足を引っ張る 六話
男は、携帯電話の光に照らされた、山を見上げる。
この部屋には他に、なにも見当たらなかった。
(この部屋の手がかりは、あの山しかなさそうだ)
自身を苦しめ、弄び、こんな場所に連れてきた存在に、屈しない覚悟を決め、山へと近づいた。
一歩一歩警戒し、油断せずに進んでいく。
光に照らされ、山の様子が見えて来る。
棒状のものが、重なり、積み上げられているのがわかった。
山の高さによって積まれている『もの』の大きさや形が違っているようだ。
携帯電話を持ち直し、更に山へと近づく。
すると山の中から、威嚇するような唸り声がはっきりと聞こえた。
威嚇を全身に浴び、男の体は硬直し、動かない。
瞬きもできない男の瞳に、山の詳細が飛び込んできた。
積み上げられていたのは、さまざまな脚。
土台には椅子や机といった無機物の脚。
その上に鳥や小さな動物の細かい脚が、男の目線まで積まれていた。
男は呼吸も忘れ、視線を上に滑らせる。
積まれた脚は徐々に大きさを増していった。
犬や猫、ほかにも男にはわからない動物たちの脚が組み合い、山を高くしている。
山の頂上が見える。
そこには、男もよく知る、脚が積み重なっていた。
大人も、子供も、おそらく、性別もさまざまな人間の脚だ。
男が呆然と見上げていると、山から聞こえる威嚇の唸り声が、殺意の咆哮へと変化した。
山から伸びてきた触手のようなものが、男の携帯電話を破壊した。
触手の力は異常に強く、男の手も携帯電話と共に砕かれる。
男が潰れた手の痛みを認識するより速く、男の腰と左脚になにかが巻き付いた。
部屋は再び漆黒に染まり、男の体は、くの字に曲げられ、宙に連れられる。
男の腰と左脚が、空中でそれぞれ、反する方向に回転する。
男が抵抗する間もなく、巻き付いた『なにか』は、男の左脚を股関節から捻り抜
いき、そのまま『脚の山』に新たに重ねた。
その後も男への蹂躙は止まらず、左脚を失った男を床へ、壁へ、天井へ叩きつける。
男の体を潰すように、血液を絞り出すように。
一滴も無駄にせず、『脚の山』を赤く染めた。
『求めるものを
赤く染め
黒に至れば
闇に溶け込み
次の扉が開かれる』
『脚の山』に潜む『なにか』は、扉が開くのを待ち続けた。
『本日未明、駅前広場にて、身元不明の変死体が発見された。遺体は体を強く叩きつけられており、以前同じ場所で発見された、同じ様相の変死体と、どのような関連があるのか捜査が続いている』
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