僕と彼とカレンダーの印 後編
今日の彼は、普段しない反応をした。
今日の彼は、僕のことを「きみ」彼自身のことを「ぼく」と呼んだ。
そして、今、部屋にかけられているカレンダー。
今日の日付に、待ち合わせの印がなにも書かれていない、大きなカレンダー。
彼が僕との待ち合わせの日に、印をつけないなんて考えられない。
そこまで気づくと、これまでとは別の不安が、僕の体を駆け巡った。
以前この場所で、彼から貰った感謝のつぶやきを思い出し、ゆっくりと振り返る。
そこには、透明な瓶を持った彼。
彼の持つ瓶には、瓶の半分ほどまでミミズのようなものが詰まっていた。
彼はゆらゆらと体を揺らし、生気の感じない眼を僕に向けている。
僕の記憶にある、少し素直じゃなくて照れ屋な彼とは、全くの別人に見えた。
僕が動揺していると、彼は瓶のフタを開け、中身を全て僕に投げつけた。
ミミズのようなものは体長が10センチほどで、僕に当たると、素早く動き、服の下に潜り込んでくる。
悲鳴を上げる暇もなく、数十匹のミミズに襲われ、服で外から見えない部分を、突き刺された。
貫かれたような痛みと熱さ、そして体内に侵入してくるおぞましい感覚。
頭を目指しているのか、皮膚の下を這いずり進んでくるのがわかる。
僕は気づけば体に力が入らず、床に倒れていた。
いつの間にか痛みも感じなくなっている。
唯一動いた、目だけを動かし、彼を見上げた。
彼はおぼつかない足取りで、ふらつきながら手に持った空の瓶を床に置いた。
そして、彼の体は支えを失ったように、崩れ落ちる。
崩れた彼の体から皮膚を突き破り、大小無数のミミズのようなものが這い出てきた。
そのミミズたちは意思を持つのか、空の瓶に殺到する。
空だった瓶がミミズたちで、満杯になった。
それが、僕が見た最後の光景。
見えず、聞こえず、話せず、体の痛みも感じず。
それでも僕の意識は残っていた。
僕にわかるのは、自分の意志とは無関係に動く体の感覚と、肌の内側に触れるミミズの蠢きだけ。
どれだけの時間が経ったのか、僕の中でミミズが増えていき、僕の体には肉も骨も残って無いようだ。
動くたびミミズたちに支えられ、ゆらゆらと揺れる体。
皮膚の下はミミズたちが詰まっていて、ぶよぶよとしていた。
皮膚の触覚は残っているので、今にも内側から弾け飛びそうなのがわかる。
とうとうミミズたちは、僕という皮を食い破って出て行った。
体の支えを失い、僕は崩れ落ちる。
あのときの彼も今の僕と同じだったのだろうか。
もしそうなら、あのとき腕を掴んだのが僕だと彼は気づいただろうか。
そんなことを思い浮かべ、僕の意識は途絶えた。
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