リスト2(No.009~No.017)作家さん編その2

※このリストは、『小説の書き方本を108冊読んでわかったこと』のリストの一部です。本編は以下のURLをご参照ください。

https://kakuyomu.jp/works/16818093082304773813/episodes/16818093082680236247


No.009

『天気の好い日は小説を書こう ワセダ大学小説教室』

三田 誠広 著 2000 集英社

感想:

 改題前の単行本は1994年の出版です。W大学での実際の講義を元にされているとのことで、臨場感たっぷりの講義形式で語られます。すいすい読めて、読んでいるうちにいつのまにか大学での小説執筆講座を受けている気分になります。いきなり「最近の学生は暗い(笑)」で始まるなど、当時の空気感も垣間見えるのがたのしいところです。

 友人の作家さんで誰が作家として食えている、誰それは食えていない、といった話や、作家になりたい人も一度就職した方が良い、という話まででてくる一方、小説の歴史あり、小説を書くための具体的な諸注意ありと、いろいろな角度から小説を書くということが語られます。そしてそれらの話が、いつしか「小説をいかに書くか」という一点に流れ込んでいきます。

 最後の章『小説がスラスラ書ける黄金の秘訣』は、読んだ瞬間に「これで書けるじゃん!」と思ってしまうほど実践的で強力です。(その状態から実際に書きあげるまでが大変なのですが。)

 全体的に、ライトな小説よりはいわゆる純文学寄りの作風の方のほうが親和性が高いと思います。


No.010

『書きあぐねている人のための小説入門』

保坂 和志 著 2008 中央公論新社

感想:

 本書は最初に「少なくとも論理的・分析的には読まないでほしい」(p.13)と宣言されており、本来あまり分析的に語ってはいけないのかもしれません。

 随所に、小説は小手先の技術で書いたりしてはいけない、書き続けることで身体化した中で生まれてくるものが小説だ、というメッセージに溢れています。本書は軽々に技術を語るものではなく、どうすれば小説が生まれるのか、という思考の方法を教えてくれます。

 では実践的ではないのかというとそんなことはなく、人間を書く、風景を書く、ストーリーを書く、とった章にそって、具体的なアドバイスが与えられます。キャラクターに役割を与えるな、など驚くような主張も多いです。しかしよく読むと、なるほどと感心している自分がいました。

 全般通してラディカルな議論が展開されます。「なぜ小説には人物が登場するのか?」という問いは、非常に示唆的です。


No.011

『小説作法ABC』

島田 雅彦 著 2009 新潮社

感想:

 法政大学での講義を元にした書下ろし、だそうです。

 「はじめに」で語られるのは、人は誰でも生まれながらにしてストーリーテラーである、だけれども、それを誰もが文学の形に打ち出せるかというとそんなことはなく、それには技術が必要なのだ、ということです。

 構成、語り手の設定、描写/速度/比喩、対話の技法、トポロジーなどのメニューが並び、精神論や体験談でなく一貫して技術がテーマになっています。そしてその技術というのは小手先のものではなく、深い文学知識と洞察に基づいたものであるという主張になっています。トポロジーや速度など、他の指南書であまり見ない着眼点も多く見られます。

 いわゆる純文学だけが対象かというとそんなことはなく、神話と小説の関係や起承転結の肝なども重視されており、エンターテイメント小説も射程にとらえていると思います。


No.012

『北村薫の創作表現講義 あなたを読む、わたしを書く』

北村 薫 著 2008 新潮社

感想:

 早稲田大学での講義を文字起こしを再編成したものです。講義だけでなく、歌人にインタビューをする、それをコラムに書く、そしてそれを読み合うという演習があったり、あるいは編集の方をお呼びしてインタビューをする、小説を読むなど、いろいろな形式での授業を含んでいます。

 読むこと、伝えること、などを通じて、表現の難しさと素晴らしさについて触れていくというのが眼目になっています。プロットはこう創る、キャラクターはこう設定する、というような構成にはなっていません。読み、話し、思考し、外面化する、それらの行動の中で表現を体験していくことを通じて、小説を書いたり表現したりすることを学んでいくという本にです。


No.013

『一億三千万人のための小説教室』

高橋 源一郎 著 2002 ‎ 岩波書店

感想:

 優しく語り掛けるような文体で、寄り添うような、あるいは煙に巻かれるような、不思議な読み心地で本書は進みます。

 「これって何の話をしてるんだろう?」と読み進めるうちに、いつの間にか「小説ってなんだろう?」と考えている自分に気づきます。

 プロットの立て方も、登場人物の造形のコツも、上手な文章の書き方も教えてくれません。でも、他のどの本よりも根源的で、どの本よりも刺激的な「小説の書き方」であることは間違いありません。

 ちゃんと本の説明しろよ、とお思いでしょうが、この本自体が「説明」を排斥しているため、「説明」は不要です。よろしければ身を任せてみてください。

 読み終わった後は、あなたの小説観ががらりと変わっているかもしれません。


No.014

『秘伝「書く」技術』

夢枕 獏 著 2019 集英社

感想:

 超売れっ子大御所である著者さんの仕事術をまとめた本です。

 「はじめに」から、『カードにアイデアをまとめておいて、それを並べ替えて小説を作り上げる』という創作法が紹介されていて驚きます。タイトル通り、こうした細かい「技術」に特化した本なのかな、と思いきや、読み進めるとそうでもないことがわかります。

 一日のスケジュールや子供時代のこと、作品を書かれている最中のいろいろなエピソードなどが並びます。第二章の「創作の技術 面白い物語をつくるポイント」が小説の書き方の章なのですが、そこでも「自分を褒めよう」とか「違う作風にもチャレンジしよう」といった話題が展開されます。

 仕事術が惜しげもなく紹介されていて面白く読み進めることができ、読み終わった時には熱に浮かされてような気分になります。

 「どんなときにもカードを持ち歩いてアイデアをメモをする」「休みなく毎日小説を書く。旅行に行った時も旅行先で書く」「できれば書きながら死にたい」と、本書の中だけでも著者さんの執筆活動に対する情熱を読み取ることができます。著者さんにとっては、創作のための技術は、生活あるいは思考そのものと切り離せないものなのかもしれません。だから、書く技術について語るということは、必然的に技術とご自身の話が必然的に混然一体となっているのではないでしょうか。


No.015

『創作の極意と掟』

筒井 康隆 著 2014 講談社

感想:

 鬼才による創作術の本です。テーマごとに、比較的短めのエッセイ形式の文章からなります。テーマは「会話」「文体」「人物」「視点」といった創作術の本で頻出のものから、「遅延」「逸脱」「色気」といった、あまり他で見かけないテーマのもの、はては「実験」「妄想」「諧謔」「薬物」といった、著者さんならではの項目も並んでいます。

 「序言」が「この文章は謂わば筆者の、作家としての遺言である。」との文から始まっており、これはひょっとして大ベテラン作家にたまにみられるような、悪い意味での訓示のようなものかな、と一瞬身構えるのですが、読んでみるとそんなことはありません。

 太宰、漱石、ドストエフスキーから東浩紀氏や涼宮ハルヒまで幅広く言及しながら、ありがちな創作術に拘泥することなく論じているという印象です。

 31のテーマの中でまず最初に掲げられているのが「凄味」で、これは非常に象徴的に感じました。

 読めばすぐに小説が書けるようになるという種類の本ではありませんが、巨匠の創作の「極意」を垣間見ることができるのは間違いありません。


No.016

『清涼院流水の小説作法』

清涼院 流水 著 2011 PHP研究所

感想:

 著者さんが著者さんですので、多少構えながらページを開いたのですが、少なくとも構成としては奇妙なつくりにはなっておりません。

 小説の才能、小説家になる動機と心構え、「書く」という覚悟、と半ばエッセイ風に進んだ後は小説のテーマの見つけ方、小説のジャンルの問題、小説のアイディアについて、小説の人物造形について、と具体的技術的な内容に入っていきます。

 ジャンルの越境や、奇抜なアイデアの見つけ方にも言及されますが、それは本筋ではなく、あくまでも小説一般を対象にした創作作法の本になっています。

 「はじめに」から本編まで何度も繰り返されるように、小説を書く才能は誰しもそれほど差はない。差を生むのは努力であり、必死に質の高い努力をしなければならない、という考え方に基づいています。


No.17

『物語を作る魔法のルール 「私」を物語化して小説を書く方法』

山川 健一 著 2023 幻冬舎

感想:

 サブタイトルが“「私」を物語化して小説を書く方法”となっており、この「私」というものが本書の肝です。

 著者さんによれば、言葉を発することで人は体験を「私」として輪郭のあるものにします。これは自己を物語化するということであり、小説というのは私小説だろうとエンターテイメント小説であろうと、全てがこの「私」の物語化の一部である、ということと理解できます。

 この考え方に基づいて、本書は「発話以前」「小説を構想する」「発話以降」という段階に分けて、小説を書くこと=「私」(と世界の関係性)を見つめることを進めていきます。

 プロップらのナラトロジーに多くを拠っているわけですが、長年の執筆と大学での講義の経験から作成されたオリジナルの設計図(p.141~146)はたいへん洗練されています。

 ナラトロジーの他にもポスト構造主義などの議論を随時参照し、デリダ、バルト、クリフォード・ギアツなどの名前が並びます。一方で、自己の存在にインパクトを与え小説を書くに至る体験のことを(ヴァレリーになぞらえ)「ジェノヴァの夜」と呼んだり、それによって困難を乗り越えて小説を書きだすことを「アルゴ号に乗り込む」と表現したり、小説は主人公が時間と空間を旅することであってそれは「自ら主体的に選びとったわけではなく、何かしらの外圧によって追い込まれたから実現したのだという形にしなければならない」(p.73)としたり、詩的だったり情緒的であったり、あるいは思弁的であったりもします。

 小説の指南書でナラトロジーを中心に据えた書は珍しくありませんが、書くという行為そのものや哲学的な議論に接続しているのは新しく、考えさせる一冊になっていると思います。


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