麦藁帽子と散弾銃

アルティメット世代

追憶

 “戦争なんて、関係ないと思ってた

平穏が、当たり前だって思ってた


 教科書よりもずっと残酷で、ずっと続く

悪夢から、眼を反らしたかったんだ”


 五年が経とうか。

地方の生活にはすっかり馴染み、幾人かの友人も出来た。昨日を取って付けたような今日を生きて、僕は今ここにいる。


 地元にはもう帰れないかな。帰る意味は有るのだろうか。帰れたとしても、残っているのは瓦礫だけかもしれない。そう思うと、諦められる気がする。故郷っていうのも、所詮そういうものかと思ってしまうのだ。


 正午を知らせるサイレンが鳴り響き、食糧の配給が始まる。受け取ったのはパン、少しの野菜、スープの素だった。


 ああ、足りないよ。

足りないけど、文句は言えないな。

僕が呑気に昼寝をしている間、誰かが死んでいる。撃たれて、刺されて、吹き飛ばされて。きっと僕は良い方なんだろう。

 

 昼飯を済ませ、寝っ転がる。

いつもの青空、今日も澄み切っている。

こんな日常が、いつまでも続くのかな。

続いて欲しいけど、どうだろう。

そしたら、きっと僕は……………


 サイレンが響く。


 正午のサイレンは先程鳴っていた筈だが。

妙な違和感を感じ、窓際へと向う。


 目線の先の街は、地獄へと変わっていた。

崩れ落ちた鉄塔、降り注ぐ焼夷弾の雨。まさに絶句といった光景であった。


 僕は走った。走った、走った、走った。

どれ程走っただろうか。体力は底を付き、眼の前が歪んでくる。


 倒れ込んだ。


 記憶はここ迄だった。















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麦藁帽子と散弾銃 アルティメット世代 @garisuke

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