15歳で職業(ジョブ)が与えられる世界

@okosamalunch

15歳で職業(ジョブ)が与えられる世界の話

今日は年に1度の儀式の日だ。

15歳になった者が強制的に受けさせられる、未来を決める儀式。

それは「職業(ジョブ)」を神様から授けられるという不思議な儀式。


この儀式では、望んだ職業が出る事は珍しいと言われている。

跡取りだからとか貴族の子供だからとか、一切関係しない。

宿屋の跡取りなのに“剣士”の職業が与えられれば、騎士になる為に国に徴兵のように連れて行かれてしまう。


ただし貴族の場合は、ある程度考慮される。

跡取り息子に“商人”の職業が与えられても無視出来る。

まぁ、貴族なんて職業が出たという話を聞かないので、そんなものなのだろう。


さて、何でこんな事を考えているかというと、自分が儀式を受けるからだ。

正直、怖い。

自分の家は農家だし3男なので、別にどんな職業が出ても良いんだけど。

出て欲しく無い職業もある。

それは“処刑人”や“冒険者”だ。


“処刑人”は数年に1度出るらしい職業。

これになった者は国に仕えて、死刑執行人になるらしい。人殺しなんてしたくない。


“冒険者”は聞こえは良いが、分かりやすく言えば日雇い労働者だ。

冒険なんかしない。傭兵のような護衛の仕事をしたり、狩人のように山に入り野草採取や狩りをしたり、モンスターを退治する危険な職業。

まともな仕事を出来ない者が最終的に行き着く仕事だ。

金になるモンスターを倒せば一攫千金も夢では無いらしいが、そんな者はほんの一握りで、ほとんどがのたれ死ぬらしい。

この職業も強制では無いらしいけど、そういう素質があるんじゃないかって差別の対象になってたりする。


そして、一番怖いのが“死”だ。

神様が職業を入れる時に、容量が足りずに入らない事があるらしいのだ。

その場合どうなるのか。それが死だ。聞いた話では口から血を流して死んでしまうとの事。

数年に1人はそういう人が居るらしい。怖い。


まぁ大半が“農業”や“商人”らしいので、そっちになる事を期待したい。




儀式は、王都にある大きな教会で行われる。

この為に王国内の全ての15歳が集められる。

旅費等は全て国が払ってくれるので、旅行気分の者も多い。

何日もかけて行われるので、自分の番が来るまでは王都観光も出来る。

自分も少しウキウキしてるのはナイショだ。


昔「何で国がお金出してくれるの?」と聞いた事がある。

その答えは「有能な者を発見し国で雇う事が出来るから」だった。

確かに田舎で有能な職業が出た場合に、田舎だと他国に攫われる可能性もある。

今は無くなったそうだが、昔は国境近くの村では14歳を攫う事件が頻発してたらしい。




そんな事を考えてたら説明が始まった。

ふむふむ。


色のついた紙を渡され、その色の日に教会に行くのか。

読み書きの出来ない者でも分かるように色分けなのね。自分も読めないから助かる。





3日後。

とうとう自分の日になった。


教会に入り席につくと神父さんから説明が始まった。

正面左にある扉を一人づつ呼ばれたら入る。出てくる時は正面右の扉から。

判明した職業は人に話しても良いが、その結果どうなっても知りませんと。これは差別対象になる可能性があるからだね。


こうして儀式は始まった。

大体1人5~10分くらいか。入ってから出てくるまでそれくらいの時間がかかっている。

そりゃ1日じゃあ終わらないよな。

聞いた事の無い職業が出た時は、色々説明もしてくれるという話だし。


おっとそろそろ自分の番が近い。ドキドキするなあ。


「入りなさい」

「は、はい」


通された部屋は狭く暗い。

部屋の真ん中にテーブルがあり、向かい合わせに椅子が1つづつ。片方には神父さんが座っている。

その左右には騎士のような人と貴族のような人が立っている。


「座りなさい」

「は、はい」


椅子に座ると、テーブルの中央に置かれている謎の物体に手を乗せるように指示された。


「そのままじっとしていなさい」


ほんのりと謎の物体が暖かくなる。


「ふむ……。君の職業が分かったよ。君は“選ばれし者”だ」

「え、選ばれし者……ですか? それはどんな職業なんですか?」

「落ち着きたまえ。それよりもこの職業を貰った者は体調に異変をもたらす事が報告されている」

「ええっ?! だ、大丈夫なんですか?!」

「心配するな。ちゃんと対策はしてある」

「そうなんですか?!」


職業が何か分からないが、そんな事よりも体調に異変が出るって事の方が問題だ!

焦っていると、貴族のような人が小瓶を出してきた。


「これを飲みなさい。少々苦いかもしれないが、薬は苦い物だからね。少し我慢すれば楽になれるよ」

「あ、ありがとうございます!」


緑色の液体が入った小瓶を受け取った。

家で熱が出た時も薬草を煎じた不味い薬を飲まされたなぁ。

味を感じる前に飲み干してしまうのがコツだ。


自分は渡された薬を一気に飲み込んだ。


「そ、そこまで苦くなかったです。むしろ甘い……?」

「味は調整されてるからね。不味いより良いだろう?」

「そうですね」

「ところで体調はどうだい?」

「別に異変はな……あ、あれ…………なんか体に力が…………はいらな………………」


く、苦しい! 息がしずらくなってきた!!




薄れゆく意識の中、3人の声だけが聞こえる。


「今年1人目か……」

「何故“王”なんて職業が毎年出るのでしょうね?」

「さあな。神様のやる事は理解出来ない。俺も“処刑人”なんて職業だしな。まぁお陰で何も感じずに処刑出来るんだが」

「……この子が王になっていたら、どんな国になったんでしょうね?」

「考えるだけ無駄だ。厄介な職業が出たら処分するだけ。それで国は安定しているんだから問題無いだろ」

「そもそも、庶民に王なんて出来る訳がない。それよりもそろそろ楽にしてやれ。まだ意識があるっぽいぞ」

「そうだな。恨むなら“王”なんて職業をお前に与えた神様を恨めよ」

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