スローペース・スローライフ～園芸とクラフトのためのVRMMO～

28 《レッドベリー》

　『ウィスパーの森』に入ってから他のプレイヤーさんの姿を見なかった。

　ノンアクティブで遊んでいる私には、他のプレイヤーさんは黒シルエットとして見えるんだよね。

　急にウサギが茂みから出ても驚いてしまったのだから、音も無く視界の隅に見えたら絶対驚く。

　薄暗い森だし、お化けだと思っちゃうかも。

　やっぱり皆【第二の街ジブル】へ行っているのかな。

　チュートリアルクエストにもあったし、王都って言っていたから【モノーン】より色んなモノがありそう。

　私はゲームに慣れるまでの間は【モノーン】に留まるつもりだけれど、サクサク進めたい派の人はすぐに向かっているのかな。

　というよりあえて次の街とは逆側に進む理由ってあんまり無い？

　とにかく他に誰も居ないのは、秘密のお花畑って感じで良い。

　綺麗で落ち着く、特別感が合って凄く気に入った。

　『ウィスパーの森』はまだちょっと怖いけれど、ココに来るためなら頑張れる。

　そのくらい私にとって価値がある。

　……正直、薬草の品質上限が上がっても私が採れる品質は★2止まりばっかりだった。

　だからこのメモ調べても意味あるの？って疑問が頭を掠めていたんだよね。

　★3見つけられたし、もういいかなって。

　でもこのお花畑を見つけれて、途中で帰らなくて良かった。

　そう心から思える。

　かすかに水の音が聞こえる。

　どこからだろう？

　そう思って音を頼りに探してみるとお花畑の端に小さな湧水を見つけた。

　膝丈も無い高さくらいに岩が重ねっていて、そこからチョロチョロと水が流れている。

　その前に少し水が溜まっているけれど、流れる水が少ないからか水溜まりになっているだけで小川にはなっていなかった。

　山肌じゃないのに岩の隙間から湧水が出るなんて、そういうところはゲームなんだなって思う。

　それとも私が知らないだけで、現実でもこういう事ってあるのかな。

　しゃがんで見ると近くの《プルモナリア》と良い感じに絵になっている。写真集とかでありそう。

　ふとさらに奥に赤い何かが見えた。

　もしかして、と思ってその茂みを確認する。

　低木の葉に隠れるように赤い実が成っていた。

　なるほど。だから今まで見つけられなかったんだ。

　採取依頼を見つけた時（レッドベリー）って聞いたこと無いけれどBOOのオリジナル果物なのかな、って思っていたけれど見た目はブラックベリーを赤くした感じだった。

　念のため〈目利き〉で確認してみる。

《レッドベリーの木》

ランク：2

品質：★3.3

重量：―失敗―

分類：―失敗―

―失敗―

効果：―失敗―

　あれ、《レッドベリー》じゃなくて《レッドベリーの木》？

　〈目利き〉を実に使ったつもりだったけれど、葉が目線を遮って《レッドベリー》全体に〈目利き〉されちゃったのかな。

　……そういえば《プルモナリア》は生えている時は《プルモナリア》で採取した後は《プルモナリアの花》だったよね。

　モノによって採取できるところが複数あったりするのかな。

　例えば花と葉みたいに。

　そんなことを考えながら《レッドベリー》を採取しようと《サバイバルナイフ》を出す。

　そして《ナイフ》を当てようとして、固まる。

　……この枝、凄く細い。

　細すぎて《サバイバルナイフ》を使うとケガをしてしまいそう。

　少し悩んで《サバイバルナイフ》を仕舞う。

　枝は細くて簡単に動くから《ナイフ》を使おうとすると固定しないと切れない。

　薬草と違って枝の下にある柔らかい果肉を持つことになる。

　切る所から近いからホントウに手を切ってしまいそうだった。

　それに果肉を持つってことは、力加減を間違えたら《レッドベリー》が傷んでしまうかもしれない。

　そうなったら結局品質は悪くなってしまう。

　それなら安全な方が良いよね。

　素手でプチプチと摘んで採取する。

　周囲にある低木の木を探してみると、意外と《レッドベリーの木》だったので少しずつ採取しても20個採った。

　《レッドベリー》

ランク：2

品質：★1.0

重量：0.05N

分類：素材（植物/一般）

日陰を好む甘い実。

効果：―

　インベントリで詳細を見て、あれ？と思った。

　《レッドベリー》の品質が全部★1.0になっている。

　今まで同じように採取していても★0.5くらいは誤差があった。

　だから今回もそうだと思って採取依頼より多く、20個採取してから確認したんだよね。

　うーん、薬草は毎回別の株を採取するのに対して、こっちは《レッドベリーの木》が共通だからとか？

　でも複数の《レッドベリーの木》から採取しているから他に理由があるような。

　しばらく考えたけれど全然候補が思い浮かばない。

　とりあえず保留にして、また同じように品質が一緒になった時に共通点を探してみよう。