第4話 便利屋

「────ふぅ...」。


商人街「メルカド」。その賑わいの中に、静かに佇む小さな果物屋があった。夫婦で営んでいるその店は、鮮やかな果物が店先に並べられ、太陽の光を浴びて輝いている。甘酸っぱい香りが道を通る人々を引き寄せ、見た目にも美しい赤や黄色の果物が籠いっぱいに積まれていた。


本日、タモツは、そんな果物屋で日雇いの雑用係として働いていた。この異世界に迷い込んでから、戦闘も魔法もできない彼がたどり着いたのは、町のあらゆる雑事を請け負う便利屋だった。


「ありがとうね、タモツ君。おじいさん腰やっちゃって」。


タモツは果物の入った木箱を抱えたまま、リタに言った。



「若さだけが取り柄なんで任せてください。おいイリスのおっちゃん、俺やるから無理すんなって」。


「まだまだわしは現役じゃい、なめるなよ小僧」。


「おっちゃん倒れると俺が困まンの、座ってせんべいくっとけ」。


「なんじゃとっ!!貴様っ」。


怒り狂うイリスの戯言をタモツは聞き流す。リタがイリスをなだめ、タモツは店先の籠に果物を並べ直した。


──────────────────────────────────────────────


「すまないね、タモツ君…こんなに低い給料で働かせてしまって」


仕事終わり、タモツが重い箱を運び終えて腰を伸ばすと、リタが申し訳なさそうに言った。優しい目でこちらを見ているが、その瞳には微かな不安の色が浮かんでいる。


近年の税収が厳しく、街の外で取れる果物の流通も少なくなり、売上は落ち込む一方。主人のイリスは腰を痛め、重い箱を持つこともできない体になっていた。どうにかして続けていこうと努力をしているが、なかなか生活が楽にはならなかった。


「やめてよリタさん、仕事もらえて感謝してんだ俺」。


タモツは、取ってつけたような笑顔を作り、精いっぱいの声で答えた。本当は、給料が低くて毎日の食費を捻出するのもやっとだが、それを口にすることはなかった。


「そうかい、ありがとうね、またお願いするよ」。


「おう、ぜひ頼む。おっちゃんもリタさんのいうこと聞けよ」。


「ふんっ」。


そうして果物屋を後にした。


─────────────────────────


「───ファナル大兎のオーブン焼き、茹でオオゾラマメ……後エールを一杯」。


冒険者ギルドに併設されている酒場、端っこの席に付き注文を取りに来たお姉さんにいつものセットで頼む。


こっちの世界に来て驚かされたのは食の文化だ。物語等で味に無頓着そうに書かれる異世界人達の食事風景だが意外にもそんな事は無かった。


肉に獣臭さや硬質的な問題は無く、野菜特有の独特の苦みや青臭さも感じない。


食レポなんかする気は毛頭無いが、それは確かに『美味しい』と言える代物であった。


そしてそれと同時に日本の『食』というジャンルで金を稼ぐという浅はかな計略も砕け散ったのだった。


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皿には兎肉が3切れほど残り、残り少ない豆をちまちまとつまんでいた。

若干酔いが周りウトウトとしていると


「───しつれい、この席いいかな」。


頭上から女の声がした。


おお、異世界美人。


薄汚れたローブを身にまとった、長い髪の女だった。年の頃は同い年位だろうか、肌は透き通ったように白く。金の髪の毛が目立つ。目は大きく釣り目気味で鼻は高かった。それぞれのパーツが綺麗に整い黄金比とも言える所に位置し、それは有無を言わせず美しい顔立ちであった。


女の顔を見上げ次に辺りの席を見回した。店内は帰ってきた冒険者達で大賑わい、状況を理解したタモツは「……どうぞ?」とだけいった。


女は「ありがとう」と言って席に付く。


少し時が流れる。タモツがうつ伏せになって寝ているとチクチクと刺さるような視線を感じる。少し眠りたいがどうにも気になって眠りに付けない、酔いも冷めてきた。


恐る恐る顔を上げると───




────ガン見、マジ、ガン見

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