第5話 イマ◯ン◯レイカー

「………え?」。


「…………」。


「………えぇ?」。


「…………」。


「………逆ナ──(ン?)」。


「───珍しいな」。


まだワンちゃんあると思っている、24歳フリーターがありもしない幻想を吐き出そうすると女がかき消す様に口を開く。


珍しい?


「珍しいって………い、いやな?いつもは高校の連れと仲良くワイワイ呑むんだぜ?ど、同級生、全員就職して忙しくなって会う頻度減ってるけどさ。ケン君とかたっちゃんとか。それにたまには一人でしっぽり呑みたい夜だってあったりなかったり?だ、だから俺は別にぼっ、ぼっちじゃねぇからッ!!」。


勢いよく立ち上がると言い訳がましい思いの丈を一息で吐き出す。静まり返る酒場 全員がタモツの方を振り向き、流れる静寂。呆気にとられる女、脂汗が背筋に一滴流れるのを感じると恥ずかしそうにストンと座る。すると何事も無かったかのように酒場は再び賑わい出す。


「べ、別に『賑やかな酒場で一人さみしくやってるんだこの人』とか思ってないから!!ね?ほら現に私も…」。


何とかフォローしようとする女に、タモツは赤面を両手で覆う。


「もういいよ……それで珍しいって何さ」。


女は息を落ち着かせるために飲み物を一口、グラスをテーブルに置くと話を始める。


「君の微精霊のこと」。


「───微精霊?」。


これはまた、ずいぶんとファンタジーな単語が出てきた。タモツは眉をひそめながら、ジョッキを傾ける手を止める。


「そう微精霊。君の微精霊、歪なほどに混じりあってる」。


「まず、微精霊がわからん、マリモ的なもん?」。


「マリモは知らないけど、微精霊は君の魔臓マギウスオーガンから漏れ出たエネによってくる粒子みたいなもののこと」。


「ふむふむ.....?」。


「よってくる微精霊の色で使える魔法の性質が判断できるんだけど.....て、ほんとに知らないの?」


おお、なるほど、ひとつもわからん。ファンタジーがファンタジーでファンタジー説明しているのはわかる。話聞けば聞くほど不思議が増える。不思議。

つまりエネってのがいわゆるマナで?微精霊をみたら使える魔法の属性がわかるよ的な感じかね.......。


「ん?────え、俺、魔法つかえんの?」。


「使えるでしょ」。


女は当然とでも言うようにさらりと言い放つ。それがどれほど常識外れの言葉か、彼女にはまったく自覚がないらしい。


タモツは手元のジョッキを見下ろしながら眉をひそめた。

「いやいやいや、待て待て待て。俺はただのフリーターだぞ?魔法なんか、見たことも使ったこともないんだが」。


「意識してないだけだよ。誰でも微精霊を持ってるし、エネはみんなの魔臓から漏れてる。あとは、どう使うか分かってるかどうかの問題」。


にわかには信じられない。魔臓ってなに?ジャパニーズ健康児なんだが?現代医学の敗北?このまま年取って落ちぶれていくもんだと思ってたけど、もしかして異世界ファンタジー楽しめんの?


タモツのしかめっ面は、いつの間にか気持ちの悪いにやけ面に代わっていた。尚、女は引いた。


「それで、それで?俺の微精霊がどうしたって?」。


突然、喜々としだすタモツに女は恐怖を覚えつつも会話を続ける。


「だから君の微精霊、二つの性質が歪なほど混ざりあってるんだって。二つの性質を持ってるのも稀少だし、ここまで混ざっているのも見たことがない」。


性質ってのは、いわゆる属性みたいなもんか。

タモツは興奮した様子でテーブルに身を乗り出した。


「それで?俺は何の属性に適正があるの?」

顔を輝かせるその様子に、女は一瞬たじろいだが、ため息をつきながら言葉を続ける。


「それが問題なんだってば。普通なら一つか、珍しくても二つの属性が分離して存在するんだけど、君の微精霊は……どう説明したらいいかな……混ぜすぎたカレーみたいになっててさ、どれが何の味なのか分からない状態なの」


「混ぜすぎたカレー……?」

タモツは少し呆気に取られたが、すぐにその例えを無視して妄想を広げ始める。


「いやでもさ、たとえば火の属性とかだったら、俺、火を操る魔法とか使えるわけだろ?ほら、バァーンって火の玉出したり!敵を一瞬で燃やす魔法剣士みたいな感じで」

両手を大げさに振り回しながら、空想の火の玉を投げる仕草をするタモツ。


「……うーん、火はないね」。


「おっ!じゃあ次は水だな!水もいいぞ!大海原を操るみたいな、そういう神秘的なやつ!ほら、水の刃とか氷の盾とか!」

タモツは空気を切るように手を振り、周囲の視線を完全に無視して声を弾ませる。


「あぁ、うん水は少し混ざってる。」


「おお、他なら風もありだな!風ならスピード感があってカッコいいし、空飛んで敵を蹴散らすんだ」

勢い余って椅子から立ち上がり、まるで風に乗った戦士のポーズを取るタモツ。


「風もないね」。


女は呆れ顔で彼を見上げた。


「────あ、土だ、間違いない」。


「土すか…じゃあ俺の性質って──」。



「うん、しいて言うなら───











────『泥』」。


「...........。」。



















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