第4話 独白
学問の楽園、学びの園。それ故にここは学園と呼ばれ、私はそれらを管理する最高責任者だった。
「学園長、よろしいのですか?」
「…何がだい?」
別室で面接内容を書き留めていた秘書がそっと声を漏らす。聞きたいことは、分かっていた。
「彼女は女神の純血を持ち、剣を握れば悪鬼羅刹すら怯え固まる実力者です。学園創設以来の逸材であることは間違いないでしょう、それをサードとして入学など…。」
言いたいことは分かる。サードとはすなわち”意欲のみ”しか認められなかった者の集まりだ。その半分が学園の水準について行けず退学し、残った者たちも卒業試験を合格できず最後には諦めてここを去る。
「…てっきりプライドの高い血統至上主義者だと思っていたんだよ。誤解しないでくれ、周囲がそのように育てたと思い込んでいたんだ。だが…違った。彼女は私の発言に苛立つこともなく、それを当然だと心から思っていた。」
肥え太った自尊心を、その鼻っ面をへし折ってやるつもりだった。しかし意外にも彼女は謙虚な性格で、自身を”美しさ以外何も持たない”者であると認識していた。
「大丈夫でしょうか?ここに集まる人間は上昇志向が高く、下の人間を見下す傾向にあります。純血と謳われた美貌の少女がサードでは、色々と問題が起きるのでは…。」
「……しかし、一度した発言は取り消せない。」
この学園が公正であると示すため、学園長および教師陣の発言は全て記録、管理されている。言ってしまったことの訂正はそう簡単ではないのだ。
「…ビュラスの城から抗議の連絡が来るだけで済めばいいのですが、下手をすれば学園長が女神侮辱罪に問われるなんてことも…。」
「ああそんなことを言うな、不吉だろう。それより面接を続けよう、次は?」
「クローウェル・ブライです。」
「ああ、例の最年少魔法官の…。」
知恵と魔法を司る女神、マージテルシアの城に住み込みで高位魔法官として働く彼は、間違いなく天才だった。たとえその身体に女神の血が残らずとも。
「血中の女神粒子濃度ゼロ…ここ数年ではよくみられる人間ですが、それでもここまでの実力を有しているのは素晴らしいですね。」
「マージテルシア城主の白百合姫とも懇意にしているらしい。血統至上主義者どもの間でよくここまでのし上がってきたもんだ。感心するよ。」
彼のクラスは決めている。ファーストだ。こんなお飾りの面談などせずとも、彼の野心と血のにじむ努力の跡は見てとれる。
「次、クローウェル・ブライ。」
個室で待っているであろう彼に遠隔放送で声をかける。この面接室へ直通の扉を開け放った彼は、ただ一言、
「俺はファーストだ。それ以外認めない。」
黒髪の少年は、その年齢にそぐわぬ仏頂面と低い声を持っていた。
破れた恋は切り絵になる。 かりんとお饅頭 @karin0522
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