

『ベストセラー小説の書き方』

ディーン・R. クーンツ 著, 大出 健 訳 1996 朝日新聞出版(朝日文庫)

感想:

 原著は1989年に出版されているということです。出版からかなり時間が経っていますが、「これでいいじゃん」感がすごいです。完成されています。本書は、作家さんが書かれた文章術の本でよく参照されているのですが、それも納得です。

 ストーリーラインの組み立てかた、アクションの見せ方、ヒーローとヒロインの設定の仕方、背景描写の重要性、場面転換、リズミカルな会話など、のちの世に生まれる小説の書き方本の基本が全て押さえられています。

 また、SFやミステリーについても目配せをしているところがさすがと思わせます。 

 根底に流れているのは、「読んで読んで読みまくれ、書いて書いて書きまくれ」です。


No.025

『「書き出し」で釣りあげろ』

レス・エジャートン著  倉科 顕司, 佐藤 弥生, 茂木 靖枝 訳 2021 フィルムアート社

感想:

 文字通り釣りっぽいタイトルで、上辺の技巧だけの本のような先入観を持つかもしれません。読んでみると、実は全く逆の本であることがわかります。創作を真正面からとらえた技術書です。

 本書の主張をもっともよく表す一文を探すとするなら「適切で質の高い書き出しは、ストーリー全体の縮図です。正しい書き出しを攻略すれば、ストーリー全体の縮小版を書きあげたことになります。」(p.20)でしょうか。書き出しというものは、例えば背景をダラダラ書いたりするのではなく、小説全体の核心の問題につながるようなトラブルが始まる部分をズバリ書くことで読者を掴め、という主張です。

 自身の小説の書き出しの「悪い例」と「実際の例」を比較したり、他の作家さんの優れた書き出しの例を多く上げていたりと、実例を数多く載せているのですが、確かにどれも数行の書き出しだけでぐっと引き込まれ、本当に読みたくなってしまうようなものばかりです。(そして翻訳されていない作品ばかりなので、気になりっぱなしです。)

 小説を書く度に思い出すであろうパンチラインや、「べからず」集、はては大勢の編集者からのアドバイスなどが羅列され、実用的な一冊です。パワフルでわかりやすくてウィットにとんだ文体も魅力です。


No.026

『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』

K.M. ワイランド 著, シカ・マッケンジー訳 2013 フィルムアート社

感想:

 アウトラインを書かない派の人も書かない派の人もいて、それはどちらも間違いではない、それぞれ自分に合ったやり方で書けばよい、としています。ただ、アウトラインには「きちんとした書式で書かなければならないのではないか」「アウトラインを書くと自由な発想が妨げられるのではないか」といった誤解があるとのことで、それらを正したうえでアウトラインから書くことの利点を説明し、実際に小説を書きあげるまでアウトラインの活用の仕方を説明しようというのが本書の趣旨です。

 本書では物語を端的な一文で表したものを「プレミス」と呼び、そこからアウトラインを作ってさらにそこから物語を創造していく様を具体的に説明しています。ひとつひとつ丁寧で理論的な印象を受けました。

 加えて、「プレミス」を作成する利点として「人物、舞台設定、葛藤を明らかにする」などに混ざって「企画を売り込む準備ができる」という点が挙げられており、ビジネス、プロダクトとしての小説執筆という意識を感じました。

 何冊かのノウハウ本を執筆されており、『穴埋め式 アウトラインから書く小説執筆ワークブック』は、本書を踏まえて、プレミス、ログラインからキャラクター、舞台設定、ストーリーの要素まで、穴埋め、リストアップ、箇条書き、マインドマップで作成しようという趣向になっています。

 こうした方法が嵌る方には最適だと思います。



No.027

『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』

アーシュラ・K・ル=グウィン著, 大久保 ゆう 訳 2021 フィルムアート社

 物語の作り方ではなく、文章の書き方に特化した書籍です。原題は”Steering the Craft”で、邦題の「文体」から想像される内容よりはもう少し射程が広いようです、第1章「自分の文のひびき」から、句読点と文法、文の長さと複雑な構文、繰り返し表現、形容詞と副詞、など、広く文章の書き方について語られます。

 「語りの文章の主な役割は、次の文へとつなぐこと――物語の歩みを止めないことだ。前へ進む流れ、歩調、リズムとは、本書でこれから何度も立ち返る語である。歩調と流れは、何よりもリズムに左右される。そして自分の文体のリズムを実感して制御する第一の手段が、文に対する聴力――文のひびきに耳を澄ませることだ」(p.23)

 文体を整える目的として、読み手を適切に前に進ませるということが全編通じて語られます。魅力的な文章とは、理解しやすく、読み手のペースをコントロールできる文章というわけです。句読点も文法も繰り返し表現も、全てはそのためにあります

 翻訳書なので中には英語特有の問題もありますが、ほとんどは言語に依存しない技術の話ですし、そうでなくてもその目的がわかっていれば日本語にも十分適用できる内容です。



No.028

『パムクの文学講義 直感の作家と自意識の作家』

オルハン・パムク 著 2021 岩波書店

感想:

 ノウハウ本というよりは、文学論に近い内容になっています。

 頭の中の動作や計算を自覚せずに書く人を「直感的(ナイーヴ)」、正反対の人を「思索的(リフレクティヴ)」と呼んだうえで「小説家であると言うことは、同時に直感的でもあり思索的でもあるという技なのです。」(p.10)としています。

 キャラクターやプロットについて書かれており、ノーベル賞作家でもこうした項目を挙げて論じるということが個人的には印象に残りました。キャラクターというものを歴史的に相対化し、我々が小説をどう読み、小説がどう作られてきたのかという議論の中でキャラクターが位置づけられているのを大変興味深く読みました。

 いわゆる「純文学」というカテゴリーでよいと思うのですが、それ以外のジャンルを書く上でも、心に残る講義であると思います。



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