笑顔ください

ReMiRiA

笑顔ください

「笑顔lください」

俺は唐突にそう言われた。

高校生の俺はあるハンバーガーチェーン店でバイトをしていた。

そうして、注文で並んでいた女子にそう言われたのだ。

ふざけなのかはたまた本気で言ってるのか。前者なら迷惑で後者ならヤバイ人だ。

その時、俺は閃いた。「ハッピーセット」を注文したいのだろう、と。

高校の制服を着ているし素直に頼むのが恥ずかしかったのだろう。

だったら仕方がない。俺はそう思って

「ハッピーセット1つですね」

そう小さな声で言ったのに_相手はキョトンした表情を浮かべた。

「え、違いますよ?」

「違うって_笑顔くださいってそういう意味じゃ_」

ないのか?そう疑問に思っていると奥でバイトの先輩が早くしろ。と言ってきたので

取り敢えず訳ありな彼女を列から外させ溜まった列の処理を始めた。

幸いにも横が空いていた(俺が無駄に溜めていた)のもあって早く済んだ。

そうして人が少なくなった頃、退屈そうにしている彼女に声を掛けた。

「お客様、それで先ほどの件ですが_」

俺はそう促すと彼女は明らかに不満そうな顔を浮かべて

「客の注文に応えるのが店員じゃないの?」

と端から見れば真っ当な(状況による)質問に俺は思わず怖気付いた。

もし、此処で下手な受け答えをしてクレームが行けば俺は容赦なく切られるだろう。

そうなると少し不味くない。俺の高校生活に関わる大事になってしまう。

それだけは、何としても回避しなければ。そう考えると

「お客様、その_失礼なのですが。具体的な注文を_」

「だから、笑顔くださいって言ってるでしょ?」

だから、その「笑顔」は何なんだよ!と突っ込みたくなるが落ち着くんだ、俺。

「笑顔というのは_その_注文内容なのですよね?」

「そうだけど?」

「その_分からなくて。本当に申し訳ございません」

そういうと彼女は呆れたように

「そんなことも知らないなんてどうやって生きるるつもりなの?」

と言うや否や俺の顔に手を当てて口角を上げさせられた。

「はい、笑顔。覚えた?これが笑顔っていうの。覚えてね、翔也くん」

「え、そういうこと??」

思わず本音が出てしまった。ってちょっと待て。

「何で俺の名前を_」

名前札には名字である「水谷」の文字はあるが名前は載っていない。

彼女はどうやって俺の名前を知ったのか_?いや、待て。

「その制服、東日向高校_?」

今更?と呆れたような顔をする彼女に俺は何も言い返せなかった。


店長に休憩に入ると言って俺は彼女と対面していた。

同じ高校の女子と_違うな。同じ学校の女子と喋るなんて何年振りなのだろう。

俺はコミュ障&家庭の事情で殆ど女子とは喋る機会がなかった。

そんなんで恋愛は出来ないだろ、ってツッコミが入るが俺は別に気にしなかった。

「それにしても、私を知らないことにすら驚いたけどね」

「_あんまり、同じクラスの奴とも会話しないんだ。別に清水さんだけって訳じゃ」

「だと思う。だって、営業スマイル死んでるんだもん」

「それは店長からも小言のように言われる」

俺の家庭は父子家庭で母は俺の小さい頃に別の男と浮気して蒸発した。

小学校の時にはそのことで虐めの標的に遭って人間不信にもなったりした。

そんなことが起きてからと言うもの、中学校に入っても

元々のコミュ障に加えて若干の人間不信で人とは殆ど喋らない日が続いた。

別に俺自身、何とも思っていなかったのも若干の悪さをしていたが。

「別に君の事情を知りたい訳じゃないんだけどね」

「そう、なんだ。じゃあ、俺。バイトに戻るから」

彼女の時間を間接的に奪うのも癪だし、そう思って立ち上がろうとし_

「まだ話、終わってないんだけど」

そう引き止められた。

「すまん、もう話が終わったかと勘違いした」

「はぁ_。本題にも入ってないんだけどね」

「そうだったのか。手短に頼むよ」

「私は同じ学年の殆ど男子から告白されたの。それくらい人気があるのよ」

「まぁ、それはそうかもね。俺でさえ噂で聞くくらいだし」

モデルをやっておきながら成績優秀、運動も出来ると神から愛された彼女は

当然ながら色々な男子から告白されては断っているらしい。

それで満足すれば良いものを彼女は「完璧」を求めているようだった。

「同じ学年の男子はあなた以外、私に告白したわ」

「全員、断ってるらしいしね。結構な良物件も居るのに理想が高いことだ」

「あなたは告白しないの?私に」

蠱惑的な表情を浮かべた彼女に対して俺は_。

「しない。というか興味すらなかった。話的にそれが本題だろうし、じゃ」

と即答し俺は席を立った。あぁいう良い意味で次元の違う人と会話は無理だ。

清水さんも俺の意見を聞いたことだし満足しただろう。


そう思っていた。だが_彼女はそれでは満足しなかったらしい。


「告白ください」

次の日の同じ時間帯に彼女はまたやってきた。今日は休みなのもあって

服装が違っていた。まぁ、人目を気にしているのもあって変装していたが。

「何でまた来たんだ?」

「あなたの告白を貰ってないからよ」

「言っただろう。俺はお前に興味はないんだ。それで満足してくれるか?」

「満足してたら来ないと思うのだけど」

「残念だが俺は高次元の人と会話する気はないんだ。次の方、注文をどうぞ」

そうして彼女を軽くあしらって後ろに並ぶ客の処理を始めた。


「告白ください」

また彼女は来た。それも同じ時間帯に。

「懲りないな、お前。そろそろ諦め時だと思うんだけど」

「それはあなたの告白を聞いてからよ」

「好きです、付き合ってくれ。ほら、これで俺の告白は聞けただろ」

「そんな適当な告白を聞けて満足すると思う?」

「さぁ?あ、次の方。注文をどうぞ」

俺は何度来ても無駄だ。という視線を送ってやった。流石に懲りただろう。


「告白ください」

訂正。彼女は懲りなかった。

「辞め時を見失ったなら此処で降りても俺は咎めないぞ」

「諦める訳ないでしょう?私はあなたの真面目な告白を受けるまで諦めないわよ」

「考えてみろ、好きな奴に告白ってするんだぞ?」

「えぇ、そうね」

「好きでもない、ましてや興味のない奴に告白はしない。次の方、注文をどうぞ」

彼女が何度来ても時間の無駄だし結果は同じなんだけどな。


「ポテトください」

俺は思わず耳を疑った。彼女は告白ではなくポテトを求めた。

「サイズは?」

「Mで。飲み物は要りません」

そうして会計を済ませるとさっさと行ってしまった。

俺は彼女がようやく諦めてくれたと溜息を溢す傍で何処か納得しない自分も居た。

そんな気持ちに気付かないフリをして俺は普段のように頭を下げたのだった。


それから彼女は俺の前にも、あの店にも来なくなった。

彼女の真意は_何処にあったのだろう?

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