第8話 ギルド創設
「ルシファーさん、やり過ぎですよ・・・。」
顔面がボコボコになって気を失っている、かつてのギルドメンバーの3人を見下しながら、アリアがつぶやく。
「いや、どうしても、この連中だけは許せなくてな・・・。勝手にこんなことをして、ごめん。」
最初は「アリアのため」と思っての言動だったが、結局最後は怒りの感情に任せただけになってしまった。むしろ今、アリアが不快な気持ちになっているかもしれない。俺は非常に申し訳なくなり、深々と頭を下げた。
「・・・確かに、最初は驚きましたが、ルシファーさんのおかげで、とてもスッキリしました!ありがとうございます!改めて、これからよろしくお願いします!」
「ちょっ!!」
アリアは欣喜雀躍し、可憐な笑顔を見せながら、俺に思いっきり抱きついてきた。予想よりも強い力で抱き締められ、少し苦しかったが、アリアの目には光るものがあり、しばらくはそのままにしておくことにした。
「あの、ルシファーさん。」
「あっ、すみません・・・。」
クソギルド連中とアリアに集中しすぎて、ノエルの存在をすっかり忘れていた。
「今回の件って、何かしらの罰則がありますか・・・?」
気絶している3人に視線を向けながら、ノエルに恐る恐る聞いてみた。
「基本的に、ハンターズユニオンはハンター同士による私闘には介入しませんので、大丈夫ですよ。ただ、私闘によってハンターズユニオンの施設・備品などに損害が出た場合や、私闘をしている以外のハンターまたは、その他無関係者に被害が出た場合は損害賠償が要求されますので、ご注意ください。」
「わ、分かりました・・・。」
ノエルの口調は丁寧だが、暗に「今回は損害が出てないから大目に見るけど、次からは気をつけろよ。」と言われているようで、少し萎縮してしまった。だって、目の奥が笑ってないんだもん!!
「しかし、私もスッキリしました!前々から、あのギルドマスターの態度は気に食わなかったんですよ!ルシファーさん、ありがとうございます!」
厳しい態度から一転、ノエルはスカッとしたような表情を浮かべ、俺に感謝を伝えた。仕事上の建前と、プライベートの本音をうまく使い分けているようだ。ノエル、おそるべし・・・。
「でも、ルシファーさんが手加減してなかったら、そこの3人即死でしたね。」
「えっ、そうなんですか!?」
確かに、「こいつらをボコボコにしてやろう」と思って対峙したときから、体の奥底から力が漲っているのが分かった。ノエルは、その原因を知っているかのような口ぶりだ。
「そりゃ、そうですよ!HRが高ければ高いほど、身体能力が強化されるんですから!純粋なタイマンだったら、ルシファーさんが世界最強ですからね!」
「な、なるほど・・・、そうだったんですね・・・。」
ゲームのときであれば、HRは一つのステータスで、プレイヤーの身体能力に何の影響も及ぼさなかったが、この世界ではHRに応じて、筋力・体力・動体視力などの様々な能力が向上するらしい。ちなみに、具体的な数値までは守秘義務のため教えてくれなかったが、ノエル曰く、気絶している男3人のHRは全員、俺の3分の1以下らしい。
・・・HR999まで上げといて良かった!
「あっ、それで、ルシファーさん、何か言いかけていましたよね?」
「あっ、それなんですが・・・・・・・・・アリアさん、そろそろ離れてくれませんかね?」
余程嬉しかったのか、アリアは未だ、俺の上半身に抱きついている。「彼女いない歴=年齢」で童貞の俺には、このシチュエーションは心臓に悪い。もちろん、10個以上も下の美少女に惚れることなどはないが。
「えぇー、ルシファーさんの意地悪・・・・・・。」
「いや、意地悪とかの話じゃないだろ。それに、むやみやたらに男に抱きつくなよ。世の中には、コイツらみたいなクソ男もいるんだから。」
「それって、ルシファーさんになら、抱きついてもいいってこと?」
「ん、話聞いてた?」
小悪魔のような笑みを浮かべるアリアに、内心「可愛いな、クソ!」と思いながら、人との距離感について教えることにした。
「俺も含めて、軽はずみに抱きつくなってこと。アリアが今後の人生で、心の底から好きなった人に抱きつくために、こんなところで無駄撃ちしている場合じゃないだろ?もっと自分を大事にしろよ。分かったか?」
「・・・・・・べ、別に、ルシファーさんだから、抱きついただけだし・・・・・・。」
「えっ、何、小さくて聞こえないんだけど?」
突然、アリアが小声になったため、全然聞き取れなくなった。いや、急に囁き声になるって、どういうこと?囁き女将にでもなっちゃったの?今、記者会見中?
「分かりましたよ!!」
「うわっ、ビックリした!」
・・・え、何、急に音量調整バグりました?
全然意味が分からないが、抱きつくのをやめたアリアが少し拗ねているので、ここはそっとしておこう。「触らぬ神に祟りなし」だ。
「はぁ・・・・・・。イチャつきは終わりましたか?」
「いや、全然イチャついてませんけど!?」
ノエルは、艶のある髪を指でクルクルと巻きながら、呆れた口調で俺に話しかけた。俺は、ロリコンなどでは決してない。そこだけは絶対に譲らん!
「それで、結局要件は何ですか?」
「ギルド創設の申請をしたいんですが・・・。」
こうして、俺は「第二の人生」でソロプレイヤーをついに引退し、初めてギルドをつくった。クソギルドの連中によって、アリアの除籍はすでに受理されていたため、スムーズにギルドメンバーに加えることができた。ギルド創設後は、ステータスのところに「ギルド」という欄が追加され、ギルドメンバーのステータス(HPやSTなど)やHRなどを見ることができた。
・・・アリアのHRは、まだ158なのか。まぁ、ここから狩猟難度Aのクリーチャーを2人で狩っていけば、どんどん上がっていくだろう。
ソロプレイヤーではなく、ギルドに所属しているプレイヤーの場合、複数人でクエストを受けることが可能である。そして、クエストに行くプレイヤー数の過半数が、そのクエストのHR制限の数値を上回っていれば、問題なく受理される。例えば、狩猟難度Aのクリーチャーを狩猟するクエストは、HR500以上という制限がある。このクエストに3人のプレイヤーが挑戦するとなった場合、3人それぞれのHRが600・500・400であればクエストが受理され、狩猟に行ける。しかし、HRが500・400・300であればクエストに挑戦することはできない。
ただし、上記には例外が一つだけあり、それはギルドマスターがそのクエストに参加する場合だ。具体的には、ギルドマスターのHRが、そのクエストのHR制限の数値を上回っていれば、たとえ過半数がHR制限をクリアできていなくても、クエストが受理される。つまり、俺がクエストに参加する限り、俺のギルドメンバーはあらゆるクエストに参加できるのだ。もちろん、他のメンバーがやられてしまうことで、クエストに失敗する可能性も十分ある。アリアが前線に立つことはほとんどないとはいえ、狩猟難度S以上のクエストは、もしものことを考え、アリアのHRが500を超えてからにしよう。
10分ぐらいで、ノエルからギルドに関する簡潔な説明が終わった。こういう仕事にも慣れているのだろう、ノエルの話は非常に分かりやすく、ギルド初心者の俺でもスッと理解することができた。もちろん9割以上は、ゲームの知識で知っていたが。
「それでは、最後にギルド名はどうされますか?」
「ギルド名か・・・・・・。アリアは何か付けたい名前はあるか?」
「ルシファーさんが付ける名前が、私が付けたい名前です。」
「マジかよ・・・。」
アリアはずっと目を輝かせている。恐らく、俺のギルド名に大きく期待しているのだろう。しかしながら、俺は名前を付けることが得意ではない。プレイヤー名の「ルシファー」も、「カッコイイ名前 悪魔」と検索して出てきたものを、直感で選んで付けたのだ。
・・・ゲームのときに、よくランキング上位に食い込んでいたギルド名は、確か・・・・・・。
俺は、うろ覚えの記憶を辿り、毎月公表されたギルドランキングを想起した。その際、ギルド名は「蒼天の帝国」や「紅蓮の大地」など、「○○の○○」という形式が多かった。やはり、それに倣うのが一般的だろう。
「そうですね・・・。では・・・「開闢の天魔」でお願いします。」
我ながら厨二病感溢れる名前だが、「ルシファー」という大悪魔がギルドマスターなのだ、これぐらいの方が逆にしっくりくる。
「はい、「開闢の天魔」ですね!登録しておきます!なかなか良い名前だと思いますよ!」
「ルシファーさん、さすがです!!」
・・・やめて、そんなに言わないで!!恥ずかしくなるから!!
自分で付けておきながら、こんなことを思うのもおかしいが、厨二病くさい名前を褒められるのは、妙にむずがゆいのだ。俺は、「誰からも理解されない、自分だけがその良さを分かる」というのが、厨二病っぽい名前の醍醐味だと考えているため、ストレートに賞賛されるのは非常に反応に困ってしまう・・・。
「では、これでギルド創設の申請は終わりになります!・・・でも、ルシファーさんが、早速ギルドをつくるとは思わなかったですよ・・・。」
「俺自身もビックリです・・・。宿舎って、どうなりますか?」
「途中でギルドに加入した場合でも満期までは住むことはできますので、ご安心を!」
「それは良かったです!」
・・・これですぐに退出とかだったら、無駄金もいいところだ。とりあえず、一安心。
クエスト達成報告、報酬受取、ギルド創設の申請とやること全てが終了したため、俺とアリアはひとまずハンターズユニオンから出ることにした。時刻を見ると、ちょうど17時を過ぎたところだった。
「さてと、明日はギルドフォームを探しに行かないとな。」
「楽しみですね!」
ギルドフォームとは、各ギルドの拠点のことである。ノエルの説明にもあったが、ゲームと同様、ギルドフォームにできる建物は各大陸に転がっており、まだどこのギルドにも属していない建物を見つけるところから始めなければいけない。そして、拠点にしたい物件をハンターズユニオンに申請すれば、ギルドフォームとして使用できるという仕組みだ。
「前のギルドのギルドフォームはどんな感じだったんだ?」
「・・・・・・。」
俺の質問を聞くや否や、アリアは俯いた。そして、唇を強く噛み締めた。非常に屈辱的な思いをしたのだろう。悔しさが表情に滲み出ている。
「私は追い出されていたので、ギルドフォームの中についてはあまり知らないんです・・・。」
「えっ!?」
「あのギルドの人たちは、お金を節約するために、小規模のギルドフォームを購入したんです。なので、後から加入した私の部屋は当然ありませんでした。それに、寛ぐスペースを確保したいからといって、建物の中にすら入れてくれませんでした。結果、最初は安い宿屋で寝泊まりしてましたが、所持金も少なくなってきたので、ここ最近はずっと野宿でした・・・。」
「よし、あと100発は殴りに行かないとな。」
「ちょっ、ルシファーさん、やめてください!本当に死んじゃいますよ!!」
ハンターズユニオンに戻ろうとする俺を、アリアが必死で食い止める。
「ルシファーさんの気持ちはすごく嬉しいので!その気持ちだけで十分ですから!」
「・・・・・・・まぁ、アリアがそこまで言うなら・・・。」
俺は渋々了承したが、もし次に顔を合わせたら、半分の50発はぶん殴ってやろうと考えた。
「私は、ルシファーさんと一緒に暮らせるギルドフォームを、最初で最後にしたいと思ってますから!」
「俺もそのつもりだよ。頑張って、良い物件を見つけようか。」
「はい!」
俺は、ギルドフォームを見つけること自体も初めてなので、とてもワクワクしている。
「それじゃあ、今夜のアリアの宿代を渡しておくよ。」
「えっ!?」
俺は慣れた手つきで、アイテムボックスからお金を取り出し、そのままアリアに手渡した。
「ちょっ、ルシファーさん!?こんなに要らないですよ!」
「これまで野宿で大変だったんだから、今日はこのお金でめちゃくちゃ豪華な宿に泊まってこい。俺のギルドに入ってくれたお礼と思って、遠慮せずに受け取ってくれ。」
「うぅぅ・・・・・・。あ、ありがとう・・・ご、ございます・・・。」
アリアは大粒の涙を流しながら、俺に抱きついてきた。やはり色々と我慢してきたのだろう。
・・・何としてでも、アリアに良い暮らしを提供しないとな。
その後、泣き止んだアリアを街まで見送り、俺は宿舎に帰った。明日、ギルドフォームを見つける予定なので、実質的にこの宿舎で寝るのも最初で最後というわけだ。
・・・さてと、さっさと夕食を食べて寝ますか。
奇妙な転生?転移?から半日経ったが、色々と緊張していたこともあり、どっと疲れが押し寄せてきた。俺は街中のビストロで夕食を済ませ、21時頃には就寝した。
世界最高のソロプレイヤー、最強ギルドを結成する あっつー @fantastic4
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