古き良き日々

@sharles1010

古き良き日々

古き良き日々


古き良き日々、楽しかったあの頃、素晴らしい青春。見るもの全てが輝いて、全てがキラキラ光って見えたあの頃

この瞳に写る物全てが生き生きとしていたあの頃

どうだろう。あの頃にもう一度戻れたなら。

でもそんなことはもう出来ない。


過ぎゆく日々は後に思い返せば夢の如く

過ぎゆく今は、遥か彼方へ


あの高校生活だって、間違いなく三年間あったはずなのに

全ての記憶を合わせてもせいぜい一年分にもならない。

三年間もの月日が、今では記憶に僅かに残るのみ。

まるで最初から無かったかのようだ。


まだ何かその頃を思い出せる物があるならいい。

しかし何もない、俺のいた高校も今では外観をとどめるだけで中の生徒も先生もみんな変わって、ただの一生徒のことなど誰も覚えているわけがない。


今その高校に寄りつこうものなら警察を呼ばれるのがオチだ、俺だってそこで三年間過ごしたと言うのに。まるで部外者かのような扱いだ

その頃の写真も、当時携帯電話を持っていなかった俺には無いに等しい。

何人かいた友達も俺が卒業して大学のため上京してからまるで会っていない。

もはや。俺の高校生活の名残は実家の当時使っていた勉強机や筆箱に幾つか生き残っている文房具くらいで。

それもどのペンをいつから使っているのかも正確には覚えていない。


俺に高校時代があった事を証明してくれるのも卒業証書くらいのものだ。

しかし、それにしてもなぜだろう。大学卒業も来年に控えた今となって過ぎた事を思い出すのだろう。


俺の高校生活なんてパッとしたものでもなかったのに。特段頭が良いわけでも愛人の一つ出来たことがないのに。

文化祭でヘマをしたことなんて早く忘れたいくらいなのに。

なぜこうも記憶に残っているのか


そういえば、あの頃。面白い女が一人いた。

今となっては顔もうろ覚えでどんな声だったかもよく思い出せない。

時の流れは自分の貴重な女友達すら忘れさせるほど残酷なのか。

たが覚えていることもある。やたら髪が茶色いその女はいつも俺に話しかけてきては自分のペースに俺を引き摺り込んでくるような奴だった。

俺が休んだ次の日は必ず『大丈夫なの?』と聞いてくるその女

いつもやたらニコニコしていたあの女の名は確か『かおり』だったはずだ。


何故二十歳を超えて久しい俺が今更高校の思い出を懐かしんでいるのだろうか。

それにしても思い返す記憶全てがどこか美化されていて、何か尊い素晴らしいものに感じる。

おかしい、そこまで大それた事でもないのに。ただつまらない日々を送っていただけなのに。

こんなことを考えていたら。なんだかその女を、かおりを

もう一度この目で見たい。あの声に、制服が似合うその茶色い髪を。

思えば思うほどまた会いたくなる。

もうすぐお盆で帰郷の季節だ。

実家に帰った時ついでに今のその女について近所に聞けば何か情報が手に入るだろう。


もう大学生で、もうすぐ社会人なのに

今更あの頃が懐かしくなる。

ああ、またあの女と会って、あの頃の風を感じたい。

あの頃の通学路をまた歩いてみたい。きっと今もそこにはあの頃と変わらない景色があるはずだから。


今更高校時代の思い出を巡って青春を取り戻したいなんて。

もう二度とあの頃には戻れなくて

もう二度と制服をきたあの子に会うことは出来ないというのにね。

でも、それでも良い。それでもいいから少しでも、たとえ俺の青春というものが今俺が見ているだけの一瞬の幻で、本当はそんなものなど最初から無かったとしても。

俺はあの頃に戻りたい。戻った気になりたい。


あの時はそれが何か分からなかったし、間違いなく否定しただろうが、今なら分かる。

教室で腹が減ったなどと駄弁ること。

今日ほぼ寝ていないなど自慢すること。

それこそが青春の本質だったこと、そしてその俺の青春の象徴があの女だったと、

少なくとも今、おれはそう思っている


そうだ。あの頃こそが幸せで、あの子こそが俺に青春を与えたのかもしれない。

何故か分からないがそんな気がするんだ。


今更あの女に長年の月日を超えてのロマンチックな恋をしているわけでもなければ

今更高校時代までタイムスリップさせろなどとも言わない。

ただ私はこれから青春などと言う最初からないものを取り返しに行く旅に出るのだ。

何故かは分からないが今やらないともう二度とあの女に会う機会はないような気がするから。


俺は出るんだ、もう終わり。もう二度と取り戻すことのできないものを。

たとえ一時の幻だったとしても。

一夜の夢で終わったとしても取り戻すための旅に


次の日も、その次の日も学校はあったが、頭は全てあの女でいっぱいだ。


そして待ちに待った休み

俺は電車に飛び乗り故郷へ帰った


何年ぶりか、帰ってきた故郷は俺の記憶にあるよりも少しだけ変わっていた。

駅前にあった飲食店は潰れてコンビニに。

道のそばにあったアパートは更地に。

何年も前にその女と共に歩いた道も舗装されて変わり果てて。

そこらにあった電柱にそこから伸びるケーブルは全て地中に埋められ。

アスファルトの歩道は石畳になっている。

それらを見ていると、こうして少しずつ、でも着実に俺の青春の記憶を思い出す材料が消えていくようで寂しくなった。

でも遠目から見た駅やその周りの光景はまさに俺のあの頃の記憶と同じで、

そして飽きるほど見た光景なのにいつにも増して美しく見える。


これが記憶の美化なのか、それともただ天気が晴れだからか。

俺にはわからないがこれもあと十年後には無くなる光景だと思うと悲しくなってそっとスマホで写真を一枚撮っておいた。

何十年後かにこれを見て今と同じように、過去を懐かしんで一人嘆いている自分がふと思い浮かんで気分が悪くなった。


気を取り直して駅前の交差点を渡り、そばを走る車の音の間から聞こえる、こちらに向かって歩いてくる若いカップルの話し声。

『もう夏休みだね』や

『近くのスタバでも行く?』などと話をしている。


そうだ、今はお盆、夏休みか。

もう大学生の自分は、もうあの長い長い夏休みを。一ヶ月にも渡る、終わる気もしないような休みの日々を定年退職でもしない限りもう二度と味わえないのか。


それにしても最近の若者は日常的にスタバなんて行くのか?俺は今もそうだがもっぱら飲食店といえばサイゼだったのに。

とは思うが、正直俺の高校生の頃はみんなスタバに行かなかったのかというと恐らくそんなことは無い。

むしろこれが俺の頃もこれが普通だったような気さえしてくる。


美化された記憶はその当時の日常の記憶さえ変えてしまうのか?

やっぱり俺はもう青年ではないのだろうなあ。


畜生、俺は今こうして時の流れに無様に逆らってあの頃を取り戻そうとしているのに。

少しずつ、でも着実に時は流れ。俺をあの頃から引き離す。

まず記憶から、次に思考、その次は肉体と言った具合なのだろう

自分自身が俺の行こうしている道を、時の流れに沿うように引き戻してきているようで腹立たしい。


なんだよ、そんなに青春を取り戻そうとするのが悪いのか、

若返るとも、永遠の命がほしいとも言ってはない。

ただ少しでも、あのかけがえのない時間をもう一度。

あのやる事全てが初めてで、自分も周りも光に満ちていたあの時間を一瞬でも味わいたいと願っているだけだ。


まあ考えても仕方がない。

俺にはやるべきことがあり、会うべき人がいる。


俺は最近できたショッピングモールにも目もくれず。

昔バイトした経験もある居酒屋がなくなっていることにも目もくれず。

昔よく帰り道にあの女と飲み物を買っていた自販機がなかった時は、さすがに来るものがあったが。

俺は実家にたどり着いた。


俺は家の中に入って母や父と久しぶりの再会をした。

久々に見る親の顔は別に昔から何も変わりはなかった。でもまた会えたことが嬉しかった。


そしてしばらくして俺は、荷物を置いて。財布とスマホを持ち、あの女を探すため、用があると言って家を出た。


しかし、家を出たはいいが、誰になんと聞けば良いかもわからない。


ああクソ、今、何年もの時を超えてあの女は俺の好奇心と懐かしさを刺激して俺のことを焦らせる、今動かないともう二度と会えないような気にさせる。

どこにいるんだあの女は

しかし、大体の家の位置はわかる。

あの頃一緒に帰っていたからな。

あいつとよく放課後分かれていたのは、この辺だった筈だ。


そんなことを考えて歩いていると、ちょうど向こうから一人、半袖に長ズボンに高山帽の格好をした男が来ていた。

俺はとりあえず「あの、すみません、この辺りにかおり、渡辺かおりという名前の人を知りませんか?」と言うと


その口髭を生やした男は

「ああ、かおり、俺はこの辺の者じゃないからよく分からないが、かおりという女を探しているんだね?」と言った

「なんでかおりが女だと分かったんですか?」と聞くと

「そりゃ勘だよ。俺の勘はよく当たるんだ」

「まあ、私らがここで出会ったのも、私が彼女は女であると分かったのも、そういう運命だっただけだよ。そしてこれからも私たちは運命の導く通りになるだろう。」と言い


俺が「あの、貴方、運命とか出会いとか、一体貴方は私の何を知っていて。一体私の身にこれから何が起こると言うんでしょうか。」と聞くと

「ごもっともだな、でもそれが運命だよ。私は君がその女を求めていることを知る運命だっただけ、不安なのは分かるが、まあ、君は若い。まだまだ時間がある。可能性がある。例え、これから君の願いが叶わぬとも。全ては運命の導く通りになるはずだ、君はまだ絶望してはいけないよ。」


「全ての手段が尽きて、もう何をしてもそれを取り戻すことはできない。それを絶望と言うからな。」


「君に来る、本当の絶望は今ではない。それが何か、私には分からない。しかし、その時はすぐにやってくるはずだ。」

そういうと男は自分が来た方向へ指を差して、

「俺はこの辺の者じゃないからその女が何処にいるかは分からない。しかし向こうに運命の糸は伸びている。何故かは分からないが。そんな気がするのだ。さあ行け少年、俺の勘はよく当たるんだ。君とあの子の運命の糸は、たった今結ばれた」

と言った

私はただ訳もわからず、しかし知りもしないはずの事をスラスラと言い当てるこの男を、何故か信用しようという気になった。これが、運命というものなのか?

「ああ、ありがとうございました、」

と言い私は一目散にその方へ駆け出した。今すぐにでも行かなければいけない、そんな気がするからだ


そして俺が立ち去る時「もう遭うことは無いかもしれない。俺の勘はよくあたるんだ。達者でな、全ては運命の糸の通りに」

と最後にその男は呟いた。

私はもう振り返ることはしなかった。

その男がどこへ向かったのか、そんな事は分からない、俺は、ただひたすら示された方へ進んでいった。


しばらくして焦茶色の戸建てが見えてきた、

あれだ、あれに違いない。

高校であの女と出会ってから結局一度もあの女の家まで来たことはなかった。

なのになぜだろう、なぜあの家があの女の物であると確信できるんだ。

これが運命と言うものなのか?


もしかしたら昔一度きたことがあったかも知れない。

そう思い昔の記憶を思い出すが

この家の前で小さい頃遊んだ記憶、近くを通りかかった記憶。

そんなものばかり浮かんでくる。しかし俺にはわかる。

これらの記憶は全て嘘であることが。

あいつと出会ったのは高校なのに小さい頃家の前で遊んだはずがない。

間違いなくこんなことは起こっていない。


自分自身が物事を都合よく解釈して勝手に記憶を作り出している。

人は非現実的な体験をすると知っている何かで補う。

なんでかおりの家が分かるのか。

今私の脳が勝手に事実を曲げ。理由を付け加えようとしている


もはや俺の知る事実が事実であるかすらも怪しくなってくる

それを引き起こす自分の脳が憎い。


そんな便利な芸当ができるくせに、あの時、卒業日に、あいつに何も言わず、何もできずにさっさと帰ったことすら忘れさせてくれない。


しかし、忘れてしまったものは、失われたものはもう二度と戻ってこないことが俺にはよくわかる。


あの時忘れさせてくれなかったせいで、未練を残してくれたせいで

今こうして俺はその忘れられないものを取りに来ることが出来ている。


もしこれが、あらかじめ何年もの時を超えてあの女に今会いに行くように仕組んで置かれたものならそれこそ運命と言わざるおえないだろう

そして本当に運命なのなら随分ロマンチックなことをしてくれる。


分かった、覚悟は決めた。これを逃したら、もう次なんてやって来るわけがない。

何故だか知らないが、そんな気がするからだ。

今度こそ言ってやろう。あの言葉を


過去の俺の想いを、今の俺が叶えてやる。

そうすれば、昔の俺より進歩していることが証明できる。

今、俺の青春を取り戻し、更に一歩先へ。


そして俺はあの女、いや。「かおり」の家のチャイムを鳴らした。

俺は自分の運命をこの目でしっかりと見て、この体で受け止めると決めたんだ。

「かおり」

だから、君もはぐらかしたりしないで俺が、3年かけても言えなかったたった二文字の言葉を聞いてほしい。


俺と、あいつ。ある意味毒にも似たこの絆は、断ち切りたくてもそう簡単に逃れることはできない。

ならば勇気を出していっそこの流れに乗ってみよう!さあ!その扉を。叩け!開け!その先に今までの日々とは違う物が、それが望むものかは分からない。でもそこには変化があるはずだ。昔のあの日々の香りを残した。しかし新しい「変化」が!


そんな想いで私はチャイムを鳴らした。

家の壁で遮られ、こもって聞こえるチャイムの音のあと、ドアが開く音までの間を埋めていたのは、遠くではしるバイクの音と俺の心臓の音だけであった。


物音がして開かれるドア、俺を見て驚くその目。

無理もない、3年もの月日が経っているのだから。

「もしかして、藤原君?」

そうだ。懐かしいその声に髪はあの頃から何一つ変わっては無い。

しかしなんだか大人びた雰囲気を感じた

「そうだよ、久しぶりに帰ってきたらから寄ってみたんだ」

「へえーよく私の家が分かったねえ」

と積もる話もあり。俺は家に入れてもらえる事になった。

初めて入るかおりの家、そこはいい匂いに包まれて、綺麗に保たれていた。

そして

「はい、アイスティー」

と言いコースターの上に氷を入れたアイスティーを用意してくれた。


俺は、なんだか違和感に襲われた。

何かが違う。

ふと俺はかおりに「なんというか、垢抜けたね」と言った

彼女は「そうだねー、この三年間で色々変わったねえ」

この瞬間気がついた。そうだ、彼女は変わってしまったのだ。

さっきからの違和感も、彼女があの頃から変わってしまったからなんだ。


思えばそうだ。俺の知るかおりはこんな奴では無かった。

玄関にフローラルの香りのする香料なんて置くような奴でも、

俺にアイスティーなんて小洒落た飲み物を、それもコースターの上に乗せて出すような奴じゃなかった。


俺の知るかおりは3年前のかおりだ、「何か飲みたいの?ジュースでも自販機で買って来れば?」

と言って来る奴だった。

俺に対して君付けで呼ぶような奴じゃなかった。

彼女は変わってしまったのか。

あの頃のかおりはもう居ないのか。

俺は制服を着たあの子に会う事は、もう二度とできないのか。

今まで感じていた違和感が一気に全て繋がり。

「どうしたの?」

と聞く彼女を見て見ぬふりをして。俺は

「ちょっと今大事なものを探しているんだ」

と言って家から出ていった。

もはや俺は彼女が怖かった。かおりでないかおりは、一体何者なのかが分からなかったから。

だから俺は遠回りして自分の家まで逃げる事にした。

かおりに跡をつけられぬように


公園があった。

よくかおりと来ていた公園。その公園にあるベンチに俺は座った

世界は変わり月日が経ち。青春は何処やら。

この公園だけはいつまでも変わらず俺を受け入れてくれる。

憂鬱な俺はそう思って辺りを見渡した。

しかしそれは違った。

かおりとよく雑談しながら、理由なんてなく乗っていたブランコ。

それは自転車貸し出しサービスのスタンドに変わっていた。

「この世に変わらないものなんて無い」

正直公園なんてどうでも良い。しかしこの事実が突きつけられたのが辛かった。


全てが移り変わり、今見ている景色もただの一時の幻想で、ただのある晴れた日の蜃気楼なのかもしれない、

人でさえ日々変わりゆくこの世界

一体どれが本当の姿なのだろう


これがさっきのあの男の言っていた絶望なのか。


「君に来る、本当の絶望は今ではない。それが何か、私には分からない。しかし、その時はすぐにやってくるはずだ。」

それは今に違いないと思った。しかしこうとも言っていた。


「全ての手段が尽きて、もう何をしてもそれを取り戻すことはできない。それを絶望と言うからな。」

俺は考えた。俺は果たして本当に全ての手段か尽きたのか。


そして俺は気がついた。この世に変わらないものなんて無い。それは人でさえ例外はない。ならば何故俺だけが変わらずにいるか。


そして俺は気がついた。かおりがそうであるように。俺はもう、あの頃の俺ではないことを


かおりは変わってしまった、俺も気がつけば変わってしまった。ここに来た時スタバの話をしながら歩いていた男女に抱いた感情がいい例だ。


ならば何が俺を俺としているか、それは自分が自分であるという信心に他ならない。

ならば彼女だってかおりなんだ。そこにかおりであろうとする意思がある限り。


やっと決心がついた。俺にはやるべきことがある。今の俺にしか出来ないことがある。

さあ行こう。あの頃の俺はもういない。しかしあの頃の俺は無駄ではないのだ。

これからそれを示しに行くんだ。

あの頃を取り戻すんじゃない。越えるんだ。

3年前の俺になんて負けるものか


そうして俺は歩き出した、今度は過去から逃げるためじゃない、過去を取り戻す為でもない。

未来を作る為に


そして俺はかおりの家へもう一度向かった、

たったの二時間も経ってない。

またチャイムを鳴らし、出てきて驚く彼女の両肩に手を置いて俺はこう言った


「君に呼ばれる僕の名前が、僕には一番しっくり来るよ」


それから俺とかおりはお互い会わなかった三年間の話をした。三年前と同じように。

今度はしっかりアイスティーも飲み干した。


結局俺はかおりの家のチャイムを押した時言いたかったことも言えず。

多分昔の自分を超えることもできなかった。

でも今はこれでいいと思う。理想の自分が最善の自分であるとは限らないから。

ただ俺は昔の俺が今の俺を見て悲しまぬようあろうとするだけだ。

これまでも、これからも


しかし、あの男は一体なんだったのだろう。俺の考えを知っていて、道を示してくれた。

あの人は一体なんだったのだろう、誰なのだろう。もう一度会ってみたい。

何故わかったか真相を知りたい。

俺はその日の夜、俺の部屋の天井を見つめふと思った。


俺は居ても立っても居られなくなり飛び起きて外に出て探し始めた。

暗い夜中に点々と光る街灯の中、まだ蒸し暑いお盆の夜に走り回った。

その人と出会った場所も見た。

その人が去って行った方角も見た。

つい6時間前まで俺がいた公園の方も見た

そしてついに俺は地面を見てこう言った


「これが絶望の味か...」


「全ての手段が尽きて、もう何をしてもそれを取り戻すことはできない。それを絶望と言うからな。」

「君に来る、本当の絶望は今ではない。それが何か、私には分からない。しかし、その時はすぐにやってくるはずだ。」

男のセリフを俺は頭の中で何度も繰り返した。

あの男が今どこにいるのか、生きているのかさえ、あの人の名前さえ俺にはわからない。

何度繰り返し考えようとあの人の行き先は分からない

もしかしたらあの男自体俺の思い込みで、本当はあの会話なんて無かったのかもしれない。

俺の脳が勝手に作り出した記憶なのかも知れない。

あったか無かったすら分からない。しかし俺の「記憶」の中では確かにあった筈のこと



「あの頃」と同じように


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