体験エッセイ 記念日クルージング

阿賀沢 周子

第一話

 7月末、その週の天気予報が思わしくなかったので、雨天でも順延できるように予約を2日続けて入れておいた。

 が、一日目、ぷかぷかと白雲が浮かび、紺碧の空は高く、絵にかいたような晴れになった。

 娘への誕生日プレゼントには、いつも頭を悩ませてるが、今年は初のクルージング体験を贈った。幸先の良い天気でもある。


 その2週間前、小樽港マリーナへ行く用事がありマリーナセンターハウスに立ち寄った。

 ハウス内にはマリンショップやカフェが入っている。帰り際、その一角でクルージングなどマリンレジャーが体験ができるというポスターを見つけ、置いてあるチラシを持って帰った。

 憧れのマリンスポーツだ。家で詳細を読み込み、ネットでも調べて<ヨット体験クルージング>を誕生祝にと申し込んだのだ。

 自分が乗りたかったというのが本音だが。


 案内のチラシに書いてあるヨットはメインの帆と追い風を受けたりする船首にある帆が1本のヨットだった。ワクワクしながらセンターハウス内の受付へ向かった。

 そこで紹介された船長さんに、ヨットがある埠頭へ案内された。

停泊していたのは、船首の帆が2本のヨットだった。チラシのより大きい。

 乗船前に、船長さんが工程と注意事項を説明してくれた。このコースでは操船や帆の上げ下げを体験できるという。

 港内の海はボトルグリーンに近い透明の青。波の反射光が眩しい。船長とクルーに誘導されてライフジャケットを付けてから、いよいよ乗り込む。


 船外機で移動し始め、桟橋から離れて防波堤の中を外海へ向かう。日差しは強いが、風が気持ち良い。

 最初に娘がステアリングを握った。船長が、遠くに見えている灯台を目標に操作させる。

 乗用車の運転とはいささか違うようで、船首はなかなか目標物の方へ向かない。それでも娘は楽しそうに操船していた。

 しばらくして自分が操作する。娘の後なので楽勝と思いきや、なかなか難しい。

 防波堤の先端の赤と白の灯台の間が港の入り口だという。防波堤の切れ目から外洋へ出るように指示される。海の上の漂流物を避けることや、他の船の位置を見ておくことなども教えられた。


 外洋に出ると、クルーがエンジンを切ってメインの帆を上げた。風向きを知らせる風見がマストのてっぺんについている。風が少ないのでスピードはゆっくりだ。ヨットの向きを変え、船首の追い風用の帆を2本とも張った。

 ヨットの動きは、滑るようにという言葉がぴったり。ちいさな揺れは感じない。ほかの船とすれ違った時に、引き波で揺れるぐらいだ。

 帆には様々な色のロープが付いている。色は用途によって異なる。手動や自動操作でロープが、帆を上げ下げし左右の位置を変える。


 風を受けながらゆっくりと小樽湾をめぐる。帰路に就く頃にはヨットの構造や操縦にも少し慣れ、景色を楽しむ余裕が出てきた。

 クルーが、このヨットは最近アメリカから買った中古であることや、船長が敦賀から1週間かけて運んだことを話してくれる。

 娘も私も、クルーの話が耳に入り、海上を漂う大きな材木に気が付くくらいゆとりを持てていた。


 出航と逆の工程を経、桟橋へ戻り、エンジンが切られ、体験は終了となった。急に静かになって空気が重くなったような気がしたくらいだ。

 最後に、船長がキャビンを案内してくれた。広くてびっくり。寝室が二つ。バスルームが二つ。キッチンと洗面台があり、本棚のついた机まである。仕様はナチュラルカラーのオークだ。

 ヨット体験はこれで完璧。憧れのクルージングは想像力を高めた。太平洋を横断した堀江さんの生活を、微々たるといえども理解できたではないか。

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体験エッセイ 記念日クルージング 阿賀沢 周子 @asoh

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