【終】

 一人の男が、ある日突然死んだという。なんの前触れもなく、大きな病気もしていなく、突然過ぎて死因がわからない程であった。それはもちろん、事件を疑われていた、が。おかしなことに、その体には何かしらの痣や跡もなく、顔も穏やかで、殺されたような形跡はどこにもないのだそう。

 遺体を解剖してみると、その体の中から、その人とは違う、骨が出てきたそうな。小さな骨はわざと呑んでいたのではないだろうかという話が出ているが、実際はわからない。直接的な死因は、その骨が、喉に詰まって窒息死、だそうで。

 その骨をDNA鑑定に出してみれば、その人は、七週間前に死んだ、その男の妻だったらしい。一体どういう経緯でそんなことになっていたのか検討もつかないが、きっと、外の人間からはわからない何ががあったのだろう。

 もしかしたら、あの世で添い遂げることができたのかもしれない。残されず、二人で、一緒に。この世で二度と会えない苦しみは、そう耐えられるものではないと、想像に難くない。別れを知らぬまま、ずっと一緒にいられるのなら、それは案外幸せな結末なのではないだろうか。

______.。*。._____

 目の前に、妻がいる。それも、夢でも何でもなく、本物の、だ。手を握り合っている。

 あなた、本当にやり過ぎなんですよ、あんなことをされたら一人で逝く事なんてできやしないに決まっているではないですか。そう腕で小突かれる。あぁ、そうだよな、ごめん、なんて思ってもいない謝罪を口に出して、反省してるふうにしてみせる。

 妻はもとからそれに気づいていたのか、声をだしてケラケラと笑って、まぁ、いいですよ、なんて言う。やっぱり愛おしくて仕方がなくなってしまって、温かい体温を持つ体をぎゅうぎゅうに抱きしめた。

 愛おしいあなたが目の前にいることが、一体どれだけ幸せなことなのか。笑い合えることが、一体どれだけ。

 これでずっと一緒だな、囁いて、ですね、もう逃げられなくなってしまいました。とふざけたように言われる。そりゃあ、もう逃がす気なんてないさ。言葉とは裏腹に、にんまりとしたその顔に、俺も思わず笑ってしまう。


なぁ。

なんでしょう。

俺はあなたを愛しているよ。

ふふ、私もですよ。


 もう何度目かもわからないその言葉の応酬に、ゆらゆらと心が溶けていく。目の前で、何度でも待ち望んだあなたが、幸せそうに、笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢見骨 うみつき @160160_umitsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画