ズレる配役 三話
日も沈みかけた夕暮れ。
女は席に座り、眠気に耐えながら電車に揺られていた。
頭に浮かぶのは、先程まで検査をしてくれた担当医の言葉。
(詳しい検査結果がわかるまで、自宅で安静に……ね)
頭に原因のわからない痛みが出ている以上、医者もなにが起こるのか、予想できないそうだ。
(私もまだ両親に負担をかけてしまうのね……)
自分は怪我が治って日常に戻ることで、両親の心労を少しは減らせたと思っていた。
しかし、これでは……と、茜色の町並みが流れていく窓の外を見つめる。
(両親になんと伝えれば一番心配をかけないですむか)と頭を悩ませていると、電車の揺れと精神的な疲労からか、女は気づかぬ内に眠りへ落ちていた。
女は夢を見る。
私は駅のホームで人混みの中にいた。
近くの高校の制服を着た学生やスーツを着た会社員たちの群れに運ばれ、階段まで流されていく。
そのまま流れに逆らわず、階段を下る。
中腹まで進み、背後から聞こえた物音と小さな悲鳴。
そして、私のすぐ横を、サラリーマンが追い越し、転がり落ちる。
落ちていくサラリーマンと、目が合う。
階段にいる多くの人を巻き込んで、転がり落ちていく。
階段を震わす悲鳴が響いた。
電車が止まる際の大きな揺れと、頭を蝕む痛みで、女の意識は強制的に引き上げられた。
女が目を覚ますと、電車内は学生や社会人で溢れている。
特に学生が多く、部活帰りの高校生が目についた。
夢でも見た、近所の高校。
その制服を着た学生たち。
痛みの変わらない頭を押さえ顔をしかめていると、電車は動きを止め、ドアが開いた。
そこは、いつも女が利用する駅。
痛みでふらつく足取りで席を立ち、人の流れに身を任せて電車を降りた。
夢と同じように人混みに流されていく。
下りの階段が見えてきた頃。
(この人……‼)
夢で目の合ったサラリーマンが、女の前を歩いていた。
(夢で階段から転がり落ちた人だわ‼ もしかして夢の通りのことがこれから起こるの⁉)
痛みを抱えた女に緊張が走る。
(もしそうなら……)
夢の中では多くの人が、サラリーマンの転落に巻き込まれていた。
不条理に巻き込まれる事故。
その苦しみを、悔しさを、女はよく知っていた。
今から目の前でそんな理不尽な出来事が起こるかもしれない。
しかし、その根拠は自身が見た夢だけだった。
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