第7話 謝罪
その後、無事に解体が終わり、『アルマフェルゼン』の素材を俺のアイテムボックスに入れた。アリアに聞くと、ハンターズユニオンの受付で、狩猟対象の異なる部位の素材を3つ提出すれば、クエストクリアとなるらしい。そして、その場で報酬金が渡され、各ギルドで提出しなかった素材と報酬金を自由に配分するそうだ。ゲームであれば、自動で均等配分だったが、この世界ではギルドマスターが配分権を握っているようだ。
・・・悪質なギルドに入ると、本当にヤバイな。アリアと早く出会えて良かった。
アリアに色々とこの世界のことを聞きながら、俺たちはハンターズユニオンに到着した。道中、俺の無知さにアリアは驚いていたが、「ちょっと記憶喪失になっちゃって・・・。」と言えば、信用してくれた。うん、ちょろすぎないか、アリアさん。
「あっ、ルシファーさん、お帰りなさい!やっぱり早かったですね!」
ハンターズユニオンの中に入り、俺は一直線にノエルのいる受付に向かった。
「余裕でしたね。これ、『アルマフェルゼン』の素材です。」
俺は、アリアが解体してくれた素材を3つ、アイテムボックスから取り出し、受付台にドンッと置いた。
「はい、確かに『アルマフェルゼン』の堅殻・上鱗・鋭爪を受け取りました!こちら、報酬金の1万yです!」
ノエルは俺が提出した素材をすぐに鑑定し、報酬金1万yを手渡した。当然だが、めちゃくちゃ慣れているのだろう、全く無駄のない動きだった・・・。
「それにしても、とても綺麗な解体ですね!さすが、ルシファーさん!」
「えっ!?俺は、解体なんてできないですよ?」
「またまたまた~!!解体できない人が、1人でクエストに行くわけないじゃないですか!最近は、ハンターでも解体ができる人が増えてきたって聞きますよ!解体者と狩猟者の垣根も、そのうちなくなるかもしれませんね。」
ノエルは俺が自分で狩猟も解体もできると判断し、クエストを受理したようだ。今も、俺の発言が小粋なジョークだと勘違いしている。
・・・マジであぶねぇ・・・。もし、アリアに会ってなかったら、『アルマフェルゼン』を討伐できても、素材を回収できずに、クエスト失敗だったかもな・・・。
「『アルマフェルゼン』の解体は、このアリアがしてくれたんですよ。」
俺の横で、「とても綺麗な解体」と言われて少し照れているアリアを紹介した。解体者になるための専門学校を卒業し、自立しているとはいえ、まだ15歳だ。このあたりは、年相応なのかもしれない。
「えっ、この可愛らしい女の子がですか!?私てっきり、ルシファーさんが地底洞窟で誘拐してきたのかと・・・。」
「おっと、ノエルさん、喧嘩売ってます?喜んで買いますよ?」
ノエルの冗談(?)はさておき、アリアの解体者としての腕は本物なのだろう。実際、俺も解体後の素材を見たとき、ゲームとそっくりだと思った。これは、めちゃくちゃ良い人材をゲットできたのかもしれない。
「あっ、そういえば、ノエルさんにお願いがありまして。ギルドの・・・」
「あれ~~、アリアじゃねーか。お前、あの状況でよく生きたなぁ!」
俺がギルド申請をしようと思った矢先、背後から酒臭い連中が近づいてきた。昼間から酒を飲むのは個人の自由だが、変に絡むのはやめてほしい。というわけで、普段(社会人)の俺ならここは、適当に誤魔化してさっさと退散するのだが、今回ばかりは絶対にそうしない。
俺はゆっくりと振り返り、絡んできた連中の顔をじっと観察した。肥満体型の男性A、痩身の男性B、がっしりした体格の良い男性Cが横一列に並んでおり、全員見た目は30代後半ぐらいだ。装備的に「中堅ハンター」といったところか。
「お前がこの女を助けたのか。ったく、ハンターが人助けとか、ご苦労なこった!」
恐らく、この3人の中のリーダーなのだろう。最も装備がしっかりとした男性Cが俺に話しかけてきた。だが、俺はコイツの言葉に返答する前に、一つ確認をしておかなければいけないことがある。
「アリア、こいつらが言っていた連中か?」
一切振り返ることなく、唇を強く噛み締め、悔しさを滲ませているアリアは、俺の囁きにゆっくりと頷いた。
「そうか、分かった。」
「おい、無視するとは良い度胸だな~!お前、俺のこと舐めてんのか?」
男性Cは、グイッと俺に近づき、ガンを飛ばしてきた。残りの男性Aと男性Bも囃し立てている。本当に面倒くさい奴等だ。
「舐めてはいませんが、あなたたち全員、アリアに謝ってもらえますか?」
「あぁ?何で俺たちが、このガキに謝るんだよ?」
「過酷な労働を強いたあげく、報酬金もほとんど支払わない。明らかな搾取行為です。それに、彼女を危険な状態で、地底洞窟に置き去りにしましたよね?私がいなければ、確実に彼女は死んでいましたよ?だから、彼女に心の底から謝ってください。」
そもそも、こいつらの行為はギルドとして破綻している。そのような制度はないが、ギルドの永久解散とかになってほしい。
「ハッ!それがどうしたっていうんだ?」
・・・あ、ダメだコイツ。会話できねぇわ。
「お前もハンターなら分かってるんだろ?解体者ってのは、ハンターが狩った後のクリーチャーをただただ解体し、素材を手に入れる、めちゃくちゃ安全で楽な仕事なんだぜ?なのに、十分な報酬を渡す方が狂ってるだろ。」
「・・・・・・。」
「それに、専門学校を卒業したばかりの解体経験の浅いガキを、わざわざ俺たちのギルドに入れてやったんだ!むしろ、感謝してもらいたいくらいだぜ!」
「・・・・・・。」
「本来は、親や知り合いの伝手を頼って、どこかのギルドに所属し、解体経験を積むのが一般的だろ?だが、このガキは孤児だ。そんなのが一切ない。だから、俺たちが拾ってやったんだ。なのに、1日たったの数十体解体したぐらいで、まだまだ経験の浅いガキが一丁前に文句を言いやがる。」
「・・・・・・。」
「このガキには言ってなかったが、もともと、俺たちが欲しかった素材を手に入れるまでの期間限定で、ギルドに入れたんだ。たったの数日で使い物にならなくなった解体者なんて、とっとと死んだ方がマシだろう?まぁ、ついさっき、このガキをギルドから除籍したからな。たとえ、生きていようが、このガキをギルドに入れるバカな奴なんているわけがない!どのみち、飢え死にするだけだな!」
男性Cはよく回る舌で、ベラベラベラベラと好き放題喋り出した。取り巻きの男性Aと男性Bも、ずっと賛同し、深く頷いている。一方、俺は、一切口を挟まず、恐らくギルドマスターである男性Cの語りを聞いた。先程号泣したこともあり、涙こそ流してはいないが、アリアは怒り・憎しみ・悲しみ・悔しさなどが入り混じった表情を浮かべている。両手の握り拳にも、かなり力が入っているようだ。
・・・良かった、こいつらが根っからのクズ野郎で。これで心置きなく、ボコボコにできるわ。
「お前ら、マジでクソだな。ハンター失格だわ、さっさと辞めちまえよ。」
「あ゛ぁ゛???お前、やっぱり舐めてんのだろ!!後悔しても遅ぇからな!!」
俺の挑発にまんまと乗り、激昂した男性Cが俺に殴りかかってきた。しかし、俺は余裕でその拳をキャッチし、続けざまに繰り出された膝蹴りも、もう片方の空いている手でしっかり受け止めた。「Creature Hunters」では、PvP(Prayer versus Player)が禁止されており、一切プレイヤー同士で戦うことはできなかった。しかし、この世界ではそのような縛りはないようだ。
・・・というか、こいつらの攻撃がめちゃくちゃ遅いんだが・・・。申し訳ないけど、まだ『アルマフェルゼン』の方が俊敏だったぞ・・・。
「なっ!?お、お前らやれ!!」
俺が攻撃を全て受け止めたことに驚き、男性Cはすぐに男性Aと男性Bに追撃するよう指示した。明らかに卑怯な行為だが、むしろこの連中なら、それをして当然だと思ってしまう。
「遅すぎるんだよな・・・。」
「「「グハッ!!!!!!」」
あまりにも遅すぎる行動に嫌気がさした俺は、ある程度手加減しつつ、全員の鳩尾に一発ずつストレートパンチをお見舞いした。もし全力で殴っていたら、骨を砕いて内臓を抉っていたかもしれない。そう思えるほど、なぜか力が漲っているのだ。もちろん、激怒しているというものある。しかし、それを抜きにしても、PvPになった瞬間、相手の行動がめちゃくちゃ遅く見えることも含め、途轍もないパワーが発揮できるようになった。
「よし、じゃあ歯を食いしばれよ~。アリアに謝るまでは、絶対にやめないからな~。」
俺はうずくまっている男3人に、平手打ちをし続けた。最初は全員、生意気な口を利いていたが、50発を超えたあたりから急に大人しくなり、100発近くになってくると、態度が急変した。
「「「す、すぴまべんでした!!」」」
無数の蜂に刺されたのかと思うぐらい、3人の顔は見事にパンパンに膨れ上がった。そして、頬が圧迫されているせいで、発音が少し変になっている。
「いや、だから、俺に謝ってもやめないって。ほら、98発目~!」
「「「ア、アリアざん、す、すぴまべんでした!!」」」
突然始まった俺のお仕置きプレイに驚き、後ろを振り返っていた若干引き気味のアリアに、男性3人は土下座をしながら、謝罪した。
「えっ、何、アリア?・・・聞こえない?はい、99発目~!」
俺はアリアの方に耳を傾け、アリアの心の声(嘘)を聞き取った。
「「「ア、アリアざん、す、すぴまべんでした!!!!!」」」
「アリアには、もう二度と近づかないよな?」
「「「は、はい゛!!!!!!」」」
「よし、じゃあ、歯切れが悪いから、最後100発目を食らってもらって、終了~!」
心地よいビンタの音が3つ、ハンターズユニオン中に響き渡り、男性A~Cはその場に気絶したのだった。ハンターズユニオンにいた人々は、俺の方を見ながら顔面蒼白になっていた。
この一件以降、俺には「大悪魔ルシファー」という不名誉な二つ名が付けられたのだった・・・。
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