第6話 新たな仲間
・・・真っ黒なコート?それって、「シュヴァルツシリーズ」のことか?でも、最強のハンターって誰だろ?
俺は、アリアの発言内容と意図が分からず、その場に硬直してしまった。
「あっ、すみません。言葉が足りなかったですね。」
アリアは慌てたように、発言の意図を説明した。
「昔、マm、お母さんが言っていたんです。『真っ黒なコートに身を包んだ最強のハンター』に命を救われたって。そして、できればその人のギルドに加入してほしいって。」
「なるほど・・・。」
「私は両親を救ってくれた、その人のギルドに加盟することが目標の1つなんです。だ、だから、ル、ルシファーさんがその人じゃないかなって・・・。」
「・・・・・・。」
俺は全然アリアの両親を知らないが、仮に「Creature Hunters」のNPCだとしたら、何らかのクエストで結果的に命を救ったのかもしれない。ただ、それが俺なのかは正直分からない。HR999のプレイヤーは数百人したが、「オーバーロード」の称号を手に入れたプレイヤーは確か、俺を含めて5人しかいないはずだ。その全員が「シュヴァルツシリーズ」を揃えていたかは定かではないが・・・。
「ちょっと待ってくれ。」
「?」
悩みに悩んだ俺は、装備変更で「ギラファシリーズ」から「シュヴァルツシリーズ」に変えた。
「えっ!?ま、まさか、や、やっぱり、ル、ルシファーさんが・・・!?」
「いや、アリアの両親を救ったのが俺とは言い切れない・・・。」
「ど、どういうことですか!?」
「この装備を手に入れることができるのは、俺を含めて5人いる。俺以外の誰かが、アリアの両親を助けた可能性も十分あるんだ。」
アリアは俺の言葉を聞き、少し複雑そうな表情を浮かべたが、すぐに元の顔に戻り、そして俺に可憐な笑顔を向けてきた。
「・・・分かりました!私なんかで良ければ、ルシファーさんのギルドに喜んで入ります!」
「えっ、い、良いのか!?」
予想外の発言に、俺は狼狽してしまった。本音を言えば、まぁまぁの確率で断られると思っていた。
「ルシファーさんは、私の命の恩人ですから!それに、何となくですが、私の両親を救ってくれたのはルシファーさんの気がします!もし、万が一、違うかったしても、私はルシファーさんに好感を持ちました!足を引っ張ってしまうことが多々あると思いますが、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、末永くよろしく頼む!本当にありがとう!」
俺とアリアはお互いに最高の笑みを浮かべ、固い握手を交わした。これが、のちに「史上最強」と謳われるギルドが結成された瞬間である。
「ごめん、まだギルドを創設してないんだけど、この『アルマフェルゼン』の解体を早速お願いしてもいい?もちろん、報酬はあとから払うから。」
「お安い御用です!・・・と言いたいところなんですが、専門学校を卒業したばかりで、クリーチャーの解体自体にあまり慣れていないんです・・・。少し失敗するかもしれませんが、大丈夫ですか・・・?」
アリアが申し訳なそうな顔で、俺の顔色を窺ってくる。俺は別に『アルマフェルゼン』の素材が目的ではないので、全然問題ない。むしろ、失敗することでより成長できるので、どんどん解体してもらいたいものだ。
「そんなことは、全然気にしなくていいから。アリアが思うように解体してくれたらいいよ。」
「あ、ありがとうございます、ルシファーさん!」
そう言うと、アリアは嬉々とした表情で、真っ二つに分かれた『アルマフェルゼン』の解体を進めていった。他方で、俺は今後、アリアに様々なクリーチャーの解体経験を積ませたいと考えた。もちろん、アリアの解体の経験値を上げるのが最大の目的だ。しかし、もし俺が狩猟難度S以上のクリーチャーを狩った際に、アリアが解体できなければ素材すら手に入らない。基本的に、俺が求める素材のほとんどは、狩猟難度S以上なので、アリアには最低でもそのレベルには達成してもらわなければならないが、果たして大丈夫なのだろうか。
「専門学校では、全てのクリーチャーの解体について学んだのか?」
「そうですね、一応はあらゆるクリーチャーの解体方法や理論について勉強しました。ただ、解体実技の授業は、狩猟難度Aまでしか存在しないので、狩猟難度S以上のクリーチャーについては解体知識しかないです・・・。」
・・・う~ん、まぁ知識さえあれば十分か。あとは、実践で経験を積んでいくしかない。
「でも、狩猟難度S以上のクリーチャーを解体することなんて、生きている間に1度あるか・・・」
「いや、アリアには数えきれないくらいやってもらうよ?」
「・・・・・・え?」
アリアの解体する手がピタッと止まり、おもむろに顔を俺の方に向けた。
「・・・じ、冗談ですよね?」
「いや、大真面目だけど?」
アリアは驚きのあまり、口を大きくあけて固まってしまった。面白いことに、目も点になっている。
「ただ、今すぐにというわけじゃない。アリアには、狩猟難度Aまでのクリーチャーで何十回も経験を積んでもらって、それから狩猟難度S以上のクリーチャーをお願いしようと思う。」
「な、なるほど・・・。ルシファーさんの期待に応えられるよう、頑張ります!」
アリアは、決心したように両手をグッと握り締めた。ギルド結成からどんどん話が進んでいくが、アリアは俺に絶対に食らいついてやるという強い気概を感じる。ひょっとすると、将来的には超大物になるのかもしれないな。
「そういえば、これからの1日のクエスト回数だが・・・2回ぐらいで大丈夫か?」
「えっ!?い、良いんですか!?」
「そりゃ、解体者であるアリアの健康が一番大事だからな。報酬金も折半にしようと思う。」
クソギルドに搾取されていたアリアは、所持金も心許ないはずだ。俺は、そこまでカツカツの所持金ではないので、折半が一番綺麗な形だろう。本音を言えば、アリアが3分の2で良いのだが、逆にそこまですると、アリアに変な気を遣わせてしまうかもしれない。というわけで、折半が最も妥当と言える。
また、クエストに関しても、狩猟対象のクリーチャー以外にも道中で、狩猟難度Fの小物を何体か討伐すれば、アリアの解体経験も増やせるはずだ。クソギルドの連中のように、1日何十体もの解体をさせるわけがない。
「ル、ルシファーさん・・・や、優しすぎますよ・・・。」
色々と溜まっていたのだろう、アリアは堰を切ったように涙を流し始めた。過去の話をしているときも、きっと我慢していたのだろう。俺は泣きじゃくるアリアの背中を優しくさすり、涙が止まるのを待った・・・。
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