リスト1(No.001~No.008)作家さん編その1

※このリストは、『小説の書き方本を108冊読んでわかったこと』のリストの一部です。本編は以下のURLをご参照ください。

https://kakuyomu.jp/works/16818093082304773813/episodes/16818093082680236247


No.001

『書く人はここで躓く!  作家が明かす小説の「作り方」』

宮原 昭夫 著 2016 河出書房新社

感想:

 賞の選考や添削などに忙殺されておられる方ということで、応募作や提出作品を具体的に例示して、修正すべき箇所などを丁寧に示しておられます。取り上げる点が、いかにも初心者にありがちなことばかりで、ひとつひとつ参考になります。

 前書きで書かれているように、全体を通じて例え話やメタファーがふんだんに用いられており、これがまたひとつひとつ腑に落ちます。ちなみに個人的に刺さったのは、“尾頭付きと切り身”の例えです。今後、ずっと頭から離れなさそうです。

 必要十分でシンプルな章立てになっていますので、淀みなく読めて淀みなく頭に入ってきます。


No.002

『めざせ!文学賞 小説実作入門講座』

佐々木 義登 著 2023 徳島新聞社

感想:

 文学の研究者で大学の教授で、40歳をこえてから三田文學新人賞を受賞された作家でもある方の著書です。タイトル通り、何らかの文学賞を受賞できるような小説を書くということが念頭におかれています。 良い小説とは何かを考えるためにまずカラーの文芸批評にあたるなど、文学研究者らしさに溢れています。また、小説のテクニックとして挙がるのが”異化効果”であったりと、他のテクニック本とは一線を画しています。

 一方で、SNSの積極的な利用を薦めるなど、新しい事物も取り入れておられます。生成AIについての言及もあり「小説というのは書くことが楽しみなので、生成AIにやらせずに書いて楽しみましょう」という趣旨のことを語っておられ、なるほどと思いました。

 『第一章 文学作品とはなにか』『第二章 小説を書く時の考え方(モチベーション編)』『第三章 小説を書く時の考え方(テクニック編)』『第四章 文学賞応募に向けて』『おわりに―小説を書くセンス―』という構成になっています。


No.003

『何がなんでも長編小説が書きたい!  進撃! 作家への道!』

鈴木 輝一郎 著 2021 河出書房新社

感想:

 本書の目的は、質はどうでもいいので締め切りまでに原稿用紙を埋める方法を書くこと、とのことです。

 第一章「長編小説執筆は商業小説を目指すなら必須」で、商業作家として生き抜くうえでなぜ長編小説を書く必要があるのかが語られ、第二章「長編執筆で、いつ、なぜ行き詰まるのか」、第三章「長編に行き詰まったらどうするか」と、長編小説を書いても行き詰まる人、書き上げられない人のパターンとそれに対応した助言が綴られます。

 書けないパターンとしていろいろな例が挙げられるのですが、これが非常にリアルで身につまされます。

 第四章の「どうやれば長編小説が書きあげられるのか」に対応策の結論が書かれているのですが、身も蓋もなくて笑ってしまいました。しかし笑った後でふと、創作においてこれが何を意味するかを真面目に考える必要があると考えなおしました。


No.004

『小説家になる方法』

清水 義範 著 2007 ビジネス社

感想:

 二部構成になっており、第一部『いかにして私は小説家になったのか』は「どんなふうに小説家になりたいと思い、どんな体験を積んでなることが出来たのかを、事実をもとにまとめ」たもの、第二部は創作講座になっていて、「小説の書き方の実践講座をやってみる。アイデアの出し方、取材の仕方、キャラクターの作り方、描写のテクニックなど、技術面でのノウハウを私の考えでまとめ」たもの(p.7-8)です。

 更に第二部は小説のアイデアやキャラクターなどにまとめた「A.書くための方策」と投稿などの指南である「B.小説家になる具体策」に分かれています。Aでは、アイデア、キャラクター、リアリティーの出し方などの項目に先んじて、「取材の仕方」を挙げられているのが印象的です。ご自身の豊かな経験に基づいた非常に説得的な文です。

 全体的に飾り気のない言葉で書かれており、含蓄に富んでいますが、押しつけがましいところがないように思いました。

 ただ、具体的な小説の書き方、テクニックについて語られる「A.書くための方策」は、ページ数の制限もあると思うのですが、一から十まで手取り足取り教えるというよりは、各項目についてコツを教示するという色合いが強いです。ですから、全く初めて小説を書いてみる方よりは、書いてみたがどうもうまくいかない、という方に向いているように感じました。

 小説を書きながら、たまに本書を取り出して読み返してみると、その時あらためて本書に書かれたコツの深い意味が分かる、というタイプの書物かもしれません。


No.005

『現代小説の方法 増補改訂版』

中上 健次 著, 髙澤 秀次 編 2022 作品社

感想:

 1984年に開催された連続講座を文字起しして2007年に書籍として刊行された『現代小説の方法』、本書はさらにそれに増補・改訂して2022年に刊行されたものです。

 冒頭で、小説の書き方みたいなものをお話ししようと思います、とおっしゃっているので、少なくともそういうことを標榜しておられることは間違いありません。ただ本書で展開される小説論はいわば”中上健次の小説”の書き方であり、万人が共有できるものではなさそうです。トポスから生まれる物語、貴種流離譚を代表とする物語の原型と語りなど、著者さんの問題意識がとにかく詰め込まれていて、信念とエネルギーを浴びることができます。

 エピソードトークからいつの間にか本筋に入っていたり、脱線やたとえ話も多く、文脈のわかりづらい専門用語が唐突に入るなど、わかりにくさは覚悟した方がよさそうです。そのうえで、読み物としては非常に面白く読めます。

 一方小説執筆初心者にとって本書が"小説の書き方本"としてどのように有効かという問題ですが、随所に挿刺激的な話題が散見されますので、それを読むだけでも創作意欲が掻き立てられます。例えばフィクションと詐術(p.72)短編小説と長編小説の違い(p.98)、東京を舞台にした小説は可能か、あるいは嗅覚(p.116~)などなどです。

 また、多少メタな読み方ですが、自分の問題意識にこれだけのエネルギーを注げるというのが創作においていかに重要か、ともとらえられるように思います。


No.006

『文章読本 改版』

谷崎 潤一郎 著 1996 中央公論新社

感想:

 谷崎潤一郎によって昭和九年に書かれた文章の書き方です。

 もしかしたら“癖の曲がった老人の書き方”とかが書かれているのだろうかと危ぶまれる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。『一 文章とは何か』『二 文章の上達法』『三 文章の要素』……と並んでおり、いたって普通です。

 教えも、例えば“実用的な文章と芸術的な文章の間に根本的な差はない。簡潔に明瞭に伝えることが文章の要“(p.20)など、今読んでも無理なく受け止められるものばかりです。

 中には、”文語文と口語文の差”など、参考にはなるものの現代の書き手にはあまり実感できないような部分もあるのですが、それらはごくわずかで、大部分は今でもそのまま通用する教えです。長年通用している教えということは、その事実だけでかなり本質的なものだということができるように思います。

 印象に残ったのは、「言語は思想を伝達する機関であると同時に、思想に一つの形態を与える、纏まりをつける」(p.18)「言語は万能なものでないこと、その働きは不自由であり、時には有害なものである」(p.19)という、言語を相対化するようなことを冒頭に書いておられることです。これは、こうした文章指南の本の中でも稀有です。この点だけ取り上げても、文学史に輝く文豪の卓見に敬服せざるを得ません。

 ほか、文章の要素のうち「調子について」や「品格について」など、他の文章指南の本には見られない教えが並んでいます。

 「古い本にしては」などの譲歩なしで、十分勉強になる一冊です。


No.007

『小説読本』

三島 由紀夫 著 2016 中央公論新社

感想:

 小説や文章に関する三島由紀夫の文章が集められた本です。「これを読めば誰でも書ける」式の本に慣れた身にはだいぶ硬派ですが、文豪の小説観、創作論を一冊で読めるのはずいぶんありがたい機会だと思います。

 画家がフランスへ修業に行って得る最大の成果として「毎朝きちんと、(書きたい気持ちがあってもなくても)、一定の時間を、画架を前にして座るという習慣」が挙げられるという話が二度出てくるのが印象的でした。

 そしてまた、創作の上達には不断の訓練しかない、ということも何度か語られ、当たり前のことですが文豪がわざわざ語っていることには重みがあるのだと思います。


No.008

『現代小説作法』

大岡 昇平 著 2014 筑摩書房

感想:

 解説によると『文學界』に1957年から1959年まで連来され、1962年に単行本化されたものの文庫化のようです。タイトルは「現代小説作法」ですが、小説の書き方本として気軽に読むには少し重いです。

 目次には「書き出しについて」「作者の位置について」「ストオリーについて」「プロットについて」「主人公について」、などいわゆる小説作法の本と同様の章が並んでいます。ですが読み始めてみると。のっけから”小説作法なんてない、小説作法とされているものを過信しないほうがいい”と書かれていてのけぞります。

 本書は文学論の色が強いのですが、ストオリーからプロット、そして主人公についての一連の部分は、文学史的観点、思想的観点も含めて、小説の書き方本としても非常に参考になると思います。ストオリーとプロット、そして主人公の関係が、ラーナー『英文学をどう読むか』ファーガスン『英文学をどう読むか』を参照しつつ議論されます。観客や読者を魅了する小説や演劇の力という大きな議論を、具体的に文章としてどう落とし込んでいくかについて考えながら読むのがよさそうです。

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